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超訳『竹取物語』十 富士の煙

※この訳は超訳です。あえて原文通りの表現よりも俗っぽくしています。また、所々省略やアレンジを加えております。

なお、超訳にあたって、室伏信助氏の『新版 竹取物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫)を参考にさせて頂きました。室伏さんの訳に甘え、緻密さと筆力に脱帽しました

十 富士の煙

 そのあと、翁と嫗は血の涙を流して想い乱れるが、何のかいなく、あの手紙を周囲が何度も読んで聞かせるも、「こないな命なぞ、なんもいらへん。なんやねん、これ。誰のためのや、なんもかも、いらんねん」と言って、薬も飲まずに、起き上がりもしないで、病に伏している。
 中将は、人々を引き連れて帰参し、帝に全てこと細かく奏上した。薬の壺に手紙を添え、差し上げた。帝はご覧になって、静かに、しかし酷く心を動かしなさって、何も召し上がらず、管弦のおあそびなどもなかった。
 大臣や上達部(かんだちべ)をお召しになり、「どの山が天に近いか」とお尋ねなさる。「駿河の国にあるという山が、この都も近く、天も近うございます」
 帝はこれをお聞きあそばして、
『かぐや姫に逢うことはもはやなく、哀しみの涙に浮かんでいるようなわが身にとって、不死の薬なぞなんであろうか』
 かぐや姫の差し上げた不死の薬に、また壺を添えて、御使いに下される。調石笠(つきのいわかさ)を勅使に、駿河の国にあるという山の頂上に持って置くようお命じになり、山頂でなすべきことをお教えになったーーお手紙・不死の薬を並べ、火をつけて燃やすようにーーと趣旨をお命じになった。
 その趣旨をうけたまわって、兵士らを大勢引き連れて、山に登ったことから、その山を「富士の山」と名付けたのである。その煙は未だに、雲の中へ立ち昇る、と、言い伝えられている。

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