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家族残酷物語

その人がだらしがないから、そうなる訳ではありません。

むしろ、優しかったり、素直な人ほど、育つ環境によっては、【自分】を失い、生きづらさの沼に堕ちて行きます。

今日は、ある日忽然と姿を消して12年になる従弟のヒロシ(仮名)について話させて下さい。

ヒロシは母の二つ違いの妹の長男で、私より四歳年下です。

姉一人、妹が二人の四人兄弟です。

母の家系は機能不全家庭が連鎖する家系です。

連鎖しているので、私の家庭も、ヒロシの家庭も機能不全家庭です。

私も虐待は受けましたが、ヒロシが受けた虐待は、それは過酷なものでした。

私もこの目で、ヒロシが親から殴られるのは何度も見ています。

目の周りにパンダの様に青あざをこさえていたことも有りました。

肉体的な虐待を加えるのは、主に父親だった様ですが、母親もヒロシに手を挙げることも有りました。

父親は何かとヒロシを怒鳴っては、何時間も正座させるのがお決まりだった様です。
そして、その挙げ句、青あざが出来るほど殴りつけるのです。

ヒロシは、完全にヤングケアラーでした。

家族の誰よりも早く起きて、学校に登校する前に家の周りを掃き掃除するのが日課だった様です。

学校から帰ると、廊下を雑巾がけすることに始まり、家の隅々まで掃除をすると聞きました。

買い物もヒロシの仕事、料理はたまに、洗濯も時々、

勿論、私はヒロシの日常をつぶさに見ていた訳では無いので、人伝に聞いたことが殆どですが、

ヒロシの母も、姉も二人の妹も、口を揃えてそう言っていたので、本当だと思っています。

そして、ヒロシの母も姉も妹も、ひどくヒロシを馬鹿にした調子で話すのです。

「勉強も運動も出来ないから、せめて家事だけは、と思っているんじゃない?男のクセに気持ち悪い」

ヒロシの家族だけでなく、私の母も、他の叔父も叔母も、親戚中でヒロシは「あの馬鹿」呼ばわりされていました。

子供だった私も、口にこそしませんでしたが、皆の言う事を鵜呑みにして、内心馬鹿にしてました。

ヒロシは、中学の卒業間近のある日、一度目の家出をしました。

細かい事は覚えていませんが、家出をしては連れ戻され、殴られ、を何度も繰り返し、

とうとう家を離れ、遠く離れた都会で、住み込みで工場に勤めている、と聞きました。

私も家出ではありませんが、機能不全家庭から逃れて、遠く離れた街で暮らしたので、

ヒロシの事は忘れていたのですが、彼は最初に住み込みで働いた工場に20年以上勤め、

工場が閉鎖になり、親元に戻りました。


ヒロシの父親は、ヒロシが遠くに居る間に亡くなりました。

姉と妹二人も結婚したり離婚したりしながら、母親とは別に暮らしているので、

ヒロシは母親と二人で暮らしました。


私は、故郷を離れてから、自分の生きづらさと対峙しました。

すると色々なことが見える様になりました。

私の生まれ育った家庭は、機能不全家庭だったこと、

私は虐待されていた、ということ、

私ばかりではなく、母も親からかつて虐待されていた、ということ、

幼い頃、愛だと信じたものは、虐待を隠す仕組みだったこと、


ヒロシは、虐待を隠す仕組みの中で、家族に尽くせば尽くすほどに、利用されていた、ということが、私には見えました。

ヒロシの父親は、自分の抱える無価値感から目を逸らす為に、ヒロシを殴りました。

ヒロシの家族は、無価値感から目を逸らす為に、ヒロシを嘲り、笑いものにしました。

ヒロシが、だらしがない奴である限り、機能不全家庭の秘密は、隠し通せます。

虐待は兄弟姉妹全員に、平等に加えられる訳ではありません。

虐待する親は、間違いなく心に重大な無価値感を抱えています。

虐待は、その無価値感から目を背ける為に、家族の中の最も弱い子供に向けられます。

弱い子供とは、優しい子、素直な子、反発しない扱い易い子、です。

問題はヒロシ、
駄目なのはヒロシ、

家族はまとも、
お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも妹達も、みんなちゃんとしてるのに、ヒロシだけがおかしい。

私は色んなことが見える様になって、この家族の嘘がハッキリと判りました。


ヒロシは、母親と暮らす様になって、また家をピカピカにする生活を送っていましたが、

子供の頃と違うのは、時に母親に手を上げる様になったこと、です。

母親を蹴飛ばし、以来母親は足を引きずる様になりました。

姉と妹は、「ヒロシは狂っている」と親戚中に吹聴します。

色んなことが見えてしまった私は、

「ヒロシは狂っていない、百歩譲って狂ってしまったとしたら、そうさせたのは誰だ!」

と、口に出そうになり、呑み込みました。

ヒロシは忽然と姿を消しました。

所持金無し、着の身着のままでふらっと散歩にでも出かける様に、消えました。

もう12年も経ちました。


機能不全家庭の連鎖に呑まれて、生命に終止符を打つ人は、沢山いると思うのです。

今も、ヒロシの家族は、ヒロシが諸悪の根源である、と主張します。

今尚、嘲笑するのです。

嘲り笑う様子を見ると、正直寒気を覚えます。

犯人は探せません。

司法も裁けません。

事件ですらありません。

でも、ヒロシはいなくなりました。

皆が加害者で、皆が被害者だと分かっています。

けれども、いなくなって12年も経って、家族に嘲り笑われる彼の人生はいったい何だったのか、そう思わずにはいられないのです。


毎年寒くなると考えてしまいます。

かじかんでても、寒さに震えていても、どっかに居てくれないかな、

なぁ、ヒロシ。



読んで頂いてありがとうございます。
感謝致します。


伴走者ノゾム







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