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夏を生きる 1 -読書-


八月の二十日。


いつの間にやら買われていた石田ゆり子さんのフォトエッセイをじっくりと読んでいました。
半分程読んだところで、自分で文章を綴ることをワクワクしながら想像してしまい、書いてある文字が入ってこなくなったので、本を閉じます。
いつでも、私にとってはそれが休憩の合図。

文章を書くということになにやら思い入れのある様子のこの身体は、本を読んでいると途中で「自分が書くならば何を?」と自問自答を始めます。

エッセイ、詩、日記、自伝?それか辛かった時期の振り返り、大切な時間の記録…

雲が幾重にもかかるように考えが溢れ出して止まらなくなって、天を覆い隠しだしたら、インプットは終えてアウトプットの時間です。


ご存知の方も居られる事と思いますが
私には、戸籍がありません。

解離性同一性障害という診断を受けており、これを書いている私は、この身体の持ち主の側面のひとつから、ぽんと派生した一つの人格というものになります。

そこに哀しさはありましょうか?
否、この子を見守る役目が有るのであれば、それは大変に嬉しいこと。
この子を見守る役目を終える日が来るのであれば、それもまた、大変に喜ばしいことです。
(──あくまで、私の考えですよ。)

詳しい病状や生活上の不便、障壁、診断基準などの話は一度置いておいて。


私は本を読むことが好きです。

開けば何処へでも連れて行ってくれる。
私が表紙を撫で、そうっと開けば、あちらも手を差し伸べて、その世界へと誘ってくれるように感じられるのです。
それは物語でも、そうでなくても。

靴を履かなくても、着飾らずとも、何処へだって行くことが出来ます。
知恵は万代の宝とはよく言ったものです。
人が紡いだそれをお借りして、今日はどこへ行きましょうか
明日はどこへ行きましょうかと。


親戚に文学に精通している者が多かったことから、
幼いころから言葉の誤りついての指摘が多く、この身体の持ち主は随分と気を張っていたと思います。(――私も、自己紹介の動画で誤用があり、沢山のご指摘を受けました。)
子供らしくて可愛らしいと笑われることすら、内心馬鹿にされているのではと恐れるような子でしたから、自分の間違いにとても敏感でした。
発表会や地域の集まりに出席するときには過度に緊張し、しかしそれがばれてしまってはまた恥ずかしいので、なんてことありませんよといった顔をしながら、周囲を真似て必死に所作や言葉遣いを気にしてやり過ごしていました。子供ながらに、自分の失敗が親の育て方の失敗になるということを恐れていたようです。
子供なんだから、子供らしくいられればいいのですけれど。

半面、部屋を包むように配置される大きな本棚とそこにを並ぶ作品を見て、こっそり盗み読むも何が何だかわからず、
しかしなんとなく明治文学に憧れを抱いていました。
(――その気持ちは私に、緊張はこの子へと分かれたように思いますが、この子にも今でも文学へのあこがれは残っていると思います。)
ひとたび読み進めると、聞こえ良い言葉の数々に包まれているようで非常に心地がいいのです。
嗚呼、私の居場所はここだ、そうに違いない。と
詳しくはないものの、縋るような思いで頁をなぞっています。

勝手に居場所として認定されてしまった本たちはどんな気分だろうかと考えるとまたくすりとしてしまいますが、兎に角わたしは文章の波に溺れるほどに深く沈みたくなることが多いのです。


明治文学の作者として、例えば漱石を挙げましょう。

夏目漱石の作品は有名なものが数多くありますが、
夢十夜はいつだか学生さんなら習うのではないでしょうか。
きっと教科書に載っているのは第一夜ですね。
私は第六夜が好きです。
是非読んでみてくださいね、こちらで読めますよ。

夢日記は夢と現の境が分からなくなり良くないと言われますが、十日も続けた漱石はどうだったのでしょう。変わりゆくものはあったでしょうか。
文豪には変人が多いというもの魅力の一つですから、存外、なんだ大して変わりやしないじゃないか、イヤそもそも端から変な奴だったよ、だなんて言われていたやもしれませんね。

これはあくまで想像であって、事実は不勉強故まだ知らないのですが、
いつも、こうして勉強する前に、まず自分で想像してみます。

これはこういう意味じゃあないか、こんな性格だったんじゃないか、こんな背景があったんじゃないか…
それから調べると予想通りで嬉しくなったり、時代背景ごとびっくり仰天するようなものがあったりと、
想像した領域が幅広ければ幅広いほど、印象に残る学びも幅が広くなるものです。


ほうら、いつだって、何処へでも行けるでしょう?
予想通りの道にも、予想外の道にも。
時には理解が及ばず苦しむこともありますが、それもまた一興。


またの機会に、数多の作品の手を取りたいと思います。

次に私を攫ってくれるのはどなたかしら。



夏生

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