エルデンリングの物語全体の仮説1

エルデンリングをプレイしていて、自然と攻略情報から考察を見るのだけども、どれも精緻ながら全体の関連性が見えないなあと思うことが増えた。

例えば、ある地下の都にはキーアイテムがあるのだけれども、それがどうして生まれて、何に使って、どういうエルデンリングにおける歴史的な意味に繋がっているのか、とか背景が分からないのだ。他の事柄との時系列なところも不明瞭がある。

このあたり、世界観は曖昧な方が良いとするフロムソフトウェアのことだから、完全なる解明や証明は難しいのだけれども、そもそもエルデンリングは重厚な世界観を書くジョージ・R・R・マーティンの物語が下敷きなのだから、きっと面白い歴史があるはずなのだ。「ゲーム・オブ・スローンズ」のように。

というわけで、根拠があるものと、「こうなると物語としてつながる」という想像あるいは妄想をもって、エルデンリングという物語全体を書いてみたいと思った。

たぶん、これはバージョン1であって、これからどんどん書き直すかもしれない。でも書いていかないと、永遠に整理されないのだから仕方がない。

なお、ネタバレは全開。いろいろ分かっている人向けに説明は最小限にしてある。このネタは私よりずっと有識者が多いだろうから、つっこみや誤りの指摘は歓迎したい。



物語全体の仮説

では、まず全体結論から入っていく。きっとこういう流れなのではないだろうか。そのうえで、個別にコメントを差し込んでいく。

 原初、大いなる意思が狭間の地へ黄金の流星と共に獣を送り、それがエルデンリング(世界を支配する法を生む力)となった。
 竜王プラキドサクス、永遠の都を支配する夜の王、そして祖霊の王は、大いなる意思との交信を司る五本指を崇めた。
 この時代、律は永遠であり、生死と人獣が混ざっていた。

 ある時、永遠の都の王が当時の神、そして五本指を切り裂いた。地下に眠る外なる火の神が偽りの言葉を述べ、指殺しの力を与えたのだ。
 大いなる意思は怒り、3つの都を破壊し地下深くに封じた。だが、割れた五本指とエルデンリングの一部が奪われた。
 こうして三本指と死のルーンが外なる火の神のものに、二本指と生のルーンが大いなる意思のもの、となった。

 巨人戦争が起きた。大いなる意思は、永遠の都の生き残り稀人マリカを神として、マリカはゴッドフレイを王に選び戦った。
 外なる火の神は、宵闇の女王と呼ばれた稀人に死から生んだ黒炎を、巨人に赤い火を与え、竜王プラキドサクスと共に戦わせた。
 勝ったのはマリカとゴッドフレイだった。赤き火は封じられ、黒炎は獣人マリケスによって死が取り除かれ脅威ではなくなった。
 嵐の王プラキドサクスは、ストームヴィルを捨てて都市ファルムアズラと共に時の狭間へ逃れた。
 三本指は地中深く埋められ、忘れ去られた。

 すべてが終わった後、大いなる意思は永遠律から死を除いた黄金律を掲げた。
 だが、神マリカは黄金律に疑いを持った。そして、黄金律の探求を宣言した。盲信の時代は終わるとも言った。それはマリカが稀人であるからだった。永遠の都の住人である稀人は指を心のどこかで信用しないのだ。
 それにゴッドフレイとの子であるモーグとモーゴッドは忌み子。黄金律に従い2人の幼子を井戸に沈めたことを忘れはずが無かった。

 一方、黄金律をまったく疑わぬ者もいた。名はラダゴン。一介の英雄だったが、敬虔さから二本指の祝福を得た。
 ラダゴンは、永遠の都に伝わる月を信奉するリエーニエを攻めた時、巧みにレナラを娶りリエーニエを支配した。さらには、二本指の導きに従ってレナラを捨て、ゴッドフレイから王位を簒奪、マリカの伴侶となった。
 しかも、マリカの反抗心を見抜いていた二本指は、マリカとラダゴンを融合させようともした。

 すべてを知ったマリカは神ながら絶望した。ラダゴンとの子、ミケラとマレニアも歪な存在だ。黄金律に瑕疵があるのは明らかと、二本指への反逆を決意する。
 まず、マリケスから死を奪い、ゴッドフレイを殺して狭間の地を追放した。いつか、再び王になれるように。
 それから、融合したラダゴンが神になる前に、自分とラダゴン、そしてエルデンリングを破壊した。「さあ、共に砕けようぞ!」
 こうして、二本指は気が付かなかったが、ラダゴンは意思を失いエルデンリングを守るだけの亡者になり果てた。

 マリカもまた壊れたが、反逆は終わらない。近しい稀人たる黒き刃に、忌み子でないゴッドフレイとの子であるゴッドウィンも殺し追放しようとした。
 だが、誤算が起きる。レナラの子供たちも、二本指に反感を持っていたのだった。二本指から壊れたマリカの後継者に指名されたラニは、どうしても従いたくなかった。師匠から永遠の都市の顛末を聞いていたのだ。法務官として黄金律の理不尽に怒るライカードも協力した。
 かくして陰謀の夜が起きる。ラニは二本指の支配を脱し、夜の律を掲げるべく動き出した。
 その後、破砕戦争が起きた。凄惨を極め、デミゴッドは誰もが狂った。ただ、肉体とルーンを捨てたラニだけが正気を保った。

 ずっと後のこと、狭間の地に名もなき褪せ人が外界より戻る。彼の者は狂ったデミゴッドを倒し、ラニそしてメリナと共に黄金樹へ至る。
 メリナは、追放直前に生まれたマリカとゴッドフレイの子。死を受け継ぎ、指の誘惑を払い、褪せ人を導く使命をマリカから授かっていた。
 夜の律が掲げられた時、ゴッドウィンは救われなかったが、確かにマリカとラニの願い、黄金律の破壊は成就したのだった。

物語全体の仮説

原初、世界はどうだったか

まず、何事にも始まりの状態があったはずなのだ。それはどうだったのか。

 原初、大いなる意思が狭間の地へ黄金の流星と共に獣を送り、それがエルデンリング(世界を支配する法を生む力)となった。
 竜王プラキドサクス、永遠の都を支配する夜の王、そして祖霊の王は、大いなる意思との交信を司る五本指を崇めた。
 この時代、律は永遠であり、生死と人獣が混ざっていた。

第1パラグラフ

大いなる意思が獣としてエルデンリングを送ったことはフレーバーテキストにある。

「かつて、大いなる意志は黄金の流星と共に、一匹の獣を狭間に送り
それが、エルデンリングになったという」(エルデの流星)

そして、エルデンリングの物語では常に、マリカとゴッドフレイみたいに神と王がいるものだから、王もいたのだろう。古そうな王といえば、竜王、ノクスの夜の王、祖霊の王だ。

「時の狭間、嵐の中心に座す竜王は黄金樹の前史、エルデの王であったという。だが神は去り、王は帰還を待ち続けていた。」(竜王の追憶)
「大古、大いなる意志の怒りに触れ地下深く滅ぼされた、ノクスの民は偽りの夜空を戴き、永遠に待っている王を。星の世紀、夜の王を。」(ノクス僧の鎧)
「祖霊とは、黄金樹の外にある神秘である。死から芽吹く命、生から芽吹く命。そうした、生命のあり様である。」(祖霊の王の追憶)

竜王が古いのは確定。夜の王も太古だから古い。祖霊の王も、運命の死がない黄金律の外の存在だから、結構確度高めで古そうだ。ただ、祖霊の王は、別に物語的にそう重要じゃないので新しくても全体に影響ない。嵐鷹の古王も名前からして古いのだけど、鷹の王であって人の王ではないようだから。いったん外しておいた。

そして、おそらくこの時、指は五本指だった。というのも、プラキドサクスには五本指の意匠が多く含まれるからだ。攻撃モーションは5つの爪だし、ファルムアズラで拾える短剣にも五本指が見て取れる。このあたりは他の記事が詳しい。

 律が永遠とは、少し飛躍があるかもしれない。この永遠とは生と死が混じったという意味で使っている。原初において生物は人と獣が混じった坩堝であったし、死を除いた律が黄金であるのだから、「いろいろ分かれていなかった時代」とするならば悪くない解釈に思えた。それに、永遠の都という名前もそうだし、プラキドサクスも永遠に座している。

「それは、黄金樹の原初たる生命の力。坩堝の諸相のひとつである。かつて、生命は混じり合っていた。」(坩堝の諸相・角)
「それは、2つの欠環が合わさった聖痕であり死に生きる理を、律の一部とするものである。黄金律は、運命の死を取り除くことで始まった。ならば新しい律は、死の回帰となるであろう。」(死王子の修復ルーン)
「それは、時の狭間に永遠に座した竜王の滅びゆく断末魔であった」(プラキドサクスの滅び)

まず、何が起きたのか

 ある時、永遠の都の王が当時の神、そして五本指を切り裂いた。地下に眠る外なる火の神が偽りの言葉を述べ、指殺しの力を与えたのだ。
 大いなる意思は怒り、3つの都を破壊し地下深くに封じた。だが、割れた五本指とエルデンリングの一部が奪われた。
 こうして三本指と死のルーンが外なる火の神のものに、二本指と生のルーンが大いなる意思のもの、となった。

第2パラグラフ

ここが実は一番難しい。後述するが、ラニやメリナの動機に関わる可能性があって、そして古い時代だけあって証拠がとても少ない。

まず、考えたのは、五本指がどうして二本指と三本指に分かれたのか、ということだ。これはエルデン史において最大級の事件なのだから、何か理由があるはず。で、指を傷つける道具と言えば1つしかない。ラニが追い求めたアレだ。

「永遠の都、ノクローンの秘宝。遺体から生まれたとされる刃。永遠の都の大逆の証であり、その滅びを象徴する、血濡れた呪物。運命なき者には振るうことはできず、大いなる意思と、その使いたちを傷つけることができるという。」(指殺しの刃)

このあと永遠の都は大いなる意思の逆鱗に触れて滅ぼされるので、なにか大逆をしたはずなのである。ちょっと指に怪我させたなんてものだろうか?もし、五本指を2つ割ってしまったとしたら、それは滅ぼされるぐらいの大逆になるのではないだろうか。

もしそうだとしたら、なぜ永遠の都は指に逆らったのか。ここでは外なる火の神の関与が疑われる。ここで狭間の地を勢力が二分され、巨人戦争にて黄金律に敵対する存在が火を得意としたからだ。かといって、永遠の都が外なる神の配下かというと、そうも見えない。もしあるのなら、匂わせるフレーバーテキストなり石像なりがあるはずなのだ。騙されたか利用されたか、ぐらいであろう。

ともあれ、これで指も分かれたし、エルデンリング(というよりルーン)も分かれたと見られる。二本指側には死がないのだ。じゃあ、どこにいったのかといえば三本指ということになるだろう。

「神狩りの黒炎を操る使徒たちはかつて、運命の死に仕えていたという。しかし黒き剣のマリケスに敗れそれを封印されてしまった。」(神肌ローブ)

運命の死に仕えた神肌の使途はマリケスと対峙した。つまり、反黄金律、反二本指のグループということになる。

巨人戦争の始まり

生と死、二本指と三本指。こう分かれてしまったら、もう戦争しかない。

 巨人戦争が起きた。大いなる意思は、永遠の都の生き残り稀人マリカを神として、マリカはゴッドフレイを王に選び戦った。
 外なる火の神は、宵闇の女王と呼ばれた稀人に死から生んだ黒炎を、巨人に赤い火を与え、竜王プラキドサクスと共に戦わせた。
 勝ったのはマリカとゴッドフレイだった。赤き火は封じられ、黒炎は獣人マリケスによって死が取り除かれ脅威ではなくなった。
 嵐の王プラキドサクスは、ストームヴィルを捨てて都市ファルムアズラと共に時の狭間へ逃れた。
 三本指は地中深く埋められ、忘れ去られた。

第三パラグラフ

神マリカが王ゴッドフレイと戦ったのは疑いの余地はないだろう。問題は敵側が外なる火の神、宵闇の女王、巨人、竜王であっているのか、となる。

最初の根拠は、黄金律に敵対する存在の技といえば火だということ。巨人の滅びの日、黒炎、狂い火。どれも火だ。これだけ揃っていて、外なる火の神がノータッチというのが考えにくいように思われる。

宵闇の女王が敵であったのは結構手堅いように思える。女神マリカと義弟たる獣人マリケスに敵対した神狩りの使徒は宵闇の女王の勢力である。また、エルデンリングでは単に「指」とした場合、二本指でないことが多い。マリカと同じ神人であったのだから、もしかしたら二本指側の神マリカと相対する三本指側の神であったのかもしれない。

「神肌の使途たちの、黒炎の祈祷のひとつ。その高位とされるもの。使徒たちを率いた、宵眼の女王。彼女は、指に選ばれた神人であったという。」(黒炎の儀式)

さて、巨人がマリカやゴッドフレイと敵対したのは明らかだから考察を省略すると、プラキドサクスの立場はちょっと微妙なのかもしれない。ブレスを吐くが、主力は雷。爪攻撃も5本指。三本指に従った感じはしない。ただ、ゴッドフレイに敗れたのは固いので、きっと共闘したとか、それぐらいの浅い関係であったと思われる。

「黄金樹の始まりは戦と共にあり、ゴッドフレイは戦場の王であった。巨人戦争、嵐の王との一騎討ち・・・。そして、好敵手がいなくなった時、王の瞳は色褪せたという」(エルデ王の鎧)

嵐の王とは、嵐の中心にいる竜王プラキドサクスだ。(ストームヴィルとの関係は、失地騎士など多くの匂わせがあるが省略する)良くテキストを読むと、巨人戦争と竜王との戦いは別に書かれている。巨人を倒し、滅びの火を封じてから戦いがあったということかもしれない。このあたりも、プラキドサクスが少し第三勢力的であることを感じさせる。

最後の三本指が封印されて(完全にではないが)忘れられたというのは、世界観どおり。ところで実は少しひっかかる話として、指を分離させたのは大いなる意思だと三本指が言っていることだ。

「すべては、大きなひとつから、分かたれた。分かたれ、生まれ、心を持った。けれどそれは、大いなる意志の過ちだった。苦難、絶望、そして呪い。あらゆる罪と苦しみ。それらはみな、過ちにより生じた。だから、戻さなくてはならない。混沌の黄色い火で、何もかもを焼き溶かし、すべてを、大きなひとつに…。」(ハイータの語る三本指の言葉)

今回は外なる火の神の暗躍を採用し、大いなる意思が分けたとしなかったのは、三本指が狂い火で世界を焼き尽くすことを目的としているからだ。本当に、三本指が勝った世界では竜王プラキドサクスが君臨した坩堝の世界に戻るのだろうか? 狂い火は、あまりに邪悪な存在として描かれている。ハイータの言う通り反出生主義だとしても、得たものを苦しませ過ぎる。それより、火が世界を覆うので「外なる火の神の勝利」としたほうが素直に思われる。

「火の巨人の力を、直接振るう祈祷のひとつ。「伝説の祈祷」のひとつ。悪神が宿るとされる、燃え盛る火球を放つ。それは対象に向かってゆっくり飛び爆発により、周囲を炎上させる。それは、アダンが盗み出した監視者の長、アーガンティの秘匿である。悪神は、火の巨人の内に、今も隠れている。」(悪神の火)

火の神は悪である。後述するように二本指もそうとうアレだが、狂い火のおぞましさは悪そのものに思える。これは巨人の火の話であって狂い火ではない、という主張はありえる。ただ、前述のように反二本指陣営は火を多く使うのだ。存在を焼く巨人の火、魂を焼く黒炎、意思を焼く狂い火というような感じなのであろう。

黄金律の不穏な始まり

メリナが伝える言霊によれば、激しい戦いが終わった当初こそマリカは上機嫌であったが、だんだんと態度が変わっていくことが見て取れる。

「戦士たちよ。我が王、ゴッドフレイよ。導きに従い、よくここまで戦ってくれた。あの頂きに、巨人たちを打ち滅ぼし、火を封じよう。そして、はじめようじゃないか。輝ける生命の時代を。エルデンリングを掲げ、我ら黄金樹の時代を!」(第一マリカ教会)

ノリノリである。だが、すぐ黄金律に検証の視線を向けるようになる。

「黄金律の探究を、ここに宣言する。あるべき正しさを知ることが、我らの信仰を、祝福を強くする。幸せな幼き日々、盲信の時代は終わる。同志よ、何の躊躇が必要だろうか!」(小黄金樹教会)

盲信を強く否定している。あくまで信仰を強めるため、というのは大人の言い方というヤツであろう。二本指も見ているし、きっと周囲にはたくさんの黄金律の信奉者がいるだろうから。

これらを考慮し、仮説を生んだ。

 すべてが終わった後、大いなる意思は永遠律から死を除いた黄金律を掲げた。
 だが、神マリカは黄金律に疑いを持った。そして、黄金律の探求を宣言した。盲信の時代は終わるとも言った。それはマリカが稀人であるからだった。永遠の都の住人である稀人は指を心のどこかで信用しないのだ。
 それにゴッドフレイとの子であるモーグとモーゴッドは忌み子。黄金律に従い2人の幼子を井戸に沈めたことを忘れはずが無かった。

第四パラグラフ

黄金律に死がないのは、すでに述べた。さて、マリカは稀人である。つまり指に滅ぼされた永遠の都の末裔である。これはマリカが黄金律に敵対する予兆というか運命なのではないか。関係ないのなら、こんな設定は不要である。

「狭間の地の人々に宿った祝福。その黄金の残滓。使用により巨大なルーンを得る。稀人は、かつて狭間の外からやってきた女王マリカの同族であるという。」(稀人のルーン)
「それは、2つの欠環が合わさった聖痕であり死に生きる理を、律の一部とするものである。黄金律は、運命の死を取り除くことで始まった。ならば新しい律は、死の回帰となるであろう。」(死王子の修復ルーン)

それに、忌み子だと分かった子を井戸(忌み捨ての地下への入り口)に捨てる理由は黄金律にある。神とはいえ、母がこのことを深く恨まずにいられるだろうか。黄金律を呪うには十分な理由のはずだ。黄金律が忌み子を排除したことの直接的な証拠はないが、女神マリカと王ゴッドフレイの子にまで適用されるのだ。尋常な法であるはずがなく、黄金律と考えるのが自然だ。

「王家の忌み赤子は、角を切られることはない。その替り、誰にも知られず、地下に捨てられ永遠に幽閉される。そしてひっそりと、供養の像が作られる。」(王家の忌み水子)

子供を捨てさせられた。自分と同じ稀人を滅ぼした(めったに見られず稀と言われるほどに)。二本指にマリカが反感を覚えるのは当然ではないだろうか。

野心家ラダゴン

 一方、黄金律をまったく疑わぬ者もいた。名はラダゴン。一介の英雄だったが、敬虔さから二本指の祝福を得た。ラダゴンは、永遠の都に伝わる月を信奉するリエーニエを攻めた時、巧みにレナラを娶りリエーニエを支配した。さらには、二本指の導きに従ってレナラを捨て、ゴッドフレイから王位を簒奪、マリカの伴侶となった。しかも、マリカの反抗心を見抜いていた二本指は、マリカとラダゴンを融合させようともした。

第五パラグラフ

さて、ラダゴンである。胸はぽっかり空いていて、一言もしゃべらない。

この人物は実に謎に包まれている。祈祷「回帰性原理」で暴いた秘密によれば、ラダゴン=マリカだ。しかし、ラダゴンは月の女王レナラと結婚して子も作っている。マリカが変装してレナラに近づいた、というのは少々無理があるように思われる。それよりは、盲目的に黄金律そして二本指に従った結果としてこうなったとするほうが自然だ。

結びの司祭ミリエルは「一介の英雄」とラダゴンを評価する。なのに結婚相手は最大級に大物だ。

「彼はレナラ様を捨て、黄金樹の王都に戻り、女王マリカの王配、二番目の夫となり…二人目の、エルデの王となったのです。そして、誰も知ってはいないのですよ。ラダゴン様が、なぜレナラ様を捨てたのか。いえそもそも、一介の英雄にすぎなかった彼が、なぜエルデの王として選ばれたのか。」(ミリエル)

ヒントはマリカの言葉にあるように思える。

「おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ。お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない。さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!」(女王の閨)

女神が犬よばわりとか、実に過激だ。マリカの黄金律に対する反感、そしてラダゴンへの嫌悪感が滲み出ている。

ラダゴンは、マリカが脱却を求めた黄金律の盲信者であるとして、ラダゴンの動機はなんだろうか。それは黄金律、二本指の利益だろう。

「女王レナラが、その幼き日に出会い、後に学院を魅了した、美しい月である」(レナラの満月)

レアルカリアは月に魅了されている。月とはノクステラの産物だ。気持ち良いはずがない。それもあってか、レアルカリアは当初、黄金律に従っていなかった。

「ラダゴン様は、赤い髪をなびかせた、英雄でございました。黄金樹の軍勢を率いてこの地を訪れ、しかし戦いの中でレナラ様と出会い侵略の戦いを悔い、カーリアの女王たる彼女の伴侶となりました」
「この結びの教会は、かつて黄金樹と月、二つの王家が和睦を結び
赤い髪のラダゴン様と、満月のレナラ様が、契りを結んだ場所なのです」(ミリエル)

ラダゴンは見事レアルカリアを調略したということだろう。そして、いつしか二本指は気が付いたに違いない。マリカがもはや黄金律を支持していないということに。となれば、二本指がマリカとラダゴンをくっつけた、融合させようとしたというのは、ありうる。

「おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ。お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない。さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!」(女王の閨)

マリカによる、やけっぱちの叫び。そう考えればこと言葉には深みが出てくる。

続く

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