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拙小説『玉葉物語』は、各小説投稿サイト(小説家になろう、カクヨム)で連載します。noteにはとりあえず前日譚とその後しばらくの分は試し読みとして置いておくつもりです。画像類を気軽に載せられる利点があるので、ひょっとしたら最後まで連載するかもしれません。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。 第一話「朝家、縷の如し」(一)朝家、縷の如し 『日本書紀』によると、神代の昔、朝家の御祖神たらせられる天照大御神におかせられては、御孫にあたらせられ
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。 外伝『文始天皇御記』文始十年十月二十五日条 幼くして即位した朕だが、十八の成年に達して、ようやく摂政を置かずに済むようになった。これを機に、せっかく元号が『文始』なのであるから、遅まきながら朕も何か文章を、ありきたりなところで日記でも書き始めようと思って、筆を執ることにした。 これからは叔父上に委ねずに自ら政務をせねばならないのだ。平安貴族が日記を有職故実の書としたように、後の参考になるものを残せた
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。 第二話「蛍の君」(一)蛍の君 一 大阪府和泉市は室堂町に古くから残っている伝説である。いまだ飛鳥の地から都びた雰囲気が消えていなかったであろう頃、和泉国宮里の瀧山で、智海上人とおっしゃる高僧が修行をなさっていた。ある時、彼を慕う大きな女鹿がそのお小水を舐めたことによって孕み、やがて人間の女子を産んだという。 「鹿が人の子を育てられようはずがない。そうかといって、修行している身である自分にも
※これはフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。 第四話「宮輩の御悩み」(一)生孫王 宣文十八年の真夏のある日のことである。明治の大御代の東京奠都以来、皇室の方々のご帰還を心からお待ち申し上げていた京都の人々は、記録的な猛暑日になるだろうという天気予報にもかかわらず京都駅前に集い、日の丸の旗を手に持って、今か今かとその時を待ち構えていた。 四年ほど前の京都行幸時よりも大々的な歓迎ぶりだが、彼らがご帰洛をお待ち申し上げるお相手は天皇陛下ではなかった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。 第五話「聖断」 (一)宸憂 一 身分を捨てたいというお考えに至られるまでの金枝玉葉の御悩みも、万々が一にも皇族がおいでにならなくなったら困るという政府の言い分も、それぞれよく理解できるものであったから、いつの世も上御一人におかせられては、宸襟を悩ましていらっしゃった。 平成の大御代以来、歴代の帝は御年七十五にならせられる頃には皇太子に位をお譲りになるのを常となさっていたが、応中の御代から
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。 第一話「流転の若宮」(前編) 一 いったいどの御代のことだっただろうか。長く御子に恵まれていらっしゃらなかった皇后陛下にご懐妊の兆しがおありだという報道があってからというもの、津々浦々の民草は誰も彼もが、ご出産の時が待ち遠しく思えてならなかった。 御子をその御身に宿しておいでになる皇后陛下を除けば、この時分、その瞬間を最も心待ちにしていたのは、やはりご在位の帝でいらっしゃった。その年の天長節