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本当は怖い⁉夏目漱石の「こころ」①【仲川光🌸日本文学入門①近代文学】 


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第一回目は、夏目漱石の代表作、「こころ」を取り上げます。

「こころ」は本編を読めば、すぐにその文章が芸術的美しさに彩られた名文であることが分かります。

題材としては、現代の私たちでも悩む恋の三角関係と、恋煩いによる自死のお話です。

ストーリーは、近代文学の中では比較的シンプルな構成ですが、さすがは夏目漱石。

時代を超えて、私たちの心を震わす文章です。

この感動は、noteの要約では伝わらないので、ぜひ書籍の方をご覧くださいね!


さて、そんな日本文学の宝とも言える「こころ」ですが、僭越ながら、「本当は怖い⁉夏目漱石の『こころ』」という題をつけさせていただきました。

原作へのリスペクトはありつつ、私なりの解釈として、登場人物の「K」と「先生」の心情について、迫っていきたいと思います。

本当は怖い「こころ」って?

その意味は、記事内にて!


夏目漱石 「こころ」

恋と死――人間の心に秘められた闇を描く青春恋愛小説

夏目漱石(1867~1916)

江戸(東京都)生まれ。本名、夏目金之助。
大学時代に正岡子規と出会ったことがきっかけで文学を志す。
東京帝国大学(現東京大学)卒。
松山中学、熊本の第五高等学校教師などを務めた後、イギリスへ国費留学。
帰国後は、東大講師等の教職に従事し、在職中にデビュー作『吾輩は猫である』を発表。
その後、朝日新聞社に入社し、様々な新聞小説を掲載した。
代表作品:『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『三四郎』『それから』など


【書き出し】

私はその人を常に先生と呼んでいた。
だから此処でもただ先生と書くだけでは本名は打ち明けない。
それは世間を憚かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。
私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。
筆を執っても心持は同じ事である。
よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。


〈あらすじ〉

私が先生と知り合ったのは、大学の夏休み、海水浴に行った鎌倉だった。
先生と懇意になった私は、東京に戻ってからも、時々先生の家を訪ねるようになった。

先生は「私のようなものが世の中へ出て、口を利いては済まない」といって、家で考え事や仕事をするだけで、社会に出て勉強しようとはしない。

また、先生と奥さんは仲のよい夫婦だったが、その間には埋められない何かがあった。

奥さんによると、大学時代に先生の友人が急死し、それ以来、先生は人が変わってしまったが、その理由を教えてはくれないという。


ある時、私は先生の過去を知りたいと伝えた。

先生は「私は死ぬ前にたった一人で好いから、他(ひと)を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか」と問いかけ、時期が来たら自分の過去について話すことを私に約束する。


乃木将軍が殉死した日、先生から「東京で会いたい」という電報が届いたが、私は病床の父の看護を理由に断った。

父が昏睡状態に陥っていたある日、先生から厚い手紙が届いた。

「この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にいないでしょう」

私は東京行きの汽車に飛び乗り、列車のなかで先生の手紙を読み始めた。


先生は大学生の頃、上京して軍人の未亡人(奥さん)と一人娘(御嬢さん)の住む家に下宿することになった。

ほどなして先生は、御嬢さんに対し恋心を抱くようになる。
先生は御嬢さんに対して、殆ど信仰に近い愛を持ち、御嬢さんのことを考えると、気高い気分がすぐ自分に乗り移ってくるように思った。


先生にはKという幼馴染がいた。
Kは真宗の寺の息子で、医者の家の養子となっていた。
Kの養家はKを医者にするために東京に出したが、Kは医者になる気はなく、別の学科に入学したため、養家からも実家からも見放され、学資を断たれてしまう。
同情した先生は、彼を同じ下宿に住まわせることにした。

しばらくすると、Kと御嬢さんが親しく話をしたり、一緒に歩いたりしているのを目撃するようになった。

先生はKを邪魔者のように意識し始める。
そんな先生に対し、Kは、御嬢さんに恋していることを告げる。

その後、Kから、この件についてどう思われるか聞かれた先生は、以前Kに言われた、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉を言い放った。

先生はKが御嬢さんに対し「覚悟」を決め、行動を起こすことを恐れた。
そして、Kより先に、「御嬢さんを私に下さい」と奥さんに申し出ると、奥さんは「よござんす。差し上げましょう」と答えた。

先生はKに求婚したことを告げることができず、その事実は奥さんによりKに告げられた。

その後、先生がKに謝罪しようと考えていた矢先、Kは自殺してしまう。
先生は後悔し、このことが自分に一生つきまとうであろうことに恐れを感じた。

やがて先生は、御嬢さんと結婚するが、Kに対する罪の意識を持ち続けていた。

先生はいつしか、「この苦しみから逃れる一番楽な方法は自殺だ」と感じるようになる。
そして、明治天皇の崩御と乃木将軍の殉死をきっかけに、ついに自殺を決意し、この手紙を書いたのだった。


〈名言〉

「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」


Kから先生へ放たれた言葉であり、のちに、恋患いをするKに対し、先生が言い放った言葉でもあります。

この言葉をきかっけに、Kは自殺への道へと歩んでいったと捉えても過言ではない、決定的な一言。


〈解説〉

『こころ』は、夏目漱石が乃木希典の殉死に影響を受けて、執筆したといわれる作品です。 

人間が心の奥深くに持つエゴイズムと倫理観との葛藤を描き出しています。

この作品は、夏目漱石の代表作として、学校の国語の授業などで習った方も多いのではないでしょうか。 

「先生」と「K」との青春の葛藤が美しい文体で綴られ、文学的感動を与える作品となっています。

個人的には、ここまで繊細に登場人物の心理描写が書ける、ということは、漱石自身が似たような実体験を持っているのではないかな?と勘ぐってしまうような作品です。


・「恋愛」と「死」

「こころ」の最大のクライマックスは、お嬢さんに恋したKの「死」と先生の「死」の二つ。

つまり、この作品全体を貫くテーマ自体が、「恋愛」と「死」なのではないかと思います。

Kはお嬢さんとの恋が実らずに死を選び、先生もずっと背負っていた罪の気持ちが拭えず、最終的には「死」を選びます。

「おいおい、なんで2人とも死んでしまうんだよ……お嬢さん可哀想すぎでしょ‼」と思ったのは、若き日の私だけではないはず。

そして、仮にも高校の国語教科書に載るような作品です。

「Kも先生も、純粋すぎるあまり自殺の道を選んでしまった」と捉えがちな作品ですが、自殺を美学として崇めすぎるのも、教育上はあまりよろしくないのではないかと思っています。

そこで、私の記事ではあえて、二人の考え方について突っ込みを入れていきたいと思います。笑


〔本当はやばいK〕

「K」という人物は、非常にピュアであり、その純粋さゆえに死を選んでしまった、と思われがちです。

ところが、よくよく観察してみると、問題点が沢山ある人物に感じられます。

ここからは、天下の夏目漱石さまの「こころ」に大変申し訳なくも、自殺に至ったKの「ヤバさ」について、私の感じるポイントを書かせていただきたく存じます。

「こころ」ファン、「K」ファンの方のご気分を害したらごめんなさいね!


Kのヤバさ①実は自己中人間

文学的に読むと、Kという人物は、清廉潔白で、お嬢さんに一途な好青年のように感じられます。

ただし、現実的な目で見ると、Kに対する評価は変わってきてしまいます。


客観的事実だけ見ると、

  • 親からも養家からも勘当されている

  • そんなにお金もない

  • 学生で勉強もまだ途中の身

  • たまたま住み込んだ寮のお嬢さんに恋して「結婚したい」と言い出す

  • お嬢さんとの結婚が叶わないようなら「死」を選ぶ


これは、実は自己中人間なのではないか?

そんな疑問さえ湧いてきてしまいます。

求婚したいなら、お金稼いでからにしなさいませ!と言いたい。

実は「先生」の方は、家庭はしっかりしていて、求婚しても大丈夫なレベルの社会的信用があるのですよね……。

客観的に見ても、Kの方が求婚にはかなり不利です。

世の中には、「好き」という気持ちだけではどうしようもない時もあるんですけど、そんなことはKの耳には届かないでしょうね……。


Kのヤバさ②「死」を報復行為に使う

Kは、友人である「先生」が自分を出し抜いてお嬢さんに求婚したということに対して、「自殺」という報復行為をしています。

親友である先生にお嬢さんを出し抜かれるなんて、本当は殺したくなるほど恨んでいたのかもしれません。

その恨みを、「自殺」という形で、先生を永遠に苦しめるかたちで刻み付けた。

ちょっとサイコパスです……。

遺された側の先生や、特にお嬢さんにとっては、たまったものではありません。

彼らにとっては一生消えない「心の傷」となって付きまとうわけですから、かなり悪質な報復の仕方ではないでしょうか。


Kのヤバさ③恋は盲目

Kはそもそも、学生時代にたまたま下宿した先のお嬢さんに恋焦がれてしまったわけですが、もしこの下宿先でなかったら、他の女性のことを好きになっていた可能性もあります。

人生長いはずですし、まだまだ他の女性との出会いだってあったはず。

それなのに、一人の女性のことで思い詰めて死まで至ってしまうというのは、美しい青春というよりは「若気の至り」なのかもしれません。

本当にお嬢さんの幸せを思うなら、今の自分では時期ではない、ぐらいに思えなかったのだろうか……。

とも感じますが、ここに関しては恋敵となる「先生」もギルティなので、Kだけを責めることはできないかもしれません。

まあ、「先生」にしてみれば、本音レベルでは、「死んだからって自分の恋の方がピュアだと思うなよ」と言いたいところかもしれませんが。


Kのやばさ④プライドが高すぎる

Kは真宗の寺の息子でした。当然、自分は清廉潔白な人物である、という自己イメージがあったことは想像に難くありません。

「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」

Kが先生に対して放った、あまりにも有名なこの言葉。

ここから読み取れるKの性格としては、

「自分は精神的に真っ当な人物で、向上心のある人間であり、このような色恋に振り回されるような人間ではない」

ということを言いたいタイプなのではないでしょうか。

自己イメージが高かったがゆえに、実らない片想いに苦しむ自分が耐えられなかったのかもしれません。

というか、もはや心の中グチャグチャ・ドロドロすぎて、全然自己イメージの清廉潔白な人間じゃないよ~Kさん!と、私は言いたい。

「綺麗なまま死にたい」のような謎の美学も感じるのですが、泥臭くてもいいから、生きて汚い自分と向き合ってほしかったものです。

プライドが高すぎて死を選ぶぐらいなら、ズタボロになってでも生きて自分の気持ちを立て直して、また新たな素敵な出会いを探してほしかったものです。


Kのやばさ⑤本当に愛しているのはお嬢さんではなく、恋をしている自分

死に到る直前のKは、お嬢さんのことも先生のことも信じられなくなってしまう、疑心暗鬼の状態。

当然、世界のすべてのものを嫌だと感じていたでしょう。

自分が愛しているはずのお嬢さんのことさえ信じられない状態とは、悲しいものです。

でもここで、一つ疑問があるんです。

お嬢さんのことを本当に愛していたならば、彼女の心に一生消えない影を残す死に方をしたのでしょうか?

私だったら、愛する人を苦しめる死に方はしないかな、と思ってしまいます。

たとえ先生の存在や、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉がKを追い詰めたのだとしても、大切なお嬢さんのことを思うならば、自殺は踏みとどまってほしかったです。

それが出来なかったということは、結局お嬢さんへの愛よりも、自分のプライドを護ることの方が大事だったのではないかな、と思ってしまいます。



今回の考察はここまで。
ちょっと突っ込み飛ばし過ぎましたかね🥰笑

学校の授業では絶対に言えない、「こころ」への辛口評価。

漱石先生ごめんなさい。

でも、きっと笑って許して下さると信じてます。


次回テーマは、

・「こころ」の「先生」について思うこと
・「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」とは?
・「こころ」が書かれた時代背景

など。

お楽しみに!


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無事に5月から始まるのか?来月以降なのか?と心配かけてしまった方、失礼しました。

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