五重の「ノザキのコンビーフ」
カメラロールから出てきた1枚の写真。
2018年秋「ノザキのコンビーフとお出かけしましょ」という写真コンテストに投稿したときの写真だ。
今回は、ときどき無性に食べたくなる魔性の肉「コンビーフ」について、歴史や豆知識とともに、思い出を語ろう。
「五重のノザキのコンビーフ」
作品のタイトルは「五重のノザキのコンビーフ」
コンビーフ缶を5つ重ねて「五重塔」に見立てている。
撮影地は、上野動物園の中に建っている「旧寛永寺五重塔」。動物園の敷地内に「五重塔」とは、なんとも不思議な光景だが、上野動物園をはじめ、美術館や博物館がある広大な上野恩賜公園は、かつて寛永寺の境内だったそうだ。
残念ながら、このコンテストでは選ばれなかったが、みんな素敵なコンビーフのお出かけ写真を投稿していた。
ノザキのコンビーフとは
「ノザキのコンビーフ」は、国内初のコンビーフ。
国産コンビーフ第一号の商品だ。
戦後まもない1948年(昭和23年)に発売され、75年もの歴史がある。昔から変わらないレトロな牛さんのデザインで、長く愛されている。
◎「コンビーフ」とは、なんぞや
コンビーフは、英語で「Corned Beef」。
「Corned」には「塩漬けの」という意味があり、その名の通り「塩漬にした牛肉」だ。日本では、塩漬けの牛肉をほぐして牛脂で固めた缶詰のことを指す。
もともとは、船の長期航海や軍需品で使われる「保存食料の塩蔵牛肉」だったそうだ。そのため欧米では、日本のようなほぐしたものではなく、スライスやブロック肉の缶詰であることが多いらしい。
◎昔ながらの「枕缶」
昔のコンビーフは、独特の形をした缶詰だった。日本では、コンビーフの缶のことを「枕缶」と呼ぶ。これは、江戸時代の枕の形に似ていることが由来のようだ。
◎「巻き取り鍵」
かつてのコンビーフ缶は「巻き取り鍵」と呼ばれる専用の器具を使って開けるようになっていた。アメリカで、缶切りが普及していなかった時代に開発された、画期的な方式だ。
かつてTwitterで話題となった、巻き取り鍵をテニス部の卒業アルバム風に並べる写真を撮るために、食べ終わった後も、鍵を捨てずに集めていた時期もあった。
しかしノザキのコンビーフは、2020年3月にパッケージがリニューアルされ、巻取り鍵方式から、底面部をはがして開けるタイプの缶に変わっている。
そのため、この「巻き取り鍵」は、もう存在しない。
それだけに、いまも捨てられないまま、大切に保管してある。
コンビーフはなぜ、この形だったのか
ところでコンビーフの缶は、なぜこんな形なのか。お肉検定のテキストにも登場するくらい、肉好きなら知っておきたい豆知識だ。
よくある缶詰は円筒形だが、コンビーフは「台形」だ。これは日本だけではなく、アメリカで初めてコンビーフが製造されたときからの形なのだ。
この形には理由が2つある。
ひとつめは「詰めやすい」こと。缶内に空気が残ると、肉が酸化して変色してしまう。しかし台形なら、隙間なく詰めることができる。
ふたつめは「缶を開けたときに、中身が取り出しやすい」こと。「携行食品」だったコンビーフは、どこでも開けられるように鍵を使って缶の側面を巻き取るようになっているが、このときに、台形のほうが、円筒形の缶に比べて、中身がすっぽり取り出しやすいのだ。
コンビーフはもともと、イギリス海軍が保存食として作っていたそうだ。これなら、缶切りがなくても、いつでもどこでも、すぐに食べることができる。
現在のコンビーフ缶
ノザキのコンビーフは、2020年3月にパッケージをリニューアルし、巻取り鍵で開ける方式から、底面部のシールをはがして開ける「アルミック缶」という容器に変わった。
容量も100gから80gへと小さくなった。減ったのは20gだが、それ以上にコンパクトになったと感じる。それだけアルミック缶は、軽量なのだろう。
リニューアルの理由は、販売開始から70年経ち、枕缶の製造ラインが限界に来ていたとのことだ。
コンビーフには昭和の思い出が詰まっている
◎国鉄の電柱に「ノザキのコンビーフ」
ノザキのコンビーフといえば、私のなかでは、JR(当時の国鉄)の柱についていた看板が印象深い。
高度成長期の1955年頃(昭和30年代)から2000年頃まで、国鉄の送電線の鉄塔、首都圏主要路線(山手線・中央本線・京浜東北線沿線など)の電柱に「ノザキのコンビーフ」と書かれた縦長の看板がついていた。
私も子供の頃、ホームや車窓からこの看板を目にするたびに「ノザキのコンビーフ… ノザキのコンビーフ…」とつぶやいていた記憶がある。いま思うと、実に洗脳度の高いプロモーションだ。
ちなみにこの看板は、2000年当時、365枚も設置されていたのだとか。
(参考:ノザキのコンビーフ『コンビーフの歴史』)
◎ショーケンも丸かじりをした
昭和世代にとって「ノザキのコンビーフ」といえば、ショーケンが丸かじりをするシーンで、おなじみだろう。
1974~75年に放送されていた人気ドラマ『傷だらけの天使』のオープニング映像では、ショーケンこと故・萩原健一氏が、朝食にノザキのコンビーフを丸かじりするシーンで話題となった。
ちなみにここでショーケンが食べていたノザキの缶は、現代でなじみのある100g缶ではなく、ワンサイズ大きい190g缶だったようだ。オープニング映像をみる機会があれば、そこに注目してみてほしい。
思い出の「コンビーフのサンドイッチ」
中学の頃、学校から帰宅して、家にあるものでなにか食べようとつくったのが「コンビーフのサンドイッチ」だった。
食パンもコンビーフも温めないで、無造作にそのまま乗っけて、半分の三角形に折りたたんで食べる。常温のコンビーフは、白く脂が固まっていて、それがなんともおいしかった。
高校時代は、JR錦糸町駅の総武線快速のホームにあった売店で、コンビーフのサンドイッチをよく買って食べた。その売店は、いまはないが、確か「ミルクスタンド」のような形態だった。牛乳とサンドイッチが売られていて、みんなその場で食べるスタイルだ。私はホームのベンチに座って、快速の待ち時間に、コンビーフのサンドイッチを食べていた。確かラップに包まれた、手作りっぽいサンドイッチだった。
学生時代、お腹が空いた時に、いつもお世話になっていたのが「コンビーフのサンドイッチ」だったのだ。
なぜか無性に食べたくなるのがコンビーフだ
そんな話をしていたら、コンビーフが食べたくなった。
大人になったいまは、酒のつまみとして大活躍だ。フライパンで、とろけるチーズと一緒にパリッと焼く。それをバゲットなんかに乗っけて食べると最高だ。
気がつけば、どの時代にも思い出と共にコンビーフがあった。これからも、コンビーフとともに思い出を刻もう。
今日も、コンビーフに乾杯だ!
閲覧ありがとうございマルチョウ。これからもよろしくお願いシマチョウ!