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イィ・ヤシロ・チ vol.60  旧暦節分の鬼詣で 片埜神社

ちょうど上映されていた、阿弖流為(アテルイ)のシネマ歌舞伎を観たいな、と思った2月。蝦夷の長として強く気高い彼が、悲劇の最期を迎えた話が気になっていたから。

けれど、上映時間にどうしても間に合わず、別の予定に振り替えざるをなくなって、以前の祈願をかなえてくださった意賀美神社へお礼参りをしようと決めたのだった。

秋の参拝では、一人だったけれど、本日は旅友さんがご一緒してくれるとのこと。ならばと、女子好みの美味しいもの、楽しいことを加えて、更に近くの神社さんにも足を延ばそうか?とプランはどんどん盛りだくさんになっていった。

午前中の所要はしっかりとこなして、枚方市駅に到着するとちょうどお昼時。まずは腹ごしらえと、徒歩で行ける意賀美神社そばの古民家カフェに立ち寄る。

ヴィーガンランチの前菜は彩鮮やかなおいしい野菜の総菜

すこやかランチで幸せ満腹となって、気持ちもうきうきと参拝に向かう。この日も二月とは思えないほど暖かく、ちょうど梅の花が咲きほころぶお参り日和である。

今年の干支の絵馬風掲示物

二人して心からお礼を申し上げる参拝を終えて、見頃を迎えた梅園を通って、次なる参拝に向かった。

あでやかな山茶花や萌える若芽も盛り上げる梅園の早春

穏やかな昼下がりの静かな住宅街を最寄り駅・牧野(ヒラノ)から少し歩くと、ほどなくして土塀に囲まれた片埜神社に到着した。掲示物などを拝見していくうちに、この参拝は予定の変更をきっかけにした偶然の結果のはずが、旧暦節分に参るのにはうってつけだったことが、段々と知れてきた。

当社は豊臣秀吉が大阪城の鬼門封じとして位置付けていた厄除け、方除けの神社であると掲示されている。

復興された古社と伝わる片埜神社
1年のうちで最も拝殿が素敵な時に参拝できたと喜ぶ二人

祭神は、スサノオや菅原道真公で出雲系である。社殿の左右に紅梅白梅の木が植えられており、それがちょうど満開で陽光に美しく咲き誇っていた。鼻孔をくすぐる梅の花の香りに、「ウエルカムツリーですか?」などとまた軽口が出てしまう。

牛さんも梅花とツーショットでのどかに日向ぼっこ

境内を見回すと、一角にギョッとさせる風貌の大きな鬼の面がある。表情のひょうきん?な感じも相まって、まさに、面妖。こちらの節分には「鬼は内」ととなえられるそうな。それで彼?は笑っているのだろうか?

厄祓の鬼面はアピール力も大きい

見るものすべてが、旧暦節分、まさかのドンピシャ感を強調している。二人おみなは、ただただ口あんぐり状態である。どこの誰がそんなスケジュールを組んでくれるのか、行ってみた者だけが絶妙のプランニングに驚かされるサプライズ企画。自分が決めているようで、自分ではない(人の仔ではない)存在の強固な意思のようなものを感じて、ちょっとサブイボである。

此方の鬼面はちょっと強面

さらに当社の御朱印が実にインパクトのある鬼面であった。その御朱印をお授けいただく待ち時間にふと見やると、棚には阿弖流為守りなるお守りが授与品として並んでいる!なぜ此処で阿弖流為???

社務所で「阿弖流為の関わりが?」と質問すると、「右手の後方の公園に阿弖流為の塚があります」とのこと。「映画ではなく直接会いに来い」というミッションだったの???と驚愕と混乱の二人。ドキドキしながら公園に向かうと、その真ん中にどっかりと塚は祀られていた。

石碑に阿弖流為と母禮の名があった

本日のメインの御用は、此方への慰霊だったのかもしれないね、と二人は顔を見合わせ神妙にうなずきあった。塚での祈り言葉は、「どうぞ心安らかに、本当のことがきっと伝わっていきますからね」と、素直な心持で言上げさせていただいた。

石碑から回り込むと拝所。たくさんのお花と供え物があった

代わるがわるお参りした後、突如、春風が強く吹き、太陽にかかった雲を払っていった。空の青が濃くなって、強い日差しが塚の大きな木々に降り注ぐ。東北から遠く離れた此の地で命を失った悲しみや、故郷への思慕の念はさぞや大きかっただろう。誇り高い族長の彼らは、どのように扱われたのだろうか。それははっきりとはわからないけれど、先住民を「鬼」などと悪者扱いすることで、謀略の後ろめたさをごまかす卑怯は誰にあったのか。そんなことをとふと思うのだ。

塚の上空に思わず目を向けて

わたくしたちは、空が青く、渡る風が心地よく、日の光が温かになったのを「諾」の徴と受け止めて、旧暦節分鬼詣では無事完了とした。

敬い奉るべき誇り高いカシラであった彼らの尊厳に心を寄せ、正当に扱うことの大事さに気づかされた鬼詣で。

果たして、本当の鬼は誰なのか。世知辛く先の見えないこの時代でも、常に問い続けなければならない大切なことだと思い知ったことである。


飾られて 気恥かし顔の龍手水 梅芳しき 春の昼

最後までお読みくださり、ありがとうございます。和風慶雲。


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