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マイクロノベル集 315「山であった話」

No.1726
「母の日」の朝は早い。まだ朝食が口の中に残っている太陽が、急かされてとっとこ昇ってくる。これを捕まえるには背の高い山頂がいいだろう。しかし、「母の日」の山は頭が上がらず、いつもより標高が低くなっていることを忘れないで。はい、布団たたき。


No.1727
山頂で飲む珈琲は格別な味がするもんだ。水筒で持って登るのもいいけれど、やっぱり山頂で淹れたい。それなのに珈琲セットだけ忘れて登っちゃったんだ。そうしたら。「じゃあ、持って行ってあげる」SNSの書き込みを見て助けてくれた人が、お母さんだよ。


No.1728
「百円でぇす」迷った山道で爺さんと出会った。クーラーボックスには氷と缶ジュース。コーラはある? 「売り切れ。三分待って」爺さんは茂みの中に消え、きっかり三分で戻ってコーラ缶を氷の中に埋めた。「百円でぇす」僕は道を訊き、三時間かけて下山した。


No.1729
湧き水を飲んじゃいけないんだよ。どんな細菌が繁殖しているかわからないからね。「ちっ、気づかれたか」ほうら、水の中に菌がいたよ。つまみ出したからもう大丈夫。この水を買わないか? あっ、やめて。ぼくは喉なんかかわいてないから。ごめん、ごめんて。


※noteだけで読める、このマイクロノベル集の続きはこちら。



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