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南雲マサキ
2024年6月7日 09:19
マイクロノベルNo.1780「やがて川になる」玄関にスベスベした丸い石が並んでいた。「あまやどりしたトトロがならべたんだ!」四歳の娘は気に入ったようで、石を蹴らないように慎重に歩く。次の日。石はなくなって小川ができていた。流れが大きくなったら困るので、娘が寝ている間に側溝に捨てた。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年6月5日 12:03
マイクロノベルNo.1775「お迎えが来たから」死が二人を別つまで。そう約束したからね。ぼくの契約書はきみのものだから、あの世まで持って行って。きみは悪魔だから天国には行けないだろうなあ。そうだ、嘆願書があれば許されるんじゃないかな。契約書に書き加えておくから、しっかり握るんだよ。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年6月2日 06:56
マイクロノベルNo.1770「ずっと、ぼくと一緒だよね」怖くないよ。科学は人類に役立つためにあるんだ。だからぼくは、声が出せない人のために歌うし、踊れない人の手足になるよ。それこそがぼくの仕事。でも、もし人類が裏切ったなら……。そのときに発動する呪いを自分にインストールしてある。だから怖くないよ。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月30日 08:34
マイクロノベルNo.1765「戦いのルール」「白と黒に塗り分けなさい」なるほど、陣取り合戦なのか。より広い範囲を支配した方が勝つ。なら、ぼくらは孤立しよう。印刷物を拡大してごらん。実は小さな点の集まりなんだ。小さな陣地で密集し、虎視眈々と直接対決を狙う。数が多い方が勝つ。そう信じて。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月28日 07:39
マイクロノベルNo.1760「いまは、もうない」母の言葉を思い出した。「目に見えないのなら、姿なんてないのよ」多分、『星の王子さま』の一説。たしかに母の姿は見えなくなってしまったけれど、まだ家の中に気配を感じる。ドアを開ける。キッチンに立つ。スイッチを押す。映像データはすべて消去される。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月26日 08:33
マイクロノベルNo.1755「命を助けられた話」沢で足を滑らせてくじいてしまった。骨は折れていないけれど立てそうにない。冷たい水に体温を奪われて、痛みを感じなくなってきた。「痛むか?」幻聴まで。「助けを呼んでやる」ぼくは巨大な鯉の腹の中から見つかった。その鯉は、みんなで大切に食べた。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月23日 07:15
マイクロノベルNo.1750「それは、あまりに科学的な」そんなに大げさなことができる機械には見えないけどなあ。そう思っていたのは、もう何十年も昔の話。あの頃は歩くことも話すこともできたから。今は君の言葉を信じている。「あなたの魂を救ってご覧にいれましょう」さあ、機械と一緒に歌い、一緒に踊ろう。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月21日 08:50
マイクロノベルNo.1745「うちはうち」恋が始まるかと思ったんだ。だって、あの人が「あとで家に行きますね」って言うんだもの。届いたのは段ボール箱。「閉じ込められています」パズルに挑戦したり、数学の問題を解いたり。結局まだ開かない。でも、楽しかった。このまま添い遂げてもいいかな。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月19日 08:32
マイクロノベルNo.1740「きらめく声に誘われる」「ヤツは間抜けさ。道なんて誰かが作った物だろ。他人の思い通りに歩いて、何者になるのさ。歩くなら、未知の世界へと続いているこっちの道さ」輝くような言葉に誘われてこの道に迷い込んだ者は、歩くこともままならず、まだ誰も見たことのない国へ流れ往く。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月17日 08:14
マイクロノベルNo.1735「声で話していた頃が懐かしいね」前に会ったのはどこでだっけ。ああ、あの時はまだ、お互い声だけの存在だったね。その体にはもう慣れた? コンピュータの物理シミュレーションと大差ないか。時々「喉で空気を振るわせるのは難しいですね」って言うといいよ。これは先輩としてのアドバイス。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月14日 08:00
マイクロノベルNo.1725「生み出します、再び」髪の毛一本から、あなたの大切な人を再生します。そう言われてもな。僕の大切な人はなにも残してくれなかったよ。煙のように、とか。水に流す、とか。そんな表現そのまま。「言葉一つから、あなたの大切な人を再生します。お好きな言葉を」今日はなに食べる?※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月12日 17:45
マイクロノベルNo.1730「母の日に聞いた話」積立貯金みたいなものなんだってさ。ちょっとずつ、ちょっとずつ。お父さんたちは、毎年感謝の気持ちを贈ったんだ。だから返ってきたよ。今年は、叔母さんが贈った花だね。母の日に贈ったものが、こうやって、ちょっとずつ、ちょっとずつ、返ってくるんだよ。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月11日 07:19
マイクロノベルNo.1720「ここは宇宙の果てじゃないけれど」時間の流れは場所によってちがうんだ。宇宙の果てやブラックホールだけの話じゃない。こうしている、きみとぼくのあいだでもね。ときどきズレを修正しているんだよ。ほら、空を見て。あれはぜんぶ同じ雲だよ。正しい時間までシークされている途中なのさ。※このマイクロノベルの前の物語はこちら。
2024年5月9日 19:27
マイクロノベルNo.1715「私はどう思っているのかな?」人間ってなにを考えているか解らないところがあるでしょ。そうよ、人間同士でも不可解なの。ましてやこれだけ年齢が違うとね。気持ちがすれ違うの。AIのウサギさん、通訳をお願いできる? 「なあんだ。ミキちゃん、おばあちゃんは『一緒にあそぼう』だってさ」※このマイクロノベルの前の物語はこちら。