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+1 マイクロノベル鱗

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noteだけの書き下ろしマイクロノベルです。 不定期更新。マガジンの表紙画像は、ぼくの祖母が描いた絵。
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記事一覧

+1 マイクロノベル鱗「やがて川になる」

+1 マイクロノベル鱗「やがて川になる」

マイクロノベルNo.1780
「やがて川になる」

玄関にスベスベした丸い石が並んでいた。「あまやどりしたトトロがならべたんだ!」四歳の娘は気に入ったようで、石を蹴らないように慎重に歩く。次の日。石はなくなって小川ができていた。流れが大きくなったら困るので、娘が寝ている間に側溝に捨てた。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「お迎えが来たから」

+1 マイクロノベル鱗「お迎えが来たから」

マイクロノベルNo.1775
「お迎えが来たから」

死が二人を別つまで。そう約束したからね。ぼくの契約書はきみのものだから、あの世まで持って行って。きみは悪魔だから天国には行けないだろうなあ。そうだ、嘆願書があれば許されるんじゃないかな。契約書に書き加えておくから、しっかり握るんだよ。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「ずっと、ぼくと一緒だよね」

+1 マイクロノベル鱗「ずっと、ぼくと一緒だよね」

マイクロノベルNo.1770
「ずっと、ぼくと一緒だよね」

怖くないよ。科学は人類に役立つためにあるんだ。だからぼくは、声が出せない人のために歌うし、踊れない人の手足になるよ。それこそがぼくの仕事。でも、もし人類が裏切ったなら……。そのときに発動する呪いを自分にインストールしてある。だから怖くないよ。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「戦いのルール」

+1 マイクロノベル鱗「戦いのルール」

マイクロノベルNo.1765
「戦いのルール」

「白と黒に塗り分けなさい」なるほど、陣取り合戦なのか。より広い範囲を支配した方が勝つ。なら、ぼくらは孤立しよう。印刷物を拡大してごらん。実は小さな点の集まりなんだ。小さな陣地で密集し、虎視眈々と直接対決を狙う。数が多い方が勝つ。そう信じて。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「いまは、もうない」

+1 マイクロノベル鱗「いまは、もうない」

マイクロノベルNo.1760
「いまは、もうない」

母の言葉を思い出した。「目に見えないのなら、姿なんてないのよ」多分、『星の王子さま』の一説。たしかに母の姿は見えなくなってしまったけれど、まだ家の中に気配を感じる。ドアを開ける。キッチンに立つ。スイッチを押す。映像データはすべて消去される。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「命を助けられた話」

+1 マイクロノベル鱗「命を助けられた話」

マイクロノベルNo.1755
「命を助けられた話」

沢で足を滑らせてくじいてしまった。骨は折れていないけれど立てそうにない。冷たい水に体温を奪われて、痛みを感じなくなってきた。「痛むか?」幻聴まで。「助けを呼んでやる」ぼくは巨大な鯉の腹の中から見つかった。その鯉は、みんなで大切に食べた。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「それは、あまりに科学的な」

+1 マイクロノベル鱗「それは、あまりに科学的な」

マイクロノベルNo.1750
「それは、あまりに科学的な」

そんなに大げさなことができる機械には見えないけどなあ。そう思っていたのは、もう何十年も昔の話。あの頃は歩くことも話すこともできたから。今は君の言葉を信じている。「あなたの魂を救ってご覧にいれましょう」さあ、機械と一緒に歌い、一緒に踊ろう。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「うちはうち」

+1 マイクロノベル鱗「うちはうち」

マイクロノベルNo.1745
「うちはうち」

恋が始まるかと思ったんだ。だって、あの人が「あとで家に行きますね」って言うんだもの。届いたのは段ボール箱。「閉じ込められています」パズルに挑戦したり、数学の問題を解いたり。結局まだ開かない。でも、楽しかった。このまま添い遂げてもいいかな。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「きらめく声に誘われる」

+1 マイクロノベル鱗「きらめく声に誘われる」

マイクロノベルNo.1740
「きらめく声に誘われる」

「ヤツは間抜けさ。道なんて誰かが作った物だろ。他人の思い通りに歩いて、何者になるのさ。歩くなら、未知の世界へと続いているこっちの道さ」輝くような言葉に誘われてこの道に迷い込んだ者は、歩くこともままならず、まだ誰も見たことのない国へ流れ往く。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「声で話していた頃が懐かしいね」

+1 マイクロノベル鱗「声で話していた頃が懐かしいね」

マイクロノベルNo.1735
「声で話していた頃が懐かしいね」

前に会ったのはどこでだっけ。ああ、あの時はまだ、お互い声だけの存在だったね。その体にはもう慣れた? コンピュータの物理シミュレーションと大差ないか。時々「喉で空気を振るわせるのは難しいですね」って言うといいよ。これは先輩としてのアドバイス。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「生み出します、再び」

+1 マイクロノベル鱗「生み出します、再び」

マイクロノベルNo.1725
「生み出します、再び」

髪の毛一本から、あなたの大切な人を再生します。そう言われてもな。僕の大切な人はなにも残してくれなかったよ。煙のように、とか。水に流す、とか。そんな表現そのまま。「言葉一つから、あなたの大切な人を再生します。お好きな言葉を」今日はなに食べる?

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「母の日に聞いた話」

+1 マイクロノベル鱗「母の日に聞いた話」

マイクロノベルNo.1730
「母の日に聞いた話」

積立貯金みたいなものなんだってさ。ちょっとずつ、ちょっとずつ。お父さんたちは、毎年感謝の気持ちを贈ったんだ。だから返ってきたよ。今年は、叔母さんが贈った花だね。母の日に贈ったものが、こうやって、ちょっとずつ、ちょっとずつ、返ってくるんだよ。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「ここは宇宙の果てじゃないけれど」

+1 マイクロノベル鱗「ここは宇宙の果てじゃないけれど」

マイクロノベルNo.1720
「ここは宇宙の果てじゃないけれど」

時間の流れは場所によってちがうんだ。宇宙の果てやブラックホールだけの話じゃない。こうしている、きみとぼくのあいだでもね。ときどきズレを修正しているんだよ。ほら、空を見て。あれはぜんぶ同じ雲だよ。正しい時間までシークされている途中なのさ。

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。

+1 マイクロノベル鱗「私はどう思っているのかな?」

+1 マイクロノベル鱗「私はどう思っているのかな?」

マイクロノベルNo.1715
「私はどう思っているのかな?」

人間ってなにを考えているか解らないところがあるでしょ。そうよ、人間同士でも不可解なの。ましてやこれだけ年齢が違うとね。気持ちがすれ違うの。AIのウサギさん、通訳をお願いできる? 「なあんだ。ミキちゃん、おばあちゃんは『一緒にあそぼう』だってさ」

※このマイクロノベルの前の物語はこちら。