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エンドレス


 明日は入学式だ。
私立受験もしたが、愛佳は希望の中学受験に失敗し、第2希望の中学校に入学
することになっている。

小学校の頃からの友人たちで、中位の成績だった友人がいく中学だ。
ただ、愛佳が嫌っていた皆川 浩子は、愛佳が落ちたミッション系の誰もが
憧れる女子中学に合格した。
愛佳は全然面白くない。

浩子の合格を、親友の奈津子から聞いてずっと機嫌が悪い。

 愛佳に甘い両親は、まるで腫れ物に触るように愛佳の機嫌をとっている。
「中学受験は残念だったけど、愛佳にはきっと山手中学の方が合ってると
ママは思うわ。
愛佳は頑張ったからなんでも好きなお洋服買ってあげるから」と、
ママが言ったので、
「私シャネルのミニショルダーが欲しい」と言ったら、
流石にびっくりしていたが、
「パパも良いって言ったから、今度銀座のシャネルに行きましょう」と
ママが言ってくれた時は、ちょっと機嫌が治った。

 ママだってたくさんシャネルのバッグを持ってるから、そのうち借りようかな、
と思ってたけど、「そうよ、私は頑張ったし、他の中学にも合格はしたんだから、
新しいのを買ってもらおう」と思って、言ってみたらOKが出た。


やっぱり一人娘の愛佳のことがパパたちは可愛んだ、と思った。


 赤の小さなチェーンのショルダー。
雑誌で見て、良いなと思っていたのだ。


「ママとパパがそもそも私を幼稚園からあのミッション系の学校に
行かせてくれていたら、
こんな惨めな思いをしなくて済んだのに」
 父親の方針で、小学校はせっかく地元に良い公立小学校があるのだから、
幼稚園の時から過酷な受験をさせず、伸び伸びさせたい、と言った結果だ。


 「パパのせいなんだから、シャネルバッグくらい良いよね」と
愛佳は心の中で思っている。


それにしても、浩子はちゃっかり憧れの中学に合格して、なんなの?

田舎から転校してきたくせに、と言っても、受験の結果は変わらない。
 浩子は小学校3年生の時に愛佳のクラスに入ってきた。
活発で、ハキハキと自分の意見を言う浩子は、同じ県内でもみんなが
馬鹿にするような地区からの転校生だったのに、あっという間に
クラスの人気者になった。

愛佳には、面白くない転校生だったが、それでも愛佳の可愛らしさと、
大人びた発言と度胸に一目置く同級生たちは、愛佳に少し遠慮しながらも
愛佳の取り巻きでいてくれた。


 ところが、3、4年と同じクラスで持ち上がり、4年生の2学期になって
すぐに、学級委員の投票があり、浩子と愛佳が同票で決選投票になり、
なんと浩子が学級委員になった。

これには愛佳もびっくりした。匿名で投票しているから、
誰が愛佳に投票しなかったのかはわからない。取り巻きの女子以外の女子と
男子が投票したのだろう。

 愛佳はすぐに行動した。

取り巻き5人と帰る途中に「明日から浩子と絶対に口聞かないで」と言った。
翌日、あっという間に愛佳の取り巻き女子が、全員の女子に密かに伝え、
浩子と口を聞く女子が全くいなくなってしまった。

 浩子は愛佳の仕業だと思い、呼び出され「あなたでしょ」と言われたが、
「知らない、何のこと?」と言って終わりだった。それでも浩子は学校を休まず
登校した。でも昼休みも、給食時間も誰とも喋らない。
時々男子としゃべっている浩子を見て、愛佳は気分がよかった。

結局担任からも注意をされることなく、5年生になって別のクラスになり、
浩子は新たな友人を得たようだった。


 浩子が苦しんでいる顔をみた時、愛佳はゾクゾクした。


 愛佳が下した命令でみんなが言うことを聞くのは、経験したことのある者に
しかわからない闇の快感だ。

その力を維持するためにも、成績も、態度も、そしてかわいい顔と服も大事だ。
何より愛佳のパパは大手広告会社の社長の息子として、30代なのに部長だ。
お金は十分にある。普通の公務員の娘である浩子なんかに負けるわけがない。


 でも、その浩子に受験で負けてしまった。愛佳が入学予定の中学はお嬢様学校
として伝統があるが、中位の私立だ。
愛佳は、勉強では自信を無くしてしまったが、
可愛らしさ、そして堂々とした振る舞い、豪邸を持っている。

小学校で同級生だった女子を味方につけ、そして入学と同時に
みんなの注目を浴び、「ターゲット」を見つける。

第二の浩子を見つけるのだ。

 集団をコントロールし、決して自分の仕業とはバレない。

バレていても、決して認めない。

そしてみんなが自分にひれ伏す快感を、愛佳は知ってしまった。
「大人に何か言われたら、ふざけてただけです、って言ってやろう」
愛佳は愛くるしい笑顔で、先生や大人たちを虜にする術を知っている。
そしてパパに味方になって貰えば、なんだってできる。


 愛佳は、明日の入学式が楽しみで仕方がない。
既に、取り巻きたちの結束は確認している。

愛佳は髪のお手入れをしながら、鏡に向かってニコッとしてみる。

 まもなく13才になる愛佳にとって、これからもエンドレスに続く
快感が待っている。



 了
 

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