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子猫に大きな鯵を与えないで

にゃあ、にゃあ。お腹が空いたの。と甘えた声で彼の足元にすり寄る。
涙で潤んだ目で彼を見上げると
彼はポケットからチャオチュールを出して
お腹を空かせた子猫にあげると期待したけれど
彼は生きたままの鯵をそのまま「ほら」と投げた。
チャオチュールが貰えると思っていた子猫は
初めて見るピチピチと跳ねる生きた鯵にびっくりして泣き出した。

違うの、これじゃないの。
チャオチュールが欲しいの。
こんな乱暴な扱いじゃなくて
せめて切り身にしてお皿に載せてくれたら食べられるのに。

彼の口から出てくる言葉は
「バカ野郎」とか「何回怒らせるの?」とか全く優しくない言葉ばかり。
どうしてそんな言い方しか出来ないの?
もっと、もっと甘くて優しい言葉が欲しくて仕方ない私は
人より寂しがりなのかな?
ううん、私だけじゃない、彼だって寂しがり屋。

その証拠にみんなが見ているグループチャットに
「死んじゃおうかな」なんて投稿するの。
するとみんなの「死んじゃったら悲しい」とか
「美味しいもの食べて少し休みましょうよ」とか
沢山の温かいコメントで一杯になる。
彼ばっかりズルイ。私だって優しい言葉が欲しい。
優しいコメントをしようと思ったけれど照れくさい。

ツンデレで言うツンなコメントしか出来なくて。。。
私、ちっとも可愛くないし、素直じゃない。。。
そんな人に優しい言葉なんてかけたくないよね。。。
優しい言葉が欲しいくせに、自分から優しい言葉をかけていない。
言葉は自分を映す鏡と言うのは本当なのだと初めて実感したなぁ。

彼に「忙しいのが落ち着いたら、温かい美味しいご飯食べに行こうよ」
とLINEしたら「うん」の一言と一緒にニコッと笑顔の絵文字が返って来た。
こういうことなんだよねって。
キツイ言葉にはキツイ返事
優しい言葉には優しい返事
北風と太陽のお話しなら、太陽の様に温かい存在でいたい。

彼が投げた元気に跳ねる鯵を見ながら気付いたことがあるの。
お前は鯵でも食っておけ、と無骨に投げたのではない。
ちゃんと私が食べられる大きさの鯵を選んでくれていたんだって。









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