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065:読書という体験はすごい

・大島という離島へ1泊2日の旅行に行っていた帰り道、2時間弱で本島まで戻るそのジェット船の中で、西村賢太の「苦役列車」という本を読んでいた。
・1年に1度旅行をすることで繋がっている学生時代の旧友たちとの集まりはとても楽しく、この時間は終わって欲しくないものだと思いながら、たまたま鞄の中に入れていたその本を開いた。

・そこからもう一つの旅行が始まった。

***

・自分が映画や本、漫画・アニメという物語が好きな理由の一つに、自分の人生では体験し得ないであろう出来事を疑似体験できる感覚が楽しいというのがある。

・2時間弱という時間は自分にとって苦役列車を読了するのにちょうど良い時間だったが、読み終えたあとはなぜかその1泊2日の旅行よりも長い時間をその物語の中で過ごしたような錯覚を覚えた。
・私小説というジャンルは現実での実体験が基となっているので、綴られている情景を高い解像度で受け取りやすいということもあると思うが、西村賢太の人生を抜粋したであろうその文章は、自分をすっかり夢中にさせた。

・時間としては、長さも密度も旧友たちと過ごした方が濃密であったことは誰の目にも明らかだ。
・なにせ1年ぶりに会ったのだ。各々の近況を聞くところから始まり、思い出話や将来の展望などについて花を咲かすその時間が濃密でないわけがない。
・実際久しぶりに味わったその時間は、普段人生の7分の5を会社という狭苦しい牢屋で過ごしている自分にはとても有意義であり、本当に終わって欲しくないと思っていた。

・それでも苦役列車を読み終えた後の自分は、なんというか、大きな満足感に包まれた。
・まだ帰っている途中だというのにも関わらず、大島という離島にいたのが数日前であるかのような感覚に襲われた。

・ただ文字を追っていただけなのに。
・一つの物語を享受するという体験はすごい、と思った。

***

・そもそもが比較できるものではないので、大島の旅行と苦役列車の読書、どちらの方が良かった、という話ではない。
・本を楽しんだあといつも自分が抱いている満足感を旅行の直後に味わい、改めて「物語を楽しむ」という行為の尊さに気づいた。
・そんな備忘録を残したくて今回は綴った。

・ちなみに大島も苦役列車もどちらも良かったので、いつかまたそれらに関する記事を上げると思う。

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