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ISO9001と経営:大成建設の不全を考える(認識とヒューマンエラーとリーダーシップ)

■経営者の問題なのか現場の問題なのか

 驚くようなニュースを見た。

○大成建、札幌の高層ビル施工不良 鉄骨に傾き、虚偽報告
2023/03/16

大成建設は16日、札幌市で建設中の高層ビルで、鉄骨が傾いたり、コンクリート製の床の厚みが薄かったりする施工不良があったと発表した。鉄骨の傾きが許容限度を超えていたにもかかわらず、実測値と異なる虚偽の数値を工事監理者である設計事務所に報告していた。

https://nordot.app/1009029513623142400

結果として、途中まで作ったものを壊して、また建設するらしい、このような事態は聞いたことがない。
また、経営者が引責辞任をするらしい。

○複合高層ビルを異例の立て直し 大成建設は虚偽報告「数ミリ程度であれば品質に問題ないと」 取締役ら2人の辞任を発表
2023/03/17

 大成建設・品質管理担当者は、事業主のNTT都市開発に対し「数ミリ程度であれば品質に問題ないと考え、実測値と異なる数値を報告していた」と明かしている。

 NTT側は15階まで組んでいた鉄骨などを撤去し、工事のやり直しを決定。完成は当初の予定より2年4カ月遅れる見通しだ。

 この事態を受け、大成建設は取締役ら2人の辞任を発表した。(『ABEMAヒルズ』より)

https://times.abema.tv/articles/-/10071755

しかし、こうした不正は
(1)経営者が指示していたのか
(2)現場が忖度して行なったのか
(3)現場の無知が引き起こしたのか
(4)現場が悪意を持って行なったのか
で対応が異なる。
その要因はそれぞれ異なり、対策も異なる。
ISO9001で対応できるものもできないものもある。
最後の方から順番に見てゆこう。

■(4)現場が悪意を持って行なったのか

残念ながら、現場が悪意を持ってなすことを防ぐ手段もないし、それを検知する方法も難しい。難しいというのは、漫然とした管理では無理だからだ。例えば、測定データを読み取ることで検査をすると言うことは、読み取ったものをそのまま記載しなければ不正できる。これを防ごうと思うのであれば、計測データをそのまま記録する、あるいはアナログ系を画像で撮って自動的に判別するなど人的要素を無くすしかない。

「悪意」や「ヒューマンエラー」を防ぐプロセスの開発しかない。

8.5.1 製造及びサービス提供の管理
組織は,製造及びサービス提供を,管理された状態で実行しなければならない。
管理された状態には,次の事項のうち,該当するものについては,必ず,含めなければならない。
g) ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する。

■(3)現場の無知が引き起こしたのか

遵守しなくては行けない事項を無知のためにしているのであれば、それを知らしめなければならない。無知の中には「これぐらいいいだろう」という安易なものも含まれる。

〇大成建設、前代未聞「ビル工事やり直し」の内幕
高層ビルの工事で虚偽報告と精度不良が発覚
2023/04/05

大成建設の広報担当者は、「工事課長代理が『数㎜程度のずれならば品質上問題ないだろう』と判断して、鉛筆をなめた数字を出した(虚偽の報告をした)」とする。納期が厳しいので、現場としてはそのまま進めてしまったのだろう。

https://toyokeizai.net/articles/-/664262?utm_source=smartnews&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

認識をさせていない組織の問題も指摘される。
漠然と以下の要求事項を眺めているだけではいけない。

7.3 認識
組織は,組織の管理下で働く人々が,次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。
a) 品質方針
b) 関連する品質目標
c) パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
d) 品質マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味

決められたルールを厳密に守れない状況を作っているのは組織文化である。

■(2)現場が忖度して行なったのか

経営者が口に出してはいけないことに「儲けろ」を意識した「金」の話である。会社の状況を説明するために財務について語るのは良い。しかし、「儲け」を口にしてはいけない。なぜなら、それを聞いた社員は「お金を稼ぐこと」を他の大切なもの「品質」「安全」「信頼」よりも優先するからだ。

それを伺わさせる記事が見られる。

○ゼネコン不正、品質不良続発 大成と三井住友建設、経営陣が引責辞任
2023/3/29

大手の一角、大成建設は施工不良に気付いた担当者が虚偽データを報告していた上、社内のチェック態勢も機能せず発注者が不正を発見。準大手の三井住友建設は自社検査で部材の品質不良を見つけたものの、業績悪化を免れない状況となった。近年は受注競争激化で工期短縮が進み、現場でのミスが許されないような状況も背景にあるとされる。

https://www.sankei.com/article/20230329-QAY7TLAIWRJEXISMG4VSHOQFYQ/?ownedutm_source=owned site&ownedutm_medium=referral&ownedutm_campaign=ranking&ownedutm_content=ゼネコン不正、品質不良続発 大成と三井住友建設、経営陣が引責辞任

受注競争、納期短縮を解決する為に創意工夫ではなく尽力で行なおうとすれば手抜きが発生するのは当然のことだろう。

■(1)経営者が指示していたのか

経営者がこれを指示していたとは考えにくい。しかし、法律用語では「不作為」という言葉がある。すなわち、本来するべきことをしていないことによる法令違反の放置である。

○ゼネコン不正、品質不良続発 大成と三井住友建設、経営陣が引責辞任
2023/3/29

大手の一角、大成建設は施工不良に気付いた担当者が虚偽データを報告していた上、社内のチェック態勢も機能せず発注者が不正を発見。

工事監理者である設計事務所に虚偽のデータを報告していた品質管理担当者は「どこも数ミリ程度の精度不足で品質上問題なく、修正すれば他の工程に影響して工期が遅れると思った」と話したという。支店などが行う社内パトロールでのデータ報告も怠っていた。

発覚が遅れた要因には、業務を管理する上司が他の業務で忙殺され、ルール化されていたデータ報告を担当者に徹底していなかったことも挙げられる。

https://www.sankei.com/article/20230329-QAY7TLAIWRJEXISMG4VSHOQFYQ/?utm_medium=app&utm_source=smartnews&utm_campaign=ios

大成建設も社内パトロールで厳格な調査を検討していたといい、「今回のような不正で品質が左右されることはない」と話す。しかし、問題だと思いながら何もしていないとしたら、当然リーダーの責任であろう。

下記の規格要求事項を満たしていないことになる。

5.1.2 顧客重視
トップマネジメントは,次の事項を確実にすることによって,顧客重視に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を明確にし,理解し,一貫してそれを満たしている。
b) 製品及びサービスの適合並びに顧客満足を向上させる能力に影響を与え得る,リスク及び機会を決定し,取り組んでいる。
c) 顧客満足向上の重視が維持されている。

■単一の原因ではない

下記に、大まかな経緯が分かる記事がある。

〇大成建設、前代未聞「ビル工事やり直し」の内幕
高層ビルの工事で虚偽報告と精度不良が発覚
2023/04/05

スーパーゼネコンの大成建設は3月16日、北海道札幌市で建築中の高層複合ビルにおいて、鉄骨の精度不良と発注者への虚偽申告があったことを公表した。発注者であるデベロッパーのNTT都市開発が今年1月に現場を視察した際に、不審な点に気づいた。これを発端に、施工不良と数値の改ざんが発覚。建物の鉄骨部分でおよそ80カ所、コンクリートの床スラブで245カ所の精度不良があった。

発端は1月5日。NTT都市開発の担当者が現場を確認した際に、「このボルト、おかしくないか」と、計画とは違う仕様の施工箇所(仮設ボルトの穴にずれ)があることを見つけた。

この指摘を受けて、大成建設は1月10日あたりに、鉄骨の実測値などを書いた報告書を工事監理会社とNTT都市開発に提出した。

その後、大成建設が鉄骨の全数調査をしたところ、実数値と資料の計測値の食い違い、つまり報告書の虚偽が明らかになった。これは1月19日のことだ。梁の水平度合いの計測値を改ざんするなど、実際とは異なる数値を記載していた。

大成建設の広報担当者は、「工事課長代理が『数㎜程度のずれならば品質上問題ないだろう』と判断して、鉛筆をなめた数字を出した(虚偽の報告をした)」とする。納期が厳しいので、現場としてはそのまま進めてしまったのだろう。

そもそも、大成建設は1月にNTT都市開発の指摘を受けた時点で、この高層ビル工事の自主検査書類を作成していなかった。大成建設では通常、各事業所で決定した品質管理計画書を基に作成した施工計画にのっとり、自主検査を行っている。その自主検査書類を工事監理会社に提出し、監理者が現地の目視をして次の工程に進むという品質プロセスを踏む。

しかし、現場ではこのプロセスを踏襲していなかった。昨年9月に高層ビルの工事に着工後、「同9月末、そして11月に品質パトロール(社内の定期的なチェック体制)をした際に、この現場では自主検査書類の整備や工事監理会社への報告をしていないことがわかった」(大成建設の広報担当者)。

https://toyokeizai.net/articles/-/664262?utm_source=smartnews&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

単に現場に綱紀粛正を求めても無駄である。
組織構造やプロセスなど多くの改善をしない限り同じような事件は再発される。

見ていると良い。この一年以内にまたゼネコンは事件を起こすだろう。

<閑話休題>

○北海道新幹線の羊蹄トンネル工事で虚偽報告 熊谷組ら4社 品質管理試験の回数足りず
2023/05/03

ニセコ町内で行われている北海道新幹線の羊蹄トンネルの工事で、コンクリートの
品質管理試験について工事を担当する会社が虚偽の報告をしていたことが分かりました。鉄道・運輸機構によりますと、熊谷組ら4社でつくるグループは、コンクリートに含まれている水分の量や固まる前の柔らかさを測定する試験について、本来行うべき回数より少なかったにも関わらず、所定の回数を実施したと虚偽の報告をしていました。先月、担当者が現場に立ち会い発覚しました。鉄道・運輸機構はトンネルの安全性や工程に問題がないか調査中だとしています。

https://nordot.app/1026404341015642112

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