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竹を切る

毎日、雑木林のへりで、竹仕事をしている。

年末に、近所の家々に「御幣(ごへい)」を配って回る、その資材作りだ。
寺の裏山に入り、竹薮から適当な太さの竹を伐り出し、それをさらに輪切りにしていく。長さを均等に揃えて丸太状になったものに、鉈(なた)をかけて、細かくしていくと、竹ひごの完成となる。

1、竹の伐採
2、鋸(のこぎり)で輪切りする
3、洗浄して天日干し←イマココ
4、鉈をかけて竹ひごにする
5、完成

地道な反復作業で、鋸をかけていると、いろいろなことが頭をよぎる。

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子供のころ、小学校の卒業式で、校長先生がお手製の「竹とんぼ」を下さった。
竹とんぼには卒業生一人ひとりの名前とメッセージが銘々に入っていて、当時は「なんだこれ」と大して喜びもせず、ほんの数回飛ばしてみただけで、その辺に転がしっぱなしにした。

僕より喜んだのは、両親だった。
父と母は校長先生のお心にいたく感心して、「作るの大変なんだよ」と何度も言い、何度も何度も飛ばした。「ほうら、よく飛ぶよく飛ぶ。」そう言っては、大事にテレビの上に置いた。(当時、父の荷物置き場はテレビの上だった)

今となって、校長先生のこどもたちへの想いも、両親の感慨も、わかる。
竹細工は労力のかかる仕事で、また技術を要する。先生にまたお会いできたなら、きっと竹とんぼのお礼をお伝えしたい。

~ ~ ~

「全集中の呼吸」とはよく言ったものだ。

集中して真剣に竹を切っているとき、集中すればするほど、力を込めれば込めるほど、ハッと気づくと、息を止めていることが多い。結果、息も上がって動悸も早くなり、疲れやすい。

どんなときも呼吸を止めない。停滞させない。流れるようにしておく。

これは秘訣なので、意識した鍛錬の先に「全集中の呼吸」があるというのは、感覚的にも頷ける。「呼吸」への気づきを促したことはあの漫画の最大の功績だと思う。

~ ~ ~

などなど、取りとめなく考えては、浮かんでは消えしながら、ひたすらに竹と向き合っている。

空気が乾いて澄んでいるので、土の匂いや落ち葉の匂いを鮮明に感じる。鋸をかけると竹の香りがする。見上げると、木々の間からのぞく空が灰色となって寒々しい。遠くから人工的な音がかすかに聞こえるも、ここには調和の取れた自然界の音しかない。

腰が痛いのも、反復作業に飽き飽きしてくるのも、気持ちが急くのも、すべて年末だなぁと思う。

明日からは、竹に鉈をかける。寒くないと助かるけれど。


<了>


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