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【料理エッセイ】脚が痛いと言っていた祖母が緊急入院することになって、あれやこれやと忙しく、お弁当みたいな夕飯を食べましたとさ

 半年ぐらい前からだろうか。一人暮らしをしている祖母が右脚を引きずるようにしていた。

 大丈夫? と聞けば、年だから嫌になっちゃうと笑っていた。なるほど、80代になったわけだし、そういうものかと納得していた。

 でも、先々週のゴールデンウィーク、祖母の家に行ったところ、容態が悪化していて驚いた。痛みがどんどん激しくなって、買い物に行けないばかりか、寝返りを打つのもしんどくて、ちゃんと眠れていないというのだ。

 そのことを心配し、母親が料理を作りにたびたび訪れているんだとか。病院にも付き添ったけれど、診断は異常なし。様子を見ましょうで現在に至っているという。

 聞けば、近所の整形外科で診てもらったらしく、セカンドオピニオンを求めて別の整形外科にも行ったそうだ。結果、レントゲンを撮っても脚が折れていたり、ヒビが入ったりは特になく、

「なにが原因なんだろうねぇ」

 と、祖母と母親は不思議がっていた。とりあえず、マッサージとか整骨とか鍼灸とか、いろいろ試してみようかなんて話していた。

 口を挟むべきか悩みつつも、大学受験のセンター試験で生物を選択した程度の知識ながら(と謙虚ぶるも、本番で98点とったから自慢。えっへん!)、わたしは

「痛みって、脳がそう感じているだけの現象だから、思っているのと違う場所に原因があったりするよ。全身の神経をチェックしてもらった方がいいんじゃない?」

 と、疑問形で意見していた。

 案の定、母親は不満そうだった。

「それ、どこに行けばできるの? 整形外科の先生がわからないって言っているのに、どうしたらいいわけ」

 まあ、気持ちはわかる。母親は母親なりに頑張っているし、調べてもいるし、実際に動いてもいるのだ。急にわたしが横から異なる角度からものを言ったら、腹が立つのは当然である。

 ただ、こっちも別に喧嘩がしたいわけじゃなくて、建設的な話をするため、勇気を出してアイディアを提案しているんだよ。その辺、少しでも考慮してほしいなぁ。

 なんてことを思いながらも、その場でパパッとGoogle検索。すると、偶然、祖母の家から車で十五分ぐらいの場所に神経を専門で扱っている大きな病院があると判明。母親にシェアしてあげた。

 で、先日、祖母はその病院の診察を受けてきた。状況を話すなり、先生はたぶん原因は腰にあるだろうと事態をすぐに察したらしく、より詳しい検査ができる病院に入院するよう勧めてきた。

 可能なら当日。遅くとも翌日。緊急入院というやつだった。

 母親は仕事もあるし、どうしたものかパニックに陥り、わたしに電話をかけてきた。

「明日の昼間、暇だったりしないよね?」

 明日というのは平日のことである。30代で昼間から暇なやつなんて、普通はなかなかいないだろう。でも、わたしは昨年の秋に適応障害になってからというもの、ほとんど仕事をしない生活を送っているので、運良く例外の30代だった。

「おばあちゃんを病院まで連れて行けばいいんでしょ。任せて」

 そんなわけで重要なミッションを引き受けた。

 とはいえ、恥ずかしながらわたしは免許を持っていないので、GOアプリでタクシーを呼び、祖母と一緒に乗っていくだけ。

 目的地入力をしたところ、予想金額が1万円を超えたときには内心ギョッと驚いた。だが、背に腹はかえられぬ。むしろ、その金額で解決するなら安いものさと便利な世の中に感謝した。

 一応、検査入院と聞いていた。16時までに来てくれということなので、本格的な検査は次の日だろうと勝手に甘く見積もっていた。

 実際は着くなり、コロナかどうかのPCR検査をし、採血に、MRIに、レントゲンに、心電図に、尿検査に、予想外に忙しかった。てっきり、祖母を入院する部屋に送り届けたら、即効、終わるとばかり思っていたので、車椅子を押しての東奔西走に目が回ってしまった。

 入院に必要な書類を代わりに書いてあげて、看護師さんにバトンタッチし、祖母と別れた後、先生からMRIの結果について報告があった。

 やはり腰がメチャクチャになっていたそうだ。骨が砕け、神経が飛び出て、それが理由で右足が痛んだり、麻痺が出たりしていたのだろう、と。解決するには手術をするしかないようだった。

 夕方、帰宅ラッシュで混み合う電車で揺られながら、慣れない病室で緊張しているに違いない祖母を思って切なくなった。まさか、こんなことになるとは。

 なお、先生曰く、他に悪いところは見当たらないし、この症状は自然な老化現象で、別によくあることらしい。なんなら、この段階で病院に来れているだけマシっぽい。脚には異常がないと様子を見て、取り返しがつかなくなるケースも少なくないとか。

 それはきっとそうなのだろうと安心しつつ、一方で、元気だった祖母はいつまでも元気なわけじゃないんだという当たり前な事実を受け止めるのは難しく、車窓の外を流れる住宅の灯りに、ぼんやり、視線を落とした。

 自宅の最寄駅に到着。いつもの癖でスーパーに入るも、料理をする気になれなくて、かと言って食べたいお惣菜も見当たらず、広い店内を右往左往してしまった。

 結局、魚売場で筋子の醤油漬けが半額になっていたので買うことにした。おにぎりにしよう。

 家に帰る。諸々を一緒に暮らすパートナーに話すと、おにぎりを握ってくれることになった。ありがたや。

 期せずして暇になってしまったので、ささっと卵焼きを焼くことにした。残った油でソーセージも焼いた。野菜不足が否めないので、ほうれん草と豆腐の味噌汁も作った。面倒臭いので下茹ではサボっちゃった。こんなちょっとのシュウ酸だったら、尿路結石になったりしないよね?

 できあがったものをワンプレートに並べてみたら、なんだかお弁当みたいな夕飯になってしまった。

 あまりに質素で笑ってしまった。でも、いろいろあった日の夕飯はこういうのでいいんだよ。

 祖母の手術がうまくいくことを祈りつつ、おいしいご飯が食べられる喜びをしみじみと噛み締めた。

 無事に退院できたら、久々に、おばあちゃんのおにぎりが食べたいな。お見舞いに行くとき、そんな話をしてみよう。




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