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【映画感想文】こんな風に人生を重ねていきたいなぁ - 『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』監督: 宮川麻里奈

 角野栄子さんのドキュメンタリーを新宿シネマートで見てきた。もともとNHKのEテレで放送していた番組らしい。それを再編集し、かつ、撮り下ろしたものを加えて映画を作ったらしい。

 去年の9月に上映情報を目にして、これは見なきゃと公開日をカレンダーに登録した。2024年1月26日金曜日。だいぶ先だと思っていたが、気づけば、その日になっていた。

 公開初日に映画を見るのなんていつぶりだろう。思い出せない。そう言うと、さぞや角野栄子さんの大ファンみたいだけれど、正直、子どもの頃に『おばけのアッチ』シリーズを読んだ程度。たぶん、本当に追いかけている人たちと比べたら、にわかもにわかで恥ずかしい。ジブリ映画『魔女の宅急便』に原作があると知ったのは大人になってからだった。

 なのに、どうして、角野栄子さんのドキュメンタリーを見たくなったのか。ひとえにポスターのビジュアルにやられてしまったのだ。

 あまりにも素敵過ぎる。髪型もメガネも肌ツヤも洋服も。88歳でこんなに輝けるなんて。どんな生き方をしているのだろうと純粋に興味が湧いた。

 映画を見て、自分の考えの甘さに気づかされた。角野栄子さんの美しさは一朝一夕でどうにかなるようなものではなかった。

 1935年生まれの角野栄子さん。終戦の年は10歳だった。突然、世界が変わってしまったらしい。昨日までは絶対に勝つとみんなが信じ、お国のためなら命を捨てると大人たちは言っていたのに、そのすべてが意味をなさなくなってしまった。

 生活が根本からひっくり返った。そんな日本で女が自由に生きるために必要なことはなにか。角野栄子さんは徹底的に考え抜いたそうだ。そして、結婚。翌年には夫婦で自費移民としてブラジルへ渡った。

 帰国後、ブラジルで出会ったルイジンニョという少年をモデルにノンフィクション『ルイジンニョ少年、ブラジルをたずねて』を執筆。1970年、35歳で作家デビューを果たした。

 そのとき、角野栄子さんは書くことの喜びに目覚めたらしい。同時に、なにがあっても一生書き続けていくと決めたんだとか。

 書き続ける。それが言うは易く行うは難しなことであるのは、noteで記事を書いているのなら、みんな知っている通り。ほんと、毎日更新って何なんですよね。にもかかわらず、角野栄子さんは五十年以上に渡って、実際、ちゃんと書き続けた。で、どうなったのか。「魔法」が使えるようになった。

 映画を見れば、きっと、わかる。「魔法」じゃなければ説明のつかない奇跡がいっぱい、いっぱい起こりまくる。でも、奇跡は軌跡。角野栄子さんが重ねてきた人生の連なりなのだ。

 ああ。この美しさはどう生きているかではなく、どう生きてきたかの表れなのだと気づかされた。

 わたしもこういう人になりたい。たぶん、そう願っているから、自然、足が映画館に向かってしまったのだろう。

 最近、自分の未来を考えることが増えてきた。できれば、オシャレに楽しく、ワクワクありたい。そのため、大先輩の皆様がどう暮らしていらっしゃるのか、めちゃくちゃ興味が湧いている。

 去年、馬場あき子さんのドキュメンタリーを観に行ったのも同じ理由からだった。

 馬場あき子さんは1928年生まれの歌人。いまも現役で朝日歌壇の選者を務めているが、この方もとても美しい。

 やはり、重ねてきた人生が凄かった。若い頃、教職員組合の婦人部長として安保闘争で戦い、寺山修司などと詩作で切磋琢磨していたようで、わたしにとっては歴史上の人物にしか見えなかった。実際、中学生のときに配られた教科書に馬場あき子の詩は載っていた。

つばくらめ空飛びわれは水泳ぐ一つ夕焼けの色に染りて

馬場あき子

 空を飛ぶツバメと泳いでいるわたし。そこなら夕日が差してきて、飽和した赤に両者が渾然一体となっていく様子はあまりにも鮮やかだった。

 日常の風景に潜む一瞬のきらめき。これを写真でも、動画でもなく、五七五七七の限られた言葉で綺麗に切り取ることができるなんて。しかも、その人は自分と同時代を生きているなんて。とてもじゃないけど信じられなかった。

 でも、映画を見て、毎日書き続けているからなんだとしみじみ理解された。何百、何千、何万、何億、何兆と生み出された言葉を削りに削って、ようやくたどり着いた答えがあの五七五七七だったのだ。

 とどのつまり、角野栄子さんも馬場あき子さんも、ひたすら書き続けている。もちろん、そこには才能があるのかもしれないが、それよりなにより、尋常ならざる量をアウトプットしているという事実が厳然と存在していた。

 一般的に歳をとることはネガティブとされている。体力は落ち、見た目は変わり、頭もまともに動かなくなる。ふむふむ、おそらく、そうなのかもしれない。でも、わたしは角野栄子さんを見て、馬場あき子さんを見て、歳をとることに希望を感じた。なにせ、毎日書き続ければ、人間、驚くべきところにまで到達し得ると身をもって示してくれているんだもの。

 レベルは全然違うけれど、わたしはわたしでこんな風にnoteで記事を書き続けていきたい。ちなみに今日で87日連続投稿。あとちょっとで100日になる。

 これが1,000日とか、10,000日を迎えたときには、ちょっとぐらい「魔法」が使えるようになっているかも。本気でそんな夢を見ていたりする。




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