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【ショートショート】むかしは警察という仕事があったそうです (1,163文字)

「むかしは警察という仕事があったそうです。警察は公務員で、大きな町には警察署と呼ばれる施設があり、駅前や住宅街に交番という小さな小屋が設置され、制服を着た人たちが待機していたとインターネットに書いてありました。

「悪い人を捕まえたり、異変がないかパトロールしたり、落とし物を預かったり、みんなが交通ルールを守っているか監視したり、日常の平和を守るため、命懸けで働き、人々から尊敬されていたみたいです。

「その後、車の自動運転が普及した際、すべての自動車に全方位カメラが設置され、二十四時間のAIによる安全性のチェックが可能になりました。また、無人レジが普及したことで、店内と店外の監視カメラを通じ、ほとんどの場所で問題が起きていないか確認できるようになりました。

「結果、コスト面で人間が人間を監視する必要があるのか、激しい議論がなされました。特に野党が盛り上がり、警察の民営化を政治の大きな争点とすることで、見事、政権交代に成功しました。

「新政権はマニュフェストに従って、警察の解体を正式に決定しました。約五年に渡る調整の末、逮捕権を国家に移譲する形で、警察は警備事業を軸とする民間企業に改編されました。

「しかし、その頃には新しいテクノロジーが次から次へと登場し、街中を警備ロボットが巡回することは当たり前になっていました。その上、AIがビッグデータをもとに犯罪が起こりそうな状況を事前予想できるようになったので、99%以上の確度でトラブルは未然に防げるようになりました。交通事故に関しても、自動運転が義務化されたことで誰も気にしなくなりました。

「つまり、警察が警備専門業者になったとき、世の中から警備そのものが必要なくなっていたのです。自然、警察という仕事はなくなってしまいました。

「以上、技術の発展によって失われた職業について、わたしが調べた内容になります。ご清聴ありがとうございました」

 パチパチ。教室は拍手に包まれ、プレゼンテーションを終えたばかりの女の子は誇らしげな表情を浮かべていた。

「はーい。島本さん、素晴らしい発表をありがとうございます。警察という仕事がなぜなくなってしまったのか。とてもよくまとまっていましたね。では、次に須藤くんの発表になります。須藤くん、前に出てきてください」

「はい」

 男の子は元気に立ち上がり、女の子と入れ替わるようにみんなの前へと躍り出た。

「僕は教師という仕事について調べました。なんと、むかしは学校では人間が人間に勉強を教えていたそうです」

 生徒たちは一斉に、

「えー」

 とか、

「うそー?」

 とか、

「信じられない!」

 とか、色とりどりに驚きの声をあげた。そして、乱れた場を鎮めるため、先生AIはみんなの脳内に直接、

「こら。静かにしなさい。他のAIが発表中でしょ」

 と、優しく注意を促した。

(了)




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