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【読書コラム】小学生から「面白いよ」と教えてもらった本を読んだ - 『変な家2 〜11の間取り図〜』雨穴(著)

 わたしは小学生たちと読書会をやっている。以前、映画感想文で記したものと同じ活動で、なんだかんだ、週一ペースで継続している。

 みんなで読む本はわたしが選ぶのだけど、みんな、本が好きな子たちだから、毎回、雑談がてら、最近読んでいる本についてあれこれと話してくれる。その中で、オススメの本がいくつも出てくる。

 わたしはオススメされた本はぜんぶメモして、次回までに読んでいくようにしている。小説もあれば、児童書だったり、ライトノベルだったり、スポーツの技術書だったり、ジャンルは多岐に渡っている。たぶん、自分一人だったら買わないだろうなぁってものが多い。それでも、ちゃんと実物を購入し、ちゃんと最後まで読んで、感想を伝えてあげることにしている。

 子どもたちは思いのほか喜んでくれる。聞けば、大人からオススメされることはあっても、大人にオススメし、本当に読んでくれる経験はあまりないので嬉しいんだとか。

 なるほど、たしかに、言われてみればそうかもしれない。己の幼い頃を振り返ってみれば、自分が好きなものを大人も好きと言っていたら、それだけでテンションが上がったものである。

 最初は子どもたちが熱心にオススメしてくれるので、せっかくだし、一応チェックしておこうかなぁと軽い気持ちで始めたことだが、あまりに評判がいいので、気づいたら読書会のメインイベントみたいになってしまった。

 時間はかかるし、出費もかさむし、大変だけど、メリットがないわけでもなくても、いま、子どもたちの間でなにが流行っているのか、リアルな情報を得ることができる。

 先日、ある女の子に雨穴さんの『変な家2 〜11の間取り図〜』をオススメされて驚いた。なんでも、クラスの男子たちがハマっていて、休み時間の会話から興味を持ち、読んでみたらめちゃくちゃ面白かったと言っていた。

「これ、YouTubeで有名なやつだよね」

「はい。そうです。でも、動画のは怖いんで見れませんでした」

「そうなんだ。本は怖くなかったの?」

「怖いんですけど、文章だからそうでもなかったです。難しいけど、面白くって、長いけど、気になることがたくさんあって、どんどん続きが読みたくなります」

 そして、わたしたちの会話を聞いていたまわりの子たちも、

「面白いよね、変な家!」

 と、たちまち盛り上がりだした。

 雨穴さんのことは知っていた。YouTubeで『変な家』がバズったときにわたしも独特な動画に心を掴まれ、新作が出るたび見ている程度には追いかけている。

 本を出しているのも知っていたが、勝手に、無料で見れる動画を文字起こししているだけと思っていたので、これまで一冊も読んでこなかった。

 ただ、子どもたちの話を聞くと、動画は怖くて見れなかったけど、本は楽しいと言っていて、どうやらタイトルは同じでも別物なのかもしれないと興味が湧いた。

 なので、『変な家』『変な家2』の本を実際に買って読んでみた。すると、想像以上に動画と違っていたので驚いた。

 まず、動画は雨穴さんというYouTuberのフェイクドキュメンタリーなのに対し、本は架空のライターによるフェイクルポルタージュであり、メディアに合わせてコンテンツの構造が変わっているのだ。

(シリーズ100万部以上売れているらしいので、みなさん、ご存知な気はするけれど笑)

 加えて、『変な家』については動画の内容は最初の50ページほどで、残りの200ページぐらいは後日談になっていて、これがすこぶる刺激的! なんで、わたしは動画で満足し、これを読んでこなかったのだろうと激しい後悔に襲われた。

 しかも、『変な家2』は複数の形式が異なる11種類の資料を順番に読んでいき、最後に、それらをつなぐ大きな謎を推理するという動画では表現不可能な手法がド派手に使われていた。いったい、どういう頭をしていたら、こんな複雑な物語を紡げるのだろうと呆然としてしまう。

 そして、これを小学生が面白いと読んでいる現状にわたしは衝撃を受けた。こんな入り組んだ設定の本を楽しめるなんて、エンタメに対するリテラシーがあまりに高まり過ぎている!

 ただ、考えてみれば、子どもたちが触れているアニメも映画も音楽も、いまや相当レベルが上がっている。『呪術廻戦』でなにが起きているのかを理解して、マーベルのマルチバースを当たり前のように受け入れ、Creepy Nutsの『Bling‐Bang‐Bang‐Born』を普通に聞いているのだ。

 羨ましいなぁとつくづく思う。彼ら、彼女らが作り手に回るとき、これらを踏まえて新しいクリエイティブができるのだから。

 同時に、希望も感じる。これだけ難解なものを許容できるぐらいだから、未来の若者たちはややこしい問題にも向き合ってくれるような気がする。

 だとしたら、いまから、わたしたちもややこしい問題に向き合い始めてもいいのかもしれない。そんなこと考えても無駄と言われてしまうようなことでも、次世代にバトンを渡せるとしたら、たぶん、無駄にならない。

 そういう意味で、子どもたちが『変な家2』を夢中で読んでいると知り、わたしは胸が高鳴った。




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