【料理エッセイ】幸楽苑の「みそねぎらーめん」は"不良の味"
先週の金曜日、布団の中でXを眺めていたら、幸楽苑の「みそねぎらーめん」を愛でるつぶやきを見つけた。なんだか懐かしくなってしまった。
久しぶりに、そして漸く幸楽苑のラーメンにありつけた。
— 左と右(さとう) (@satowkun) April 27, 2024
幼少の頃から好きだった「みそねぎラーメン」。
その味は今も変わらず、その変わらなさに安心したし、そしてとても美味しかった。
自分にとって一番慣れ親しんだ味。
基本となる味。
これからも実家に帰るような気持ちで食べ続けたい。
わたしも子どもの頃、幸楽苑へ行くたび、「みそねぎらーめん」一択で通していたので、とっても、とっても、気持ちがわかる。途中、卓上の辛子ニンニクをドバッと入れて味変するのが好きだったなぁ、なんて考えているうち、あとは寝るだけの時間なのに、お腹がぐーっとなってしまった。
翌日、特に用事はないけれど、総武線で秋葉原へ足を運んだ。長いエスカレーターをくだり、昭和通り改札を抜け、首都高の下の交差点を渡ると幸楽苑平河町店が鎮座ましましている。
数年ぶりの訪問だけど、めちゃくちゃ綺麗になっていたので驚いた。注文もタッチパネルになっていた。
辛子ニンニクはなくなってしまったが、20円でおろしニンニクをトッピングできるみたいだ。その後、人に会う約束がないことを確かめて、「えいや！」とつけてもらうことにした。もちろん、メインは「みそねぎらーめん」を頼んでいる。
ワクワク。どきどき。
はしたないとはわかっているが、箸を片手に到着を待った。途中、他の人の丼が横切るたびに目線で後を追ってしまった。幼少期、母から、
「恥ずかしいからやめなさい」
と、怒られたことを30歳過ぎてやってしまった。なんて成長がないのだろう。見た目は大人、中身は子ども。逆コナンくん状態に我ながら悲しくなるね。
一方、運ばれてきた「みそねぎラーメン」は昔ながらの美味しそうなビジュアル！
ひとくちすすれば、そうそう、これこれって嬉しくなっちゃう。同じ変わらないなら、こういう風によい部分を守っていきたいよね。
特に、個人的な経験から、わたしにとって幸楽苑の「みそねぎらーめん」は反抗期の象徴なので、その変わらなさに対する喜びはひとしおだった。なんというか、そこに"不良の味"を感じるのである。
と言っても、別に、悪いことをしていたわけじゃない。高校生の頃、部活終わりに友だちみんなで国道沿いの幸楽苑へ行き、「みそねぎらーめん」を食べたというだけ。とにかくリーズナブルだったし、入りやすいし、席は広いし、思春期のお財布事情に優しいお店だったのだ。
ただ、しっかりお腹に溜まるため、夕飯が食べられなくなることがしばしばだった。結局、いつも、母が作ってくれたご飯を半分以上残していた。
幸楽苑に行っていることは秘密だった。聞かれてないので話さないという消極的な嘘だった。なにせ、当時は会話するたび、母と喧嘩になってしまう年齢。こちらから説明なんてするはずなかった。
例えば、母が、
「今日も残すの？」
と、責めるように尋ねてきたら、
「ダイエット」
と、名詞だけで返答していた。いま思えばディスコミュニケーション甚だしくて、本当、なにもかもが申し訳ない。
そんなある日、わたしの大好物のハンバーグを母が作ってくれた。できれば、これは食べたった。でも、やはりラーメンをキメていたので、大胆に残してしまった。
黙って、食卓を立ち去ろうとしたとき、母が大きな声を出した。
「いい加減にして！」
顔を見ると目を真っ赤に充血させて、じわり涙を浮かべていた。
「せっかく料理してあげてるのに、らーめんばっか食べてきて。本当、ふざけないでよ」
驚いた。まさか、らーめんがバレていたとは。
唖然とするわたしを鼻で笑って、母は、
「気づいてないと思ってたわけ？ バカじゃないの。誰でもわかるから。そんな風にネギとニンニクの匂いを口からさせてりゃ」
と、あまりにも単純な証拠を突きつけてきた。
ふーっ。息を吐いてみた。ネギとニンニクの匂いがふわっと漂った。
さすがに返す言葉が見つからない。
「……ごめん」
素直に謝ったところ、
「夕飯がいらないなら、いらないって言いなさいよ。この不良が」
と、言われてしまった。以来、わたしにとって幸楽苑の「みそねぎらーめん」は"不良の味"なのである。
やがて、受験の季節がはじまり、部活は引退。放課後、みんな、塾やらなにやら忙しくなった。
幸楽苑に行くこともなくなり、自然、「みそねぎらーめん」とは疎遠になった。母のご飯を残すこともなくなった。反抗期も終わりを迎えた。
あれから15年も経ってしまった。クイックペイで支払いをスマートに済ませ、ご馳走様でしたと挨拶し、颯爽と店の外に出たわたしは割と大人をやっていた。
紆余曲折はありつつも、育ててくれた母に感謝しなくては。
しかし、調子に乗ったのも束の間、信号待ちをしていたところ、自分の口からネギとニンニクの匂いがふわっと漂ってきた。
人と会う予定こそないけれど、このまま電車に乗ったら迷惑だよね。いやはや、もっと慎重になるべきだった……。うっかり漏れ出た"不良の味"を隠すべく、近くのコンビニへ駆け込み、ブレスケアを慌てて探した。
わかっちゃいるけどやめられない。いつまで経っても、わたしはそういう人間らしい。
マシュマロやっています。
匿名のメッセージを大募集！
質問、感想、お悩み、
読んでほしい本、
見てほしい映画、
社会に対する憤り、エトセトラ。
ぜひぜひ気楽にお寄せください！！
ブルースカイ始めました。
いまはひたすら孤独で退屈なので、やっている方いたら、ぜひぜひこちらでもつながりましょう！
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？