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アヒージョ

幼い頃から、母の勧めで、何にでもオリーブオイルをかける。

母は、恐らくはテレビから仕入れた情報で。オリーブオイルには、良い成分が入っていて。とにかく優れものだというのだ。


無論、母の口から、その当時、不飽和脂肪酸とか、オレイン酸という単語は、終ぞ、出てこなかった。


なんしか、身体にええねん!


尼崎出身の明るい母は、そんなことを言い飛ばして、私たち子どもに、とにもかくにも、オリーブオイルをかける習慣をつけさせたのだ。



その後、10年以上が経過して。期せずして私は、高校の生物学の授業で、その裏付けを得ることになる。


生物の担任は、非常に論理的な人で。格調高い、学問的な授業を施してくれた。だが、学びを軽視する悪ガキだった私は、英語の次にこの授業が苦手で。高1の1学期に、いきなり赤点だった。


にも関わらず、私が唯一、学生と名のつく時代に得た、記憶している学びは、この生物学の授業で、担任のK先生が残した言葉である。


即ち。



脂質は、人間の体内では生成できない。摂取するしか術は無いのだ。だが、摂り過ぎると、身体に害を及ぼす。


ところが、人間にとって、この上なく好都合の油がある。それが、オリーブオイルにたっぷり含まれる、オレイン酸である。

その効用は、悪玉コレステロールを減少させしめ、かつ、善玉コレステロールを損なうことは無いのである。

そもそも、オレイン酸のような不飽和脂肪酸は、酸化しにくい。人間の身体に害を及ぼす一番身近なものは、おおよそは、酸化、なのである。



化学式は、とうに忘れた。と言うよりも、メモもすらしていなかった。だが、どうしてか、この言葉だけは、頭から離れなかった。


幼い頃からの我が家の習慣は、正しかった。あの、うさん臭い母の持論が、実は、科学的に正しかったのだ。


実は当時、まともに野菜を食べ、白米を食べ、味噌汁を飲む和風生活をしていたのは、我が家では、私だけであった。母は、ときどきの流行には乗るが、すべて一過性で、結果的に習慣とはしない。

ところが野菜が好きな私は、ひとり、長年オリーブオイルを使い続け、ついには人生を通して、習慣と化したのである。


その生物学の講義のあと、ほどなく、突然、K先生は倒れ、在任中に、帰らぬ人となった。私の成績は相変わらず低空飛行だったが、なぜだか、学期末はギリギリ、60点の及第点だった。



さらに時を経て。このご時世で、体たらくな生活をし、ブクブクと太った。せっかくダイエットをして、ほどほどにまで体重を落としたのを、甲斐もなくリバウンドし、あわや三桁に乗ろうかというところまでいった。

会社の健診結果から、案の定、健康要注意社員、通称、要管理者ようかんりしゃのレッテルを貼られ、昨秋から、心機一転、食生活を完全に変えてきている。

私の健康法の軸は、大まかに言うと、野菜を中心にした食事である。

ある日の夕食


調理をせず、レンジでチンだけする温野菜を、たんまり食べる。そして、そこには、オリーブオイルをかける。


私は、何にでもオリーブオイルをかける習慣があったのだが、なぜか、リバウンドし続けた、このご時世のあいだ、オリーブオイルには手をつけなかったのだ。

気付けば、大量のオリーブオイルが残っている。

1本目
2本目
3本目

さて。これを、どうにか、無駄にせずに消化したい。でなければ、フードロスハンター(注1)を自称する自身のプライドが許さない。


そして私は、記事を書いた。すると、noteの世界の賢人達が次々にコメントをしたためてくれて、適切なアドバイスをくれた。



アヒージョにしてみたら?


調理ができない私は、さっそくネットを検索し、ごくごく簡単にできるアヒージョを探し当てた。


そして、作ってみた。


これだ。


プチトマトのアヒージョ


すると。


なんと、美味な!



ニンニクとそして、トマトの酸味がほどよくついたオリーブオイルの、なんと、豊潤で、口当たりの良いことか。

そして、そのオリーブオイルを、大量の温野菜たちにかけて味わう。これがまた、素晴らしく美味しい。



それから、このアヒージョ、私の、食卓の定番となった。

そうなると、オリーブオイルの消費量が、格段に上がった。瞬く間に、一本消化。

2本目も、もう、終了。


2本目、あがりっ!


恐らくこのペースで行くと、3本目までの消化は、ゴールデンウイークには、確実に完遂するであろう。



心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。

賞味期限切れであったのは言うまでも無いが、まあ、ご愛敬だな。

カロリー監視を手助けしてくれている、あすけんさんには、脂質の摂りすぎだと注意されているが、まあ、オリーブオイルのためだ。そのぶん、かなりカロリーを消費しているから、良しとしよう。

ダメな日も、優しくアドバイスしてくれる


家内は、この事実を、傍目はためで、きちんと監視している。


そして、確実に減っていくオリーブオイルを見て、無駄にしなかった私を、ごくごく、ほんの少しだけ見直している。


ソファーから声がする。


コジくん、過ぎたるは、なお、及ばざるが如し。りすぎた脂分あぶらぶんは、マッサージで、燃やすと良いらしいよ。


マッサージをすると、家内は、上機嫌になる。

家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて、平和である。


だから。


これで、良いのだ。




遠き記憶の中の通信簿に燦然と踊る赤点と、アヒージョのトマトの赤色が、はるか彼方の、今は亡き母と、命の尊さを教えてくれたK先生の記憶を呼び起こした。

心より、ご冥福をお祈り申し上げたい。こんな私に、命の教えを、ほんとうに、ありがとう。



(注1)世界中で社会問題にもなっている、フードロスを無くすために、まずは身の回りの賞味期限切れを無くすように、ひとたび賞味期限切れとなった商品をチェックし、たとえ賞味期限が切れていても、匂いや色や味見から食べられるかどうかを真剣に判断し、食べられるものと判断したものは、無闇に廃棄せずにきちんと頂く。そういう活動をする、ボランティアのこと。私が勝手に作った造語である。



今日の記事は、日清オイリオ×noteの企画に寄せた記事です。高校時代の、格調高い講義をしてくれたK先生へのオマージュを込めて、いつもの調子を保ち、少し文語調で、書いてみました。


■追記■
面ゆるって、なに?
それは、これ。西尾さんはじめ、みんな、面白い作品をあげていて。
私は、だいたい土曜日の夜に、そこそこの過去記事をあげています。
もしも、お時間があれば、みんなの作品、読んで頂けたら幸いです。






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