お金と信頼

うつらうつらとしていたら、お金がやってきた。
お金は、お金である。
お金はなんだか機嫌が悪い様子で、泣いていた。
ああ、なるほど。あなたはお金か。

お金が言うには、

お金のせいで人が狂うのではない。
お金の責任ではない。
自分を信頼する力を放棄した人間が狂っているのだ。
自分を信頼するには、時には痛みも伴う。
その痛みには、痛みの価値がある。
そんなこと、人間は知っているだろう?
なのに、
その痛みを回避して、信頼する力を自ら放棄して、
その代わりに、自らではないもので信頼に似せた鎧を作ってそれを着て、奇妙な呪文を唱えながらそれを見せびらかす。

「あんたの持っているお金とこれを交換してやろう。そうしないと、あんたは弱いままだ。だけどこの鎧をきれば、あんたも私のように強くなれる。」

そんなのまやかしだ。

お金が泣きながら言う。
お金のせいで人が狂うのではない。
自分を信頼する力を自ら放棄した責任は、その本人のもの。
お金は何も奪わない。

お金はますますイライラして、泣きながら言う。
お金はね、愛してるってしか言わないんだ。
だけどね、お金の声はとても小さい。
あんた、人間なんだったら聞いておくれよ。
お金はね、愛してるって囁きよりも小さな声でずっと言ってるんだよ。
愛してるって、あんたたち人間の言葉だろ?
お金はね、人間の言葉をたった1つ覚えて、
囁きよりもずっと小さな声で、いつでもたった1つだけ知っている人間の言葉を、
懸命に、ただそれだけ言っているんだ。愛してるってね。
お金はね、愛してるってしか言わないんだ。

お金があんまり一生懸命な様子でそう言うものだから、
私はなんだか泣けてきた。

透明な灰色の、澄んだ目。
お金には一途で純粋な信頼しかないのね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?