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夢:ピンク色のマナティー

ピンク色のマナティが、真透明な水の中を泳いでいる。
水はあまりにも透明で、どこまでも遠くが見える。まるで永遠が見えるかのように。透明な中に見える「向こう側」に、いつか辿り着くことができるかどうか。「向こう側」は永遠に向こう側のまま近づくことができないのではないのか。

私はピンク色のマナティの体の中にいる小さな存在で、ピンク色のマナティーの見る世界がそのまま私に見える。透明な水と、透明な水の向こう側に見える「向こう側」と、そして、どんなに前に向いて泳いでも「向こう側」は決して近づくことはない。水は冷たくて、ピンク色のマナティの体はポッと温かい。ドクンドクンと鼓動を感じる。

ある時点で、前進が止まった。静かに下に沈んでいく。ピンク色のマナティは私の存在に気づいているのかしら?ふいに不安な気持ちになって思わず、話しかけてみる「ねえ、I love you」。私に返ってきたのは、私の声の余韻だけだった。だんだん寒くなってくる。

静かに沈んでいくにつれて、どんどん冷たさが私の全体に染みてくる。どんどん沈んでいくにつれて、だんだんと暗くなってきた。どんどん沈んで、そして真っ暗な闇に到達して、そうすると、もう永遠い沈んでいくのだなということを知った。どんどん私の全体は冷たくなって、「ねえ、I love you」と言った私の声の余韻だけが残っていて、それがたまらなく切ない。誰にも聞かれなかった声を、私が私だけで聞いたのだわ。それは声ですらなかったのだけど。そして、私は死んだ。

幾年経って、死んだピンク色のマナティの体は水晶の塊になって、私はその水晶の体の中で米粒ほどの小さな真っ黒なオパールとなった。光のない深い深い闇の中で。

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