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11月の水色の海月

11月の夜の雨。

雨上がりの空気の気配を迎えるために窓を開け放っていたら、そこに透き通った空色の巨大な海月が入って来た。

海月ったら、窓から無理矢理身体をねじ込むものだから、ぐにぐにした透明な空色の身体が窓枠にぎゅっと引っかかってぐにぐにと捩れた。捩れたところはギャザーがよったような具合で、そこはぎゅっと青が濃くなった。

海月は部屋に入ると、きゅきゅきゅっと縮んで小さくなった。小さくなってから入ってきたら良かったのに、と思ったけど、もしかしたら部屋の大きさに海月が合わせたのかも知れない。透き通った空色の海月は椅子ぐらいの大きさになった。

それから、海月はやにわにポケットに手を入れてみかんを取り出した。海月って、脇にポケットがあるのだ。知らなかった。便利だなあ。

海月が器用な手つきでみかんを剥く。
花形に剥いたみかんの皮をポンと床に投げて、今度は、また器用な手つきで房を細かく分ける。じっと見ていたら、すっと私の目の前に、一房のみかんが差し出された。

し、、、、言葉にできないような心持ちになって、私は際限なく落涙している。

白鳥はかなしからずや空の青にも海の青にも染まず漂う 若水

海月の触手が延びて、私を巻く
透明な空色の触手が延びて、私を巻く
透明な空色が私を巻く
私の心は真っ黒けになってぐるりぐるりともんどりうって、ひっくり返って、ああ、切ない。

さあさ、三角ぴんからとっぴんしゃん
抜けたらどんどこしょ

透明な空色が私を巻く
真っ黒にもだえてぎゅうぎゅうのぎゅう。助けなんてこないから、真っ暗闇でじっとしている。四角四面の八面六臂が私の両肩を掴んで揺さぶった。

透明な空色の海月が、ポケットから真っ黒な退屈を取り出して、窓から庭にポヨンと飛び降りた。一粒、二粒、三粒。金木犀の横に退屈を植えた。

それから私は、透明な空色の海月の触手からみかんを受け取って食べる。
もんどり返って泣く。
泣きながらみかんを食べて、一房、二房、三房。

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