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【素人レビュー】耳で聞く空間芸術。neuheimeraltz『音楽の思い出』

強烈な雑音のもとで赤黒い煙が渦巻く工業地帯に、古めかしい機械の中で緑色の音波が撓む様。金属の擦れ合いやプレス音。工場排水の混ざった波音。その中で築き上げられる無垢な未来都市。neuheimeraltzのアルバム『音楽の思い出』を聞いて真っ先にイメージしたのは、そんな風景だった。

初めにことわっておきたいのだが、私はこのジャンル、つまりノイズがざあざあ鳴って断片的な電子音のメロディが流れ込むタイプの音楽には明るくない。というかマジで(若干齧った程度の)素人である。どんな機材を使っているのか、どんなアーティストを意識しているのか、細やかな表現にはどんな用語が当てはまるのか、そういったことは全く分からない。

しかしそれでも、「良いものを聴いた」ということはわかる。1曲目の冒頭からザラザラしたノイズが耳を擦り、駅の雑踏の中で聞こえる機械音や警告音のめいたものがひっきりなしに鳴る。リズムとメロディとハーモニーがある“いつもの音楽”とはまるで理屈が違うサウンド。それなのに耳は次第に旋律の輪郭を拾い、激しい音の中に景色を見出す。

ひっきりなしに聞こえてくる様々な「音」は鋭くて、受け取る脳はキリキリした痛みすら伴う。それなのに音の洪水が身体に馴染んだ頃には心地よい「音楽」となるんだから不思議なものだ。暮らしている町の喧噪を心地よいと思うが如く、このアルバムの楽曲は身体の一部になっていく。

この鑑賞体験は、「音楽とは何か」を考えさせられるものだった。音と音を組み合わせてひとつの像を作っていく様は、建築やペインティングに似ている気がする。たとえるなら、松脂が匂う真っ白な美術館でひとりきり、抽象的なインスタレーションの展覧会を眺めているような気分。ノイズの中に何を見出し、どう解釈するかはリスナー次第。まさに耳で聞く空間芸術だ。

ところで自分はファーストコンタクトの場合、敢えてアーティストが自称するジャンルを意識せず、なるべく知識が無い状態での第一印象を大切にしている。今回もそうして再生ボタンを押したのだが、本作を聞いたときにまず「ドイツっぽい」と思ったのは面白いところである。ドイツの音楽といえば、クラフトワークを大学の講義で1~2曲聴いたばかり。それなのにパッとドイツが浮かんだあたり、“ジャーマン・ロックらしさ”は音楽理論とは別の所にありそうだ。

■neuheimeraltz『音​楽​の​想​い​出』
2022年8月18日リリース
https://dusseldorfnite.bandcamp.com/album/--4
1工業的音楽
2.曖昧な色
3.反世界
4.旅先の風景
5.音楽の想い出
6.夢で見た
7.都市の音
8.自由が軋む

※公開当初アーティスト名を「Dusseldorfnite」と表記していましたが、正しくは「neuheimeraltz」となります。大変失礼いたしました。


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