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摂食障がいの克服151【一杯のお酒と、ひとくちのケーキ】

 【江國香織さんと、『左岸』上】

 江國香織さんの有名なご著書、『冷静と情熱のあいだ』。これは、辻仁成さんとお二人で完成された超大作です。江國香織さんが書き、それを受け取った辻仁成さんが書く。リレーのようにストーリーが進み、あのラストへと。映画化もされました。どちらかというと、私は自分の頭に画像が浮かんで、残っていたけれど、近年見直したら、映画がまた、美しかった。

 また、それをしよう。そんなお話合いの元、この『右岸』(辻仁成さんご著書)、『左岸』(江國香織さんご著書)が生まれます。

 ヒロインの茉莉が、幼少期から、40代になるまでの壮大なストーリー。

 茉莉は、兄が好きだった。人生そのものだった。しかし、その兄が自らの命を絶つ。茉莉が小学生低学年のころの出来事です。

 その後、高校生になり、茉莉は駆け落ちする。福岡から東京へ移る。1Kの間取りは駆け落ち相手の先輩の家。2人して先輩の家の台所で寝泊まりする。
 やがて、駆け落ち相手は仕事するモチベーションを失う。
 茉莉は残され、彼の先輩と暮らすことも考えるけど、出ていく。
 そのアパートの別室の男性に声を掛けられて、二人で生活する。
 やがて、その男性は茉莉に依存する。

 福岡に二人で帰るけど、茉莉はその男性を捨てる決意をする。
 そして、もう一度と決意し、大学に通う。
 そして、卒業の寸前、再び恋に落ち、卒業せず、結婚を選ぶ。

 そして、出産。

 【江國香織さんと、『左岸』下】

 人生の中でこれぐらいの大きな恋に落ちるということは幸せなこと。
 茉莉は大好きな人の子供を産む。

 大好きな人の親族と暮らす。

 幸せにたどり着いたある日、夫がご両親と乗った車で、全員帰らぬ人となる。

 茉莉は娘とただ二人、生きていく。
 
 この瞬間きっと、すべて色が白黒になっただろうなと、私も想像し、苦しくなります。こんな不幸、あり得ない。

 一方で、娘がいるという、この幸せもまた。そして、この娘が誕生することはきっと、決まっていた。右岸と左岸。

 茉莉は、娘と二人、フランスに渡る。

 そして、日本に帰国し、バーで修業し、のちにソムリエの資格を取り、ワインバーを経営する。その名前は、『ポスト・デサンス』

 夫はガソリンスタンドで働いていた。その名前をフランス語に訳した、バーの名前。

 【一杯のお酒にできること】

 そんな一節があるんです。

 茉莉自身は、お酒を飲むと『ふわって』するって。

 私は辛くなると、この『一杯のお酒にできること』を思い出すんです。

 茉莉のワインバーが存在することにより、どれだけの人が、幸せを感じて、帰宅するだろう、と考える。

 例えば同性同士で好きあっているお客様。
 例えば、割と裕福な紳士のお二人。

 帰宅前の少しの時間、幸せをくれる、こんなお店が私は大好き。

 【ひとつのケーキが壊す関係】

 そんなバーで、友達に、昨年の夏出会ったんです。

 『もしかして先日もお会いしましたよね?』と私が話しかけたのですね・・・。

 割とローカル的には有名な方だったみたい。(超ローカル。○○町的)

 何に惹かれたのか、当時の私に問いたい。けれど、ライン交換してしまった。そして、そのラインのアイコンが、事もあろうか、『ケーキ』。「お誕生日おめでとう」の、ケーキ。

 そして、間もなくお誕生日だった。

 【鬱なのに、がんばる癖】

 私、休職中なのに。

 出会ってしまったお友達のお誕生日のためにがんばりたくなってしまったんです。それで、出会ったバーに事前に行って、マスターにお願いしたんです。いつもお世話になっている方に、ケーキを持ってきてもいいですか、って。

 ちゃんと、ドリンク頂いて、お金を払って。
 『ケーキ、小さいサイズなら。バーナーで火もつけましょうか』って。嬉しかった。

 それで、友達のお誕生日の日、朝からケーキ屋さんにいって、ケーキ買って、マスターのところ持って行ったんです。

 『で、これ二人で飲みに来て、帰るときにでも渡しましょうか?』と言われて。

 あれ・・・ここでみんなで食べられると思った私って・・・

 
 そこで言われたことばは不透明にして。とりあえず、私ってばかだなーって思いました。また、マスターに自分のバカさを心底、謝ったんです。

 ケーキは、すぐに引き上げて自分で持って帰って、女友達に全部あげた。私も食べたかった。友達と食べたかった。

 5000円したケーキ、また事前にマスターにお願いしに行った2500円は宙に浮きました。対した金額ではないけれど、私は友達に喜んでほしかった。

 【マスターと友達】

 それでも、マスターのところに週に2度、3度、もしくはもっと通う友達。傷ついたけど、それをとやかく言える立場でもないから。

 そして私もそのお店が大好きだから。大好きなんですよね。居心地がいい。そして、フードが美味しいんです。また、常連さんがいい方たちばかり。私も大好き。

 けれど、けれど。

 あの時のあのケーキ、私も一口、友達と一緒に食べたかったな。

 摂食障がいになってから、ケーキどころか、甘いものは食べたことがほぼ、もう数年、ないから。食べてみたかったな。

 のちに、話したけど、友達には全然通じなかった。引っ越したばかりの私の家の、おふろ事情ばかり興味があったみたい。

 あの時、心配した女友達、男友達、ケーキ、自分らでよかったら食べるよ、と来てくれた。のちに話すと両親ですら、共感してくれた。でも、友達には通じなかった。

 友達と2人、このお誕生日の翌日に、お好み焼き屋さんに誘われたんです。

 私も食べることは苦手だけれど、美味しかった。ふいに真っ暗になって、ケーキが出てきたんです。このお店のマスターとママからだった。

 ああ、私がしたかったことだなって、私も『ハッピーバースデー』を歌いながら泣けました。

 それでも、今も一緒にいる。

 また、つい先日、友達のラインのアイコンは、私のケーキになった。そして、今も一緒にいる。そんなお話です。

 

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