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【老人ホーム】住所地特例制度とは【社会保障費のバランス】

この記事は2,039文字あります。
SNS上で、世代間の社会保障費負担に格差が大きい事への不満が噴出しています。高齢者寄りでだんまりを決め込んでいた大手メディアも取り上げるようになってきました。
実は以前にも、自治体間の保険料負担の偏りが問題になって、公的保険制度が改正された事があります。


住所地特例制度とは

国民健康保険・後期高齢者医療制度・介護保険は、地域保険の考え方から、住民票のある市町村(後期高齢者医療制度は都道府県内の後期高齢者医療広域連合)が保険者となって制度が運営されているため、住所を異動した場合に本来は保険者の変更も伴います。
そのため、ある自治体で介護施設や病院が多く建設された場合、どんどん他市から患者や要介護者が転入してくると保険財政を圧迫し、保険者間の財政的な不均衡が生じます。

他の自治体から要介護者の転居を受け入れると保険財政を圧迫する ©Minoru Matsuoka

そこで、他の自治体の病院や診療所、介護保険施設や有料老人ホームなどに入居(入所)する場合に限り、転居前の保険者が保険給付を賄うという特例的な決まりになっています。
これを、住所地特例といいます。

住所地特例の仕組み ©Minoru Matsuoka

住所地特例の対象となる施設

現状は以下の通りです。

  • 介護保険法第8条第11項に規定する特定施設(有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅を含む。)への入居
    又は同条第24項に規定する介護保険施設への入所

  • 老人福祉法第20条の4又は第20条の5に規定する養護老人ホーム
    又は特別養護老人ホームへの入所

  • 病院又は診療所への入院

  • 児童福祉法第7条第1項に規定する児童福祉施設への入所

  • 障害者総合支援法第5条第12項に規定する障害者支援施設
    又は同条第1項の厚生労働省令で定める施設への入所

  • 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園の設置する施設への入所

  • 障害者総合支援法附則第18条第2項に規定する共同生活援助
    又は共同生活介護を行う共同生活住居への入居

介護保険制度における住所地特例の対象範囲は、制度が始まってから法改正によって徐々に拡大してきました。
サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)はその名の通り「高齢者向け住宅」として制度がスタートしましたが、実態は有料老人ホームのように運営されるケースが9割を超えたため、有料老人ホームに該当するサービス(食事、介護、家事、健康管理)を提供するサ高住は、有料老人ホームとみなされて、平成27年4月から住所地特例の対象となりました。

住所地特例対象施設の範囲の経緯(厚生労働省老健局 資料)

地域密着型サービスは住所地特例制度の対象外

医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制(地域包括ケアシステム)の構築を実現するために、住み慣れた地域での生活を支えるため、身近な市町村で提供される「地域密着型サービス」の整備が進んでいます。
認知症グループホームを始めとした地域密着型サービスは、施設が立地している市町村に住民票がなければ利用できず、入居するときには施設所在地に住民票を移すことが法律で義務付けられています。
そのため、居住地ではない親族や友人が住んでいる住居に住民票を移してグループホームへ入所する行為が散見されました。
しかし、対抗策として一定の居住期間を過ぎなければ地域期密着型サービスを利用できない独自ルールを設けている自治体もあります。
介護サービス目的での住所変更は地域密着型サービスのあり方として不適切という考えです。

ところが、初めから他の市町村にある認知症グループホームの利用を見越して、住所地特例制度を利用し、グループホーム近隣の老健等に入居するテクニックが生まれました。施設入居後、ごく短い期間でグループホームへの転入を図るものです。
住所地特例の対象施設に入所する者が、住所地特例対象外の認知症高齢者グループホームに移ることで、グループホームの所在する市町村に介護給付費が偏ってしまうことは大きな問題です。
地域密着型サービスに対して住所地特例を適用すると、本来の地域密着型サービスのあり方と矛盾する利用形態が生じることとなるため、対策について様々な議論が行われています。

まとめ

住所地特例は、自治体ごとの公的保険の負担を均等にするため、施設入居の際に転居しても、以前住んでいた保険者(市町村)に保険料を納めて、公的保険サービスを受けられる制度です。

保険料は、住んでいる地域によって異なり、保険財政の負担が大きい市町村ほど住民が支払う保険料が高くなります。
反対に、保険財政の少ない市町村に保険料を納めれば、保険料の自己負担を安く抑えられます。
特に、第一号被保険者(65歳以上の方)の介護保険料は、高齢者の人口や介護サービスの利用者数などを考慮して、3年ごとに見直されます。
住民票を変更する地域やタイミングによって、介護保険料が安くなる場合もあれば、かえって高くつく場合もあります。

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