お兄ちゃん、見てて

十二年前、地元でも有数の進学高校で投身自殺があった。

高校の頃、私には好きな人がいた。
高校入学から少し経ち、隣のクラスの彼を見つけた。
高校に入るまで男の子はガサツに笑い、変にうるさい、汗まみれで身体を動かすことだけに生きているような、私と違う怖い異物だった。
だから彼みたいに顔がキレイな男の子がいることを、高校生になって初めて知った。
二年生になり彼と同じクラスになった。
彼は独りだった。
私がずっと男の子に感じていたような拒絶感を、クラスの空気を牛耳る奴らが彼に感じているようだった。
そして彼は三年になる直前でいなくなってしまった。
もう会えない所へと。

すっかり社会に揉まれ気付けばしなしなの30歳になった。今日は同窓会なので、会場にはスーツやカジュアルドレスに身を包む知り合いの面影がある知らない人たちの群れにいなければならない。
会は進む中、何かピリッとした緊張感が会場に伝播する。なんだろ?
振り向くと、あの頃と変わらない制服姿の彼 が来た。

同窓会にもういないはずのクラスメイトがあの頃の制服のまま、来やがった。
目が合うと奴は俺に笑顔で近づき、握手を求めてきた。
ガチャ。
握手し返そうとした俺の右手に、見慣れない手錠が掛けられた。
笑顔の亡霊は警察手帳を見せつけ、亡霊の仲間で会場で包んだ。
俺は捕まった。

俺の大好きな従兄弟はある日突然いなくなった。
彼は亡くなった。
命を奪われた。それを知ったのは俺が高校生になって俺の担任になった先生がキッカケだった。
少し打ち解けたような雰囲気を出して当時の従兄弟の話しをそれとなく聞いたら、ビンゴ。
コイツも黙認して、従兄弟はイジメを受けていたらしい。
俺にスポーツだけじゃなくて勉強もこんな風に考えると面白いよと、いろんな話を聞かせてくれた従兄弟のお兄ちゃん。
尊敬してたお兄ちゃんを、コイツらが奪った。
許さねぇ。
イジメはクラスでも黙認させていたらしいが、誰が率いていたか、誰が牛耳っていたかをこのクソ教師から粗方聞き出した。
倫理観が無いこのクソ教師は社会的制裁を別方面からいつか喰らわせる。
俺は高校を卒業し大学に進学した。その間にも当時従兄弟のクラスのヤツらの情報を嗅ぎまわった。
ネットは匿名で情報を漁れる。
そして突き止めた。首謀者の人殺しを。
コイツはのうのうと生き、結婚し、新しい家族を作り、起業して社長業をしているらしい。
よくも生きてやがるな。
俺の心は決まった。コイツの人生を終わらせる。

俺は警察官となり、人殺しをとっ捕まえる術を覚えていった。
証拠も証言も、脅し方も覚えた。

さぁ、クライマックスだ。
従兄弟の制服に身を包み、あの頃の従兄弟のような髪型に整える。
身体はひと回り大きいが、パッと見は従兄弟に似ていると思う。

お兄ちゃん。
お兄ちゃんを苦しめて殺したアイツを殺しに行くよ。

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