良かったもの2022
●まえがき
年の瀬なので1年を振り返って思い出を語ります。来年は頭から面倒くさい仕事が詰まっているのですでに全然楽しくありません。
みんなは俺のようになるな。
●漫画部門
今年読んだ漫画の中で印象的だったものをご紹介します。紛らわしい見出しですが、「今年読んだ」というだけで、今年発売のものとは限りません。
町田メロメ『三拍子の娘』
主人公の三姉妹が生活をしている、言ってみればそれだけの漫画。
姉妹は学生時代から両親と離別しているのですが、その経験を前向きに取り込んむことで(?)クヨクヨを日常に持ち込まない姿勢を体得しています。
すべてを手に入れなくても、自分の心の姿勢次第でいくらでも豊かになれることを教えてもらえます。
平方イコルスン『スペシャル』
所謂「日常」が砂上の楼閣でしかないことを丁寧に描いた、「アンチ日常系」とでもいうべき作品。
物語中盤までは不穏な要素が巧妙に隠されているため、「兆し」が見え始めてからはまさに急転直下の展開でした。
無意識にバイアスを持って漫画に向き合っている人ほど、読後に食らうダメージが大きいのでは。読む人によっては「卑怯だ」とすら思うかもしれません。
イトイ圭『花と頬』
甘酸っぺ〜〜〜。
現実ではあり得ない現実(=虚構)を「現実」として提示できるのがフィクションの良さですが、あえてそのメリットを使わず、「こういう人いるな〜」「こういうことあるよな〜」を丁寧に描く漫画も良いんス……。
『花と頬』はそういう作風で思春期の恋愛を描いた漫画です。ちょっと追加の発泡酒買ってきます!
冬虫カイコ『回顧』
私は暗い創作をする人を贔屓するので、ここで本作をご紹介します。
初単行本『君がくれるまずい飴』に続き、ジメッとした、しかしおそらくは作者にとっての「現実」が詰まっています。
作者の目に映っているものをもっと見たい、と思わせる魔力が詰まった唯一無二の1冊です。
●活字部門
穂村弘『蚊がいる』
自分にも思い当たる節がありますが、自分が心底ダメなヤツだという自覚を持っていると、周囲にいる人たちの何でもない所作をまぶしく感じ、畏敬の念を抱いてしまいます。
そんなところも含め、「この作者は私の20年後の姿なんじゃないか」と思った箇所が数えきれないほどありました。
エッセイ──人の価値観をのぞき見ることの楽しさがギチギチに詰まった1冊でした。
『厭な物語』
私は飽きっぽいので読書があまり得意ではありませんでしたが、本書は飽きずに読めました。
本書に収められたある1編(タイトルを名指しすることがネタバレになってしまう)を読んだあと、生まれて初めて「文学ってすげー!!」という感動を覚えました。
自分にとって忘れがたい1冊です。
田中純『デヴィッド・ボウイ 無を歌った男』
まだ読んでいる途中ですが、ネタ切れ気味なので本書をエントリーします。
ところどころで作者の想像の域を出ない記述があるものの、各年代のボウイの趣味嗜好と合わせて歌詞・ミュージックビデオ・ライブを読み解く、丁寧な資料です。
ボウイの作詞メソッドに関する作者の持論も、同じボウイオタクの一意見として読むと興味深いものがあります。
●音楽アルバム部門
Pixies - Doggerel
今年リリースの新譜。ピクシーズのアルバムとしてはかなり不思議な作風で、ボーカルもギターもおとなしめ。
本人たちもパブリックイメージとの齟齬を自覚しているのか、ツアーで演奏されているのは全12曲中4曲のみです(2022年11月現在)。
どちらかというとファンが愛着で聴くタイプのアルバムだと思いました。とはいえ私は結構気に入っています。
David Byrne - Grown Backwards
前作『Look Into the Eyeball』に引き続き、弦楽を大々的にフィーチャーしたアルバム。
のびのびとしたバーンの歌声と弦楽の柔らかさがあいまって、凄まじいヒーリング効果があります(当社調べ)。
童謡を彷彿とさせるような親しみやすい楽曲が多い一方、ボーナストラックには10分超えの大作「Lazy」も収録されており、ポップ一辺倒というわけでもありません。
バーンの音楽家としての懐の大きさを感じられる作品です。
LCD Soundsystem - This is Happening
「音楽好きが作ったのだなぁ」ということがよくわかる、微笑ましいアルバム。
ベルリン時代のデヴィッド・ボウイやイギー・ポップがふんだんに参照されているため、その2人のファンなら倍楽しめるかもしれません。特に「All I Want」と「Somebody's Calling Me」の2曲は元ネタ当てができるレベルなので、ぜひ聴いてみてください。
……という元ネタ談義なしでも十分に完成度の高い良作です(一応補足)。
●楽曲部門
Stevie Wonder - Summer Soft
そもそもこの曲が収録されている『Songs in the Key of Life』が音楽作品としてモンスター級なので、あえて曲単位での紹介としました。
夏のお散歩中によく聴いていたので、この曲をかけると一瞬だけ夏の匂いがします。
他の人の「特定の思い出に結びついている楽曲」の話がききたいですね〜。
björk - jóga
第一印象では抵抗感を持っていたのに気づけば毎日聴いている、という遅効性の毒みたいなハマり方をしました。
本当なら今年リリースの『Fossora』を取り上げるべきなのでしょうが、あいにくまだ積んでいるので、ライブまでには聴き込みたいと思います。
最初のうちは「どちらかと言うとヘタだな」と感じていたのですが、聞き込んでいくうちにどんどんうまく聞こえてくるので不思議です。これもビョークのミュージシャンシップのなせる業なのかもしれません。
おとぼけビ〜バ〜 - アイドンビリーブマイ母性
black midiのサポートアクトで聴いた演奏が強烈すぎてファンになりました。
MCで出た「去年はblack midiと同じ感じでワールドツアーもやってたんですけど……」という話はてっきり冗談だと思っていたのですが、演奏を聴くにつれて「もしかしてマジなのか……!?」と納得させられました(そして本当でした)。
ちなみに、「今年のアルバムランキング:アジア人アーティスト部門(NME)」では宇多田ヒカルを押さえて5位にランクインしたようです。すごすぎる。
●ライブ部門
「人は多いし音は悪いし、ライブってあんまり好きじゃないな……」と思っていた学生時代から一転、今年は多い時には3週間で3本のライブに通うというバンギャっぷりを見せました。
圧倒的成長といえるでしょう。
black midi
演奏がうますぎるし、とてもバランスのいいセトリで聴きたい曲はおおむね聴けたので大満足。
それはそれとして、フロントマンのジョーディがず〜っとステージ上でくねくねしていたのだけが本当に謎でした(野原しんのすけのケツだけ星人とほぼ同じ軌道だった)。
Franz Ferdinand
人生で見たライブの中で一番サービス精神旺盛でした。†アレックス・カプラノス†が体を斜めにして大股開きになり、客席に向けて指をクネクネする例のポーズをとるたび、その場にいた全員が否応なく恋する乙女になっていました。
オーディエンス全員が†アレックス・カプラノス†のファンサを渇望してあの場にいたことは間違いないだろうし、今思うとあれは「フランツ・フェルディナンドのライブ」ではなく、「†アレックス・カプラノス†信者の集会」だったのかもしれません。
Pixies
今年のベストアクトでありワーストセトリ。たくさん動いてたくさん歌って本当に楽しかったんですが、筆者が大好きな「Debaser」が聴けなかったことのダメージがかなり大きく、もはや悪い思い出になりかけています。
しかも大阪以外の会場では毎回演奏してたらしいです。大阪だけがDebaserなし。嫌がらせか?(オタク特有の被害妄想)
●映画部門
『トップガン:マーヴェリック』
「何歳になってもやったるぞ」というトムクルーズの意志と、「何歳になってもカッコいいもんはカッコいいな〜」という私の感想が完全に合致してました(断言)。
地球の外に向けて「映画」という文化を紹介するときはこの作品を使うべきでしょうね。
『シン・ウルトラマン』
私が特撮好きだったこともあり、非常に楽しめました。
シン・ウルトラセブンが制作されるかどうかでこれから先のライフプランが変わってくるので、庵野さんおよび樋口さんは早急に今後の計画を教えてください。
『わたしは最悪。』
ある程度の年齢や地位を得た人は「いつまでも自分勝手に生きていてはダメだな」というマインドを自然と獲得するっぽいのですが、本作の主人公にはそれがありません。
私にも今のところそんなマインドは一切ないので、すこし冷や汗が出ました。
所々でドキッとさせられる場面はありますが、押し付けがましくはない爽やかな作品でした。
『ソングス・フォー・ドレラ』
中学時代から大好きだったライブ映像作品です。長らく埋もれていたマスターがひょんなことから発掘され、キレイな映像が日本でも劇場上映されることになりました。
何といっても林かんなさんの和訳が完璧で、珠玉の90分でした。ボーッと生きていても、たまにこういうえげつない幸運に巡り合える。
●あとがき
社会人デビューの感想とかも書こうと思っていたのですが、「辞めたい」以上のことが何も浮かばないのでここで終わりにします。
みなさん良いお年をお迎えください!!
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