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できなくなった

オフィスの中にいると、「発言する」という動作を行うための助走が長くなる。

話したい相手は忙しくないか、話す内容は適切に整理できているか、質問を返されたらどう答えるか、第一声はどんなトーンで発するか……といったチェック項目をすべてクリアしてやっと口を開くことができる。

さまざまな障壁を乗り越える必要があるとはいえ、そのやりとり自体は特に楽しいものではないので、いつのまにか頭の中に「話す=面倒」という図式が刷り込まれてしまった。

その意識は、私の日常を少しずつディスコミュニケーションで塗りつぶしていく。

まずは店員さんの目を見ることができなくなり、次にバスの運転手さんにお礼を言えなくなり、最近ではふいに投げかけられる世間話にすら反感を覚えるようになった。

社会人になってから、自分が人間でいるために必要だと思っていたことが次々にできなくなってきている。

社会人と人間の両立はとても難しい。

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