ひとつの指文字が、コミュニケーションの原点を教えてくれた
私が、とある製造業の子会社に転職したときの話です。
その職場には聾者のエンジニアがいて、一緒に仕事をすることになりました。
今日の記事は、そのときのエピソードになります。
コミュニケーションの基本中の基本、ごく当たり前の内容になってしまうのですが・・・
私にとっては、非常に貴重な経験だったので記事にしたいと思います。
指文字を覚えたら、よく話かけられるようになった
聾者の方と一緒に仕事をするのは初めてだったので、予備知識がありませんでした。とりあえず、私が行ったのはインターネットで指文字を探して覚えることでした。
(当時は、まだスマホもなかったので家に帰ってから。)
※)
指文字とは、五十音の一文字ずつに、指の形を割り当てたものです。
名前や手話の分からない単語は、これで伝えることができます。
しかし、指文字だけでスムーズに会話ができるわけではありません。
「何かの役に立てば…」くらいの気持ちでした。
ただ、そんな心配は杞憂で、私が指文字を使ったときの彼らの反応は
「指文字を覚えてきてくれたんですか!?」
「彼、指文字を覚えてくれたんだよ!」
というものでした。
その後は、彼らの方から話しかけてくれるようになり、私の知らない手話を教えてくれるようになりました。
開発プロジェクトの方はというと、メンバー間に情報格差ができないように、
ミーティングはプロジェクターを使って、発言を画面上で筆記しながら進める(議事録も同時に作れるので一石二鳥)
相談はチャットを使う(当時は、チャット自体も普及し始めたばかりの頃でした)
など、皆で工夫しながら進めました。
要するに、いつもの開発と変わらず良い雰囲気で進めることができたのです。
それぞれ、別のプロジェクトに移った後・・・
一緒に仕事をした聾者の方から相談を受けました。
相談内容は「今のリーダーの下では上手くプロジェクトが回っていない」というものでした。
色々と話を聞いた後、そのリーダーとも話す機会がありました。
そのリーダーの言い分(不満?)は以下のようなものでした。
百歩譲って、その熱量は分かるとしても、問題はそれ以前のものでした。
聾者の方がいるのに、ミーティングは口頭ベース
自分は正しい事を言っているのだから分かるはず(分からないのは聞き手の問題)という態度
これでは、チームが上手く回るはずもありません。
当然、他の健常者のメンバーにも上手く内容は伝わっていないようでした。
コミュニケーションの原点
相手に上手く伝えるための文章力、話し方など、コミュニケーションを啓蒙する本は沢山あります。実際、「この人、喋るのが上手いな」と感じる人にも会います。
世間では、そういう人のことを「コミュニケーション力がある」と言っているような気がします。
しかし、私はもう一歩踏み込んで、以下のようなことに考えを巡らせます。
話が上手く伝わらない相手というのは、聾者の方、外国の方、他の職種の方、誰を想定してもよいです。
喋るのが上手い人でも、よく観察すると
「この人は、おそらく努力をしない人だな…」
と感じる人がいます。
そういう人のチームは、よほど現場のエンジニアが優秀でない限り(リーダー代理を務められる人がいない限り)上手く回りません。
私は、本当のコミュニケーション力とは、以下だと思っています。
相手に解ってもらおうとする努力ができる
相手を解ろうとする努力ができる
相手に「この人は、コミュニケーションを取ろうと努力をしてくれる人だ」ということが伝われば、そこからコミュニケーションが始まります。
私が人生で初めて使った指文字は「こ」でした。
私がこの指文字を使ったときの彼らの表情が、コミュニケーションの原点を教えてくれた気がします。
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