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世界は曖昧すぎる、手探りで口をひらく。

中身をなんとなく覚えた原稿用紙を持って、壇上に上がった。
学校の体育館、1000人超の人前で、マイクの前に立つ。わたしは微かな緊張を呑み込んですっと息を吸い、やがて話を始める。五分足らずの時間。
高校の弁論大会でのことだ。毎年国語の授業時間を使って話したいことを自由に書き綴る。原稿用紙二〜四枚分だっただろうか。全校生徒が書くそれは教員によって審査され、各クラス一人ずつ選出される。それから小規模な場で選ばれた生徒が弁論を行い、その内容・話しぶりから最優秀者を決定する。
高校二年次、わたしは最優秀賞を取った。すると全校生徒の前で発表する場が設けられる。体育館のステージ上に登壇して話すのだ。
選ばれるだろうな、と思いながら原稿を書いていた。少なくともクラス代表は間違いない、なんて。最優秀賞も狙っていた。そう、狙い通りだった。
内容は自分の病気のことだ。
この手の話はウケがいい(こういう言い方はあまりよろしくないかもしれないけれど、自分のことだから好き勝手言う。)
そう分かって書いたし、話した。
物心がついた時から不知の病を持っていて、それはわたしのアイデンティティだという内容。高校二年生というあの頃だから書けた。今ではその思考はもう通り過ぎて、持病を個性だとするのはn=1だから色々むずかしいなということを考えている。(当事者も、周りも)
あれから十年。人前で話す機会はほとんどないままゆっくり生きてきた。

わたしを取り巻く世界は変わり、

転職によって人前で話をすることが増えた。
社内外どちらも含めると自分としてはかなりの頻度だ。ありがたいことに予定がどんどん生まれる。
人前で話す機会なんてそう得られるものではないと思っていて、だから今の環境はほんとうにすごいと感じる。機会があるならどんどんチャレンジしたい。
絶妙なところで怖いもの知らず、と思う。とりあえず飛び込んでみよう精神がある。そこに抵抗感はほとんどない。だけどこれもn=1の話らしい。
全然嫌じゃないですよ、わたしに話せることがあるなら話しますよ。
チャンスを迷いなく掴んでいくわたしは、十年前の経験を思い出していた。1000人超の全校生徒の前で喋ったこと。あの時ですらひどい緊張はなくて、体質なのかな〜と思う。ほんの少しだけれど、部活で演劇の舞台に立ったこともあった。

体質。つまりわたし自身のこと。

わたしの話をしよう。
着飾ることが好き。見映えが整うと気分がいい。
話すことが好き。大勢の前でも、小さな輪の中でも、一人と一人でも。(あなたには話を聞いてくれる人が必要だよ、と言われたことを思い出す。それも複数人から。)
どれもこれもわたしらしさでありながらなんとなくちぐはぐさを感じる。
なんたって、きらきらと目立つようなタイプではないのだ。空気を盛り上げられる人間でもない。それにどちらかというと聞き役っぽい。潜在的な話したがりの、聞き役。
でもまあ、大人になった今はかつての頃を引きずる必要もないし、自分に素直になって、あまり考えすぎなくていいかなと思う。
そういう体質の話はいったんおわり。

自分と世界のことを考える。

人前で話す場があるということは、少なからず様々な人の時間をもらっている。
求められている話。退屈しない話。振りまく影響。聞いてよかった、話してもらってよかった、と思ってもらうことがひとつのゴール。
トークスキルという点ではあまりにもまだまだだ。こればかりは経験値。
だけど考えることはだいじだ。準備すること、とも言える。
わたしの怖いもの知らずは時として弱みとなり、なんだってできてしまう錯覚に陥るのだ。そんなわけがない。
いろんなことを考え、備え、そうして挑んだ時の方が満たされているように思う。ちゃんと燃える感覚。何もしないままふわっと突っ込むと、なんというか不完全燃焼。
(これを自分に戒めておくため、このエントリを書いている)

曖昧でむずかしい。

話をするということは定性的だなと思う。だから考えることがだいじで、むずかしい。
これにはこう、というはっきりした答えがない。それがおもしろいと同時にあまり得意ではない。根拠を持って論理的に思考を巡らせて答えを導く、ということの方がさくっとできる、気がする。(たぶん)(おそらく)(けして自信はない)
考え方にはちゃんとフローがあって、ステップに当てはめて一つずつこなしていくことでうまくいくのだとは思う。それでも不確かで、曖昧だ。
IT業界に飛び込んだ今だから思うのは、コンピュータ相手ですら答えがないのに人間相手だとなおさらだということだ。…それも正確に言えば、人間のために人間がコンピュータを扱うのだからまあ答えなんてないよねというところ。この仕事、一生コミュニケーションだなと考えている。
ほんとうにコミュニケーションの連続で、どう振る舞えばよいのか、何が正解なのか、お作法とか常識とか礼儀とか何にも分からなくて。社会に出た、という感覚を今さら抱いていて。まるで社会人一年目の気分。(五年目にして!)
きっと今すぐかたちになるものでもないはずだ。とにかくやって、考えて、話して。積み重なっていくはず。
わたしに多くを与えてくれる人たち・環境にいつか何か返せますように。
そしてわたしの話を聞いてくれる人たちにほんの少しでもよい影響、よい心地を与えられたらうれしいな。そのためのあれこれ、何も分からないし曖昧だけれど、手探りで進んでいこう

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