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「Wall of Eyes」The Smile(2024)

 もうこのまま活動を終えても良いのではないだろうか。松本人志の話ではない。レディオヘッドの話である。私はレディオヘッドは好きだ。嫌いだからこんな事を言うのでない。今でこそあまり聴かなくなったが、洋楽だけでいったら一番聴いたバンドだと思う。しかしそんな昔愛聴したバンドが活動終了してもいいと思う出来が今作である。

 トムヨークがレッチリのフリーと組んだバンド、ATMOS FOR PEACEがアルバムをリリースしたのが2013年。レディオヘッド×レッチリというというロックファンが目を輝かせるような組み合わせだったが、2枚目が作られる事は無かった。そういう前例があるのでThe Smileに2枚目があったのは多くの人にとって驚きだったと思う。そしてレディオヘッドのオリジナルアルバムの最後のリリースはもう8年前だ。「KID A MNESIA」の旧作編集リリースこそあったが、そろそろ新曲あるかと思ったらThe Smileの2枚目である。それこそ「KID A MNESIA」はレコード会社との契約枚数を消化するためだけのものだったのではないか、とも推測するのだがどうなんだろう。

 結局トムとジョニーグリーンウッド(Gt.)はレディオヘッドについて回る色んな雑事にほとほと疲れ切ったのではないのか。決してそういうコメントを読んだ事は無いけれども。あれだけビッグバンドになってしまうと広報、ブッキング、音響その他かなりの人数を抱えたチームになっているはずである。その人達を食わせる為にリリースしなきゃいけない、ライヴしなきゃいけない。今回はこれぐらい売りたいんでもうちょっとわかりやすいメロディを…と偉い人から言われたりして。スタッフ増えたので、もっとレディオヘッドらしい曲バンバン作りましょうだとか。やりたくて始めた事がやらなくてはいけない義務に変わってしまった。クソである。アートを志す彼らにとってレディオヘッドは売れ過ぎた。

 1枚目の「A light for Attracting Attention」を聴いてトムとグリーンウッドが今やりたい事はこういうモードと納得した人は多いと思う。「You will Never Work In Television Again」の初期衝動をなぞるような楽曲は、聴いて初めてトムヨークのこういうの聞きたかった!と潜在的ニーズを引き出されたものである。しかし2枚目今作にもそういう曲が2,3曲あったらいいな〜と思ったら、無いのである。自分に初々しい感情を取り戻すべくでもなく、自らの音楽を拡張させるためのトライでもなく、旅路の果てに腰を落ち着かせる場所を見つけたような感触をこの作品からは得るのだ。

 桜は散るからこそ美しい、という考えはもう古いだろう。ドライフラワーにしていっぱい売らなきゃの時代である。高度経済成長を終えてる国でのそれは、責められる事ではない。しかし、バンドは生き物であって欲しいというのも1音楽ファンの願いだ。もちろん積極的に解散して欲しいなんて事はないわけだが、誤解を恐れず言えばレディオヘッドは時代を越えるバンドでは無いと思う。トムもグリーウッドもそれが幸せなのでは?と今作を聴いて思ったまでだ。55歳を迎えたトムヨークがジャズの暖かみを持つトムスキナー(Dr.)を求めたのも必然な気がする。この3人の曲をもっと聴きたい。

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