採用の世界にも生成AIが迫る中、私たちはどう戦うか
生成AIが採用にもたらす変化
先日、BetterLeapという人材採用における革新的なスタートアップとして、生成AIを用いた人材採用のサービスが紹介されている記事を読みました。
既にChatGPTを業務に組み込んでいる人も多く、人材採用に特化した生成AIが入ってきたとしても、全く違和感はないかと思います。
それは、採用担当にとって多少業務を楽にしてくれることはあっても、大きく変化することはないからであり、さらには、採用はまだまだ人の介在価値が大きい業務であるため、スカウトメール一つとっても、ちょっとでもテンプレ感があると人はひいてしまうように、(現時点においては)AIが人の心の機微を感じ取れるとは思えないからです。
スカウトのカスタマイズ
最近だと、AIを使って候補者ごとにスカウトメールをカスタマイズ作成してくれるサービスなども出てきました(さらに機械学習でメッセージが日々磨き込まれる)。日々スカウト業務に忙殺される採用担当にとっては助かるサービスであり、さらに、人を増やす必要がないので、人材不足の昨今においては、魅力的に映るサービスの一つです。
実際、採用媒体によっても多少異なりますが、どの媒体もスカウト返信率は下がり続けています。これには様々な要因が絡んでいるので詳細は割愛しますが、いずれにせよ、職種や成熟レベルによって返信率が1%を切るというのも珍しくはありません。
数年前まで15-20%ほどの返信があったのが、今は1桁まで下がっている状況です。100通送って以前は15-20人から返信があったのに、今は4-5人とか。単純に、同じ人数から返信してもらうためには3-5倍多く送らなければなりません。
さらに、採用企業も増え、下がった返信数を取り戻すため、多くの会社は媒体会社に依頼してスカウト通数を増やします。結果、候補者に届くスカウトは今まで以上に増え、埋もれるスカウトメールが生まれることになります。今まで50通くらいなら全て見てくれていた人でも、200-300通なら見逃すことも増えてきているのです。
そうすると、採用担当にとっては、カスタマイズしてもしなくても見てくれないならAIに作ってもらった方が楽…となり、スカウトの数とかけたお金がモノを言う、ど真ん中のレッドオーシャンで戦うことになります。
そのくらい厳しい戦いを強いられているのが、今の採用なのです。
なので、生成AIを取り入れて業務を改善しようとしてる人たちは、次々とど真ん中レッドオーシャンの海に飛び込んできているので、その間に他の戦いをすれば良いというのが、今回のnoteの記事です。
私たちはどう戦うか
どこかの映画のタイトルではないですが、問題はどう戦うか、です。
今の採用市場は、結局は人材紹介と採用媒体頼みであることは変わりはないので、スカウトメールを送らないという選択肢は、残念ながらありません。
AIをうまく使いこなす、という表現が正しいのかもしれませんが、AIがまだ及んでいない領域で頭を使って戦うべきです。
具体例を挙げて説明します。
例えば、
転職意向が低く、かつ1日に100通もスカウトメールが届く人に送ったら返信はあるでしょうか?残念ながらほぼないでしょう。某人材サービスのCMでも「登録するだけで驚きのスカウトが来る!」と謳っている通り、転職意欲がない方の登録も多数あります。
このような状況でできることは、
1. まずはカジュアル面談から始めましょうと伝える
2. 一目で興味が湧くように件名を魅力的なものにする
3. 社長が会いますよと、社長面接確約をつける
などが挙げられます。
結論から言えば、こういうことは必ずやる必要があります。
ただこれは返信率を0.01%でも上げる小さな改善であり、他社がこれをやってきているので、何の差別化にもなりません。ただ「やらないことがネガティブに映る」のでやった方が良いモノです。
次に考えることは、
1. 直近でログインした人に送る
2. プロフィールを更新した人に送る
3. 転職意欲が高い(すぐに転職したい)人に送る
4. 他社の話を聞いている人に送る
で、完全にスピードと手数勝負の状況です。
"採用を効率化しよう"と考えたら、非常に理にかなった内容です。
返信の可能性が高いのは、半年ログインしていない人より、今日ログインした人であり、プロフィールを更新したのは企業に見てほしいということです。優先順位は転職する気がない人より、転職意欲がある人が良いし、既に他社の話を聞きに行ってるなら転職意欲が高くて間違いないだろう、と。
ただ、もっとスカウト送らないと採用できないですよ、別のプランでやらないと他の会社に持っていかれますよ、と使えるお金(*)が多い方が勝てる可能性が高くなる勝負になってきていることに気が付かねばなりません。
*採用予算が多いか、採用担当の人員が多いか、採用に対する経営陣の意欲が高く時間を割いてくれるか、など
では、どう戦うするべきか。
これからは、本質的な採用活動について言及していきます。
そもそも本質的な採用活動というのは何かというと、どのような手法を使うのかというHowの議論に振り回されずに、何のために採用するのかというWhatを重視すること、と私は考えています。
応募数がどれだけ増えようが、面接をいくらこなそうが、採用に至らなければ意味がありません。新しい手法を取り入れることも重要だし、採用プロセスを可視化し、各数値の改善を進めることはもちろん大事です。
ただ、何のために採用するかというと、会社が実現しようとしている事業成長のためです。そのためには、入社という形で成果を出さなければなりません。
その上で、下記のようなことを考えてやると、圧倒的な成果が出ます。
1. タイミングを逃さない
2. 企業の特徴を捉える
3. キャリア傾向を見る
*1から順番にハードルが上がってきます。
1. タイミングを逃さない
今年6月に某料理レシピサイトを運営する会社が、従業員の約30%の人員削減というニュースが話題となりました。この発表の前と後ではここの社員のスカウト返信率は大きく異なったのは、容易に想像できるでしょう。
そうです。中で働く人の、動く理由ができたからです。
(一方で、この発表がニュースで取り上げられ、SNSでも祭り状態になった後では、全く相手にされませんでした。SNSで直接連絡取る人があとをたたず、それこそ何百通とスカウトをもらった方もいたそうですが。)
某料理レシピサイトで働いている人が、動くタイミング(*)でコンタクトを取るのです。今回の例は、祭り状態になったので誰もが知ることとなりましたが、他にもこっそりレイオフしたり、外向けには急成長企業!と謳っておきながら、業績悪化に伴い採用を完全にフリーズしてる企業もあったりします。
*これをネガティブな転職と考える人もいるかもしれませんが、会社によっては業績のことは社内に一切共有されていなかったり、ある程度の規模になると「うちに限ってそんなことはないだろう」とタカを括ってたりします。ある日突然、という心境なのかもしれません。
話を戻すと、
自社の募集要件を深く理解し、どこの企業の、どこにいる人であれば、どの職種での採用へつながるだろうという仮説のもと、ターゲットの企業を複数作っておくのです。そして、決算情報などを確認することはもちろん、彼らが戦っている競合や市場から判断し、この後苦戦するのか、逆に伸びるのかを図り、近未来を想像することで、数勝負にならなくて済みます。
ですから、日経新聞等で広く情報を収集したり、気になる企業があったら、社長が書いているnoteを読んだりもします。ただ、noteは途中で端折っていることも多いので、きちんとプロセスがまとめられているという意味で書籍も重要になります。もちろん、そこで働いている人がどんな人がいるのか、という経験があるとベストです。必要な情報を常に入れておくことで、適切なアクションが取れるといういい例です。
2. 企業の特徴を捉える
1とも多少関連することですが、会社によって内部事情が色々あります。
例えば、コンサルティングファームといえば、昔は「up or out」だったので、一定数昇進のシーズンで転職を考える人が出てきます。そうなると、◯月が昇進のシーズンということを把握しておけば、そのタイミングを見計らって声をかける、というのができるのです。これは過去の常套手段でもありました。
UPしなかったとしても、次の機会に回されたとか、上がりすぎると事業会社に転職しにくくなる、とか色々あるので、評価が低かったとは一概には言い切れないのです。ですから、もしコンサルティングファームをターゲット企業とするならば、いくつかの企業の昇進タイミングをリスト化し、そのタイミングで声がけをした方が良いでしょう。
また、3年経つと退職金が出る、RSU(譲渡制限付株式ユニット)が付与されるとかもあります。会社によってほんと様々です。実際に、これらをもらってから辞める、というのは転職市場では常識になっており、この知見が溜まれば溜まるほど、採用活動を優位に進めることができます。
これ以外にも、ある企業では、新卒は給与高いのに、中途は低い(逆もたまにあり)とか、◯◯大学以上じゃないと昇進できないとかもあったりします。
ですから、ベンチマークしている企業については、まるでその会社にいたと間違われるくらいの内部情報を仕入れておくと、スカウトの返信率はもちろん、面接でも会話のネタが増えるので絶対にやるべきことの一つです。
3. キャリア傾向を見る
これは完全に経験がモノを言う世界で、こういうキャリアであれば、転職するだろうという傾向を読み取ることができます(昔でいえば、「この書類から匂いを感じる」的な)。
例えば、
「この人は◯◯大学卒業して、△△商事から××テックのキャリア。新卒で△△に入っているくらいだから、競争を潜り抜けてきた自負もあるようだし、××テックは上が詰まってるから、早晩辞めるだろう。でもなんで第一営業部ではなく、第二営業部に配属されたのだろう?学生時代の研究内容見る限りだと、第二営業部には適性なさそう。××テックでは第一営業部がやってきた内容をDX専門にしたような企業だし、第一営業部へ行くことの希望が叶わず、転職したのか?だったらなぜ××テックやめるのかな?ここの社長は…」
など書類を見て、1分くらいでこのようなことを考えることができます。
何名もの候補者のプロフィールを見て、何名もの面談を繰り返したからこそ見える世界ではありますが、 △△商事がどんな会社かを知っていて、××テックも伸びている企業なので常にチェックしている。これに加えて、大学の偏差値から、新卒の就職ランキング、そして、実際に入社した人たちと話してきたという実体験をもとに見えてくる世界です。
AIが入っても脅威と思わないのはこの辺りかもしれません。
一方で、候補者側へのアプローチは、生成AIが助けてくれるという意味合いであったとしても、社内向けの採用活動はそれが変わってきます。
AIによる暗黙知の置き換え
採用担当の仕事には、かなりの暗黙知の部分が存在します。
暗黙知というとイメージが悪いかもしれませんが、あえて形式知にする必要のない知見やノウハウです。
この暗黙知のイチ部分がAIに取って代わられる可能性がある、というのが今の生成AI参入に対する私の見解です。
例えば、現場の上長になる人とのMTGで、
「今回募集のA職種は、過去B職種を募集した時の要件とほぼ同じですね。2次面接でタイミングが合わずご辞退となったCさんに、再度お声がけしてみてはいかがでしょうか?」
「A職種の募集時に比べて、今は求人倍率が倍以上に高くなってますね。以前より確実に時間がかかることが想定されますが、入社時期は6ヶ月後を想定してもらって良いですか?」
「B職種の要件で、ビ◯リーチで調べてみましたが、候補者はいるのですが、年収帯は合わないようです。オーバースペックの可能性もあり、これらの候補者が要件にあってるか確認してもらえますか?要件を下げることも検討しましょう」
「B職種は、返信率が5%前後なので、5名面接するなら100通くらいスカウトを送る必要があります。今、検索してみたら200名くらい候補者がいるので、まず転職意欲が高い人から送っていくのはどうでしょう?」
など、提案することもあります。
ただ、A職種とB職種の要件を知っていたのは、過去の事例から導き出したものであり、かつ2次面接でご辞退になったCさんについても同様です。
これらはたまたま頭の中にあったからよかったものの、過去の情報と、今ある情報を結びつける再現性は、100%ではありません。そもそも毎日何名も面接したり、何件もスカウトメールを送ることに終始しており、過去を考える時間がない、というのも要因としてあるからです。
過去と現在の情報を結びつけるのは、AIが得意としていることです。
そのため、もしAIがATS(候補者追跡システム)と連携し、即座に過去のデータを洗い出し、上記のような提案してくれるのであれば、現場は、採用担当を頼らずにAIから受けた提案を実行すればいいだけです。
採用担当は、部門に対するパートナーであるのですが、AIに頼ることになると介在価値が低くなっていきます。ただ、業務要件のより深い理解、B職種の出した時の転職市場動向、Cさんの本当の理由、などはAIでは読み取れない領域ではあるので、より採用担当でしか出せないバリューを生み出していくしかないのです。
最後に
このnoteを書くのに、実は何回も書き直しました。
最初は、生成AIを使って何ができるか、次に、生成AIによって採用担当の仕事はなくなるか、そして最後に生成AIが迫る中で何ができるか、に。
結局書いている内容はそんなに違いがなかったものの、最近では、色々な人が採用の仕事に携わるようにもなり、割と簡単に見えてしまったり、SNSで目立てばいいみたいな目もあり、採用という仕事の難しさと奥深さを伝えたかっただけなのかもしれません。
今や求人広告を出したら勝手に応募者が集まってくれる時代ではなく、自分たちから積極的に声をかけ、人材紹介会社とも密な連携をしなければ採用に至りません。
その中で採用担当は、日々のスカウト業務に忙殺され、頭を使うこともできない。さらには現場からは「ああしろ、こうしろ」のサンドバック状態。生成AIによって業務負荷が大きく減るなら大歓迎です。
楽になることによって、人と向き合う時間が多くなるはず。
いや、多くしなければ意味がないのです。
忘れてはならないのは、私たちが対するのは人。
AIを使ってどれだけ便利になったとしても、スカウトメールを送る先の人の顔を想像できなければ、全く心のこもらないメールになってしまいます。
人とのつながりは、そう簡単なものではないのです。
AIをうまく活用して、AIではできないことをする。
当たり前のことをやっていきたいと感じた日でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?