サークルで出会ったかわいい後輩くん

大学4年生の春
私にとって最後の新入生歓迎会が始まった

4月は新入部員のかき入れ時で
どのサークルも必死になって呼び込みをしている

新入部員が多いサークルは、他のサークルにマウントをとることができる、そんな風潮があった

私はもう4年生だから、メインとなって動く後輩たちの邪魔にならないようにしながら、細々と楽しむつもりだった

それなのに、今年も後輩にたくさん笑顔をふりまき
明るいお姉さんを演じてしまうのだ

本当は根暗で、家に帰るとドッと疲れが押し寄せ
灰になってしまうというのに
 

その年もうちのサークルは大盛況だった


新入生の中に一際目立つ子がいた

彼はスポーツの実力があって
リーダーシップも兼ね備えていた

ハキハキとしていてコミュ力が高い
飲む会にも必ず出席する
THE 先輩に好かれるタイプ

私は彼を素直でかわいい後輩だなと思った
それとメガネを外したほうがカッコいいのに、と思った

最初はその程度の気持ちだった


 
サークルを引退する夏までのことはよく覚えていない


私がサークルを引退する日の飲み会で
その後輩くんが絡みにきてくれたことはよく覚えている

私たちはかなり酔っ払っていたから
周りにどう思われてももう関係なかった
顔をくっつけて2人とも良い笑顔で写真におさまっていた



彼はいつも私に
「尊敬しています」「大好きです」
と言ってくれた

それがとてつもなく可愛かった

自分に自信がない私は
彼のまっすぐな言葉や態度が嬉しかったし
彼に必要とされている気がして
自己肯定感が高まった


大学の授業や実習が上手くいかず
頻繁に死にたいとメンブレしていた私にとって
彼の言葉は大袈裟ではなく、生きる糧だった

彼の前では反射的に、
可愛いくてかっこいいお姉さんを演じていた



私には当時付き合っていた彼氏がいた
しかし彼氏には不満を感じていて
もう愛情はなかった

別れたいとはなんとなく思っていたが
なにせ田舎の小規模な大学だったので
そういう色恋沙汰はすぐに学内中に広まるのがわかっていた  
そうなれば私の立場が危うくなる

国家試験の勉強で忙しい日々を過ごしていたので
そんなことに時間やメンタルを割きたくなかった

別れる方がめんどくさかったのだ



私と後輩くんはほぼ毎日LINEをしていた

たわいもないこと
授業のこと
実習のこと
サークルのこと
私の好きな音楽のこと 
彼の好きな映画のこと

話すことがなくなっても
なんとか会話を続けた

彼が私のことを好いていることが
ひしひしと伝わるLINEは
とても気持ちが良かった

私もあざとい女になって
彼を喜ばせる言葉を必死にチョイスしていた

たまに開かれるサークルの飲み会で
顔を合わせると少し恥ずかしかった
   



私は本当は後輩くんのことが好きだった

でも、告白はしなかったし 
してくる隙を与えなかった

後輩くんと付き合うということは
2年付き合っている今の彼と別れなければならないこと
それは私が孤立する可能性が高いということ


いやちがう


そんなことは二の次だ



後輩くんに本当の私を知られるのが怖かったからだ

私は彼が尊敬するようなお姉さんなんかじゃない

明るくなんかなくて
頭が悪くて
雑な暮らしをしていて
少食なんかじゃなくて
化粧で顔をごまかして
可愛いを必死に作っている

きっと彼の理想像とはかけ離れている

「付き合ってみたら全然違った」
そんな風に彼に思われたり
サークル中に私の悪い噂が広まるのが嫌だった

だから私は彼氏と別れられないことを理由に
後輩くんとの関係を曖昧にした




3月になった
国家試験には無事に合格した
春から新社会人だ



卒業式の日

「一緒に写真を撮ってください」
後輩くんが言いにきてくれた

嬉しかった 

私の袴姿は彼に一番に見て欲しかったから

「卒業しても会ってください」
まっすぐ私の目を見つめながら言ってくれる

彼は恥ずかしい言葉を
私が欲しい言葉を
少し恥ずかしそうにしながら伝えてくれる

そんなところが大好きだった


その月、私は地元を離れて
関東に引っ越した

(続)

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