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【観劇レポ】ロンドン ミュージカル 『Dear Evan Hansen』 /チケット文化の違い

ロンドンに留学中の女子大生です🇬🇧

前回、前々回と小劇場のストレートプレイが続いていましたが、今回は大劇場のグランドミュージカル、『Dear Evan Hansen』を観劇しました \♡/
去年映画で観て音楽ストーリー共々大好きになった本作、舞台は日本未上陸ということで、ロンドンで堪能してきました!!👕


劇場について

Noel Coward Theatre、レスタースクエアと Covent Garden の中間地点にあります。周囲にお洋服屋さんや雑貨屋さん、カフェ、パブ等が並ぶ、栄えているエリアです。

外観がとっても素敵なんです。明るい時にはお城のような細部の作りを、日没後は幻想的なライトアップを楽しめます✨

対して内部は、想像よりも小規模でした。正面エントランスから入ってすぐのロビーも小さめ、お化粧室も狭め、客席は2階までで、調べたらキャパも872席と、めちゃめちゃ大きい訳ではないみたいです。
私は開場と共に入場したので、結構ごった返していました。観劇月の下旬にロンドン公演千穐楽だからか、全体的な熱量も高めだった印象です。

緞帳はなく、下の写真のようにセットが予め見えています。
感想のセクションで記述しますが、本作はSNSがテーマのため、舞台各所に設置されているスクリーンが SNS(twitter) の画面になっていました。通知音と共にそれらが更新されていく様子が面白かったです^^

開場中、1階前方下手側



席種/チケットについて

個人的な期待値が高めだった本作、奮発して前から3列目を取りました!
とは言っても中の上くらいです。日本だと席種は3種類程度ですが、こっちでは下は £20 (3000円強) 前後から、上は £170 (30000円弱) まで、全7,8種類ものお席があります。加えて、購入時に席を自分で選択します。
ファンクラブとか先行抽選みたいな概念はないのではないでしょうか…
日本では人気公演だと、幕開ける前から全公演完売!ファンクラブ入ってないとチケット取れません!とかざらにあるじゃないですか、こっちだとどんなに人気公演でもそういうのは聞かないんです。どういう違いなんでしょう…「誰でも楽しめる文化」としてのミュージカルの実現は、日本ではまだ先になりそうだなあ、と感じました。

1番高いのは、基本的に1階の10列目前後のセンターブロックと、2階の前数列のセンターブロックです。そこから周囲に広がるにつれてお安くなります。なので、10列目どセンよりも1列目どセンの方が安い、みたいな現象が起きます。そんなこんなで、私も手の届く価格で3列目の端をゲットした訳です。

客席内内装



作品について

2015年にアメリカでオリジナル作品として初演を迎え、その後トニー賞を受賞、2017年に小説化、2021年に映画化されています。
映画や小説が舞台化されることはよくあっても、今回のような逆のパターンは珍しいのではないでしょうか。

主人公は、社会不安障害を抱える17歳の男子高校生、Evan Hansen。精神科の先生に勧められ、タイトルにもなっている "Dear Evan Hansen, " 今日はきっと良い日になるよ、と自分に宛てた手紙を書いています。
詳細は割愛しますが、その手紙とクラスメイトであるConnorの死を巡り、Evanの世界が、彼自身が、大きく変わっていく物語です。



感想

なんと言っても歌が良い!!
1曲目の "Anybody Have a Map?" や 2幕の "Good for You" では母親陣の歌の迫力と安定感に、Evan のソロ曲 "Waving Through a Window" "Words Fail" 等では流石座長の歌唱力・表現力に、圧倒されました。"Sincerely, Me" では男子高生3人の軽快なダンスとテンポにこちらまでノリノリになり、EvanとZoeのデュエット "Only Us" では2人の間に流れるロマンチックな雰囲気に魅了されます。"Requiem" ではConnorの家族、それぞれの思いが交錯して重なり合う様子に、"You Will Be Found" では皆の思いが1つになり熱量が最高潮に達する様子に、感動し、心震えました。全部大好きです。

ただ、キャストの数が思ったよりも少なく、プリンシパルによる展開が主でアンサンブルが少ないんですね。だから、"You Will Be Found" 等皆が声を合わせる歌では、他の大勢のキャストによるグランドミュージカルの歌と比べて弱く感じる部分もありました。
他方で、人数が少ない分、ストーリーに沿って各プリンシパルの心情を追いやすかったです。特に、映画ではあまり注目しなかった、母親陣に目が行きました。『Next to Normal』のダイアナ然り、舞台で描かれる母親って強くて格好良くて何だか魅力的に感じます。きっと、舞台では彼女ら自身にスポットライトが当たっていない場面でも、常に家族、子供のことを思い、覚悟を持って母親として行動をしている様子が見えるため、時に温かく、時に健気で切ない姿が印象に残るから。テレビや映画等の画面ではフレームに入らないような部分をも描ける舞台はやはり素敵ですね。
Evanは、映画で受けた印象よりも社会に馴染んでいる印象でした。「あれ、結構普通に周りとコミュニケーション取れてるじゃん」と思いました。
Connorは、キャストさんが背が高くて細くてすらっとしていたので、問題児よりかは好青年な感じがしました…笑 Connorの横暴ぶりが舞台ではあまり具体的に描かれていないからかもしれません。
Zoeちゃんは可愛いですとても。強い芯と周囲への配慮の心を兼ね備えた魅力溢れる女性。Evanとお別れしても幸せでいて欲しいです (誰目線
Alanaは、映画ではソロ曲もありバックグラウンドが丁寧に描かれていましたが、舞台ではソロ曲もなく、そこに焦点は当てられていませんでした。

場面やストーリーの展開のテンポはかなり速いです。
セットも大掛かりではないので、映画や本である程度の情報を得てから観た方が良い気がします。綿密なストーリーを頑張って2時間半のミュージカルに詰め込みました、という感じです。
そんな訳で、キャストさんが頻繁に代わる代わる登場するのですが、唯一Evanだけはほぼずーっと出ずっぱりなんです。Evanに焦点を当てたまま展開を掴めるのでわかりやすいんですが、歌も沢山あるので、Evan役のキャストさんの体力や対応力、集中力、場面毎の切り替えの能力に驚きました。


以下、私なりの本作のメッセージの解釈です。

 変わりたいけど変われない、もっと社交的に交流をしたいのに勇気が出ない、もやもやを抱える Evan。
 普段は余計なことに巻き込まれるのを嫌うタイプなのに、偶然と誤解の結果、関係のない出来事に巻き込まれてしまう。彼には渦中で声を挙げて誤解を解く勇気すらなく、良心のままにその流れに乗る。その内に事態は大規模化、Evan のコントロールし得る範疇を越え始める。その中でEvanは、親身に寄り添ってくれる母親、頼り甲斐のある父親、片想いをしていたZoe、自分を見て認めて受け入れてくれる環境…ずっと欲しかったものが手に入っていることに気付く。彼がそれらに縋ってしまったのは、ごく自然で仕方のないこと。うまくいく日々はただ環境のお陰なのか、自分自身が変われたのか…?もしかしたら自分は遂に殻を破って変われたのではないか…?
 しかし、その影響力はEvanの想像を遥かに超える大きさに。絶好調な日々は長くは続かず、嘘がバレてしまう。大きな風船の破裂の振動も同様に大きく、彼には各所から怒りと冷淡な眼差しが向けられる。折角手にした大切なものも遠ざかって行く。もちろん彼がしたことはConnorの死を利用した自分勝手な行動であったし、周りを裏切る行為だった。批判されるのた当然のこと。けれど、殻に閉じこもっていたEvanにとっては、一連の出来事は勝手に自分の周りで起きていたことで、自分はただ逆らわずに乗ってみただけ。そこで降ってきた温かいものに縋ってみただけ。結果に責任なんて持てない。事態全体を見たときのEvanを非難する気持ちと、Evan個人を見たときのその成長を喜ぶ気持ちが平行する、複雑で繊細なお話です。
 周りに何もなくなったとき、唯一離れなかったのは母親だった。何があっても子供を愛して守るのが母親の務めだと語る母親、その思いを始めてちゃんと理解できたEvan。周囲の荒れた状況とコントラストで、その穏やかで温かい親子愛が際立ちます。
 1幕ラストから2幕冒頭に順風満帆な展開が描かれ、結末に向かって落ちていく意味では決してハッピーエンドではない。けれど、最後のりんご農園のシーンで受けるのは、嵐が過ぎ去ったあとの晴れ間のような、どこか清々しい穏やかな印象。自分はもう人気者ではないけれど、誰も自分を見ていないかもしれないし、誰か自分を嫌う人がいるかもしれないけれど、それでも大丈夫。だって自分は自分なのだから。1歩踏み出して社会に揉まれ、楽しい経験も辛い経験もして、最終的に本質的な強さを得られ、本当に大切なことや自分なりの在り方を知ったEvan。あれ、どうやらこれはハッピーエンドでは?

また、本作で大きな役割を持つのが、SNSです。
SNSの拡散力、影響力があってこそ実現する展開があります。時代に沿っており、観ていて親しみを感じやすいテーマですね。
ただやはり、画面の中の世界を舞台で届けるって難しい。観客はキャストが見ている携帯やパソコンを一緒に除けないからです。その点で、本作で活躍していたのが、開場前にSNSの画面を映し出していた、舞台各所のミニスクリーンです。過小にも過度にもならない程度にデバイスの中身を映し出し、観客の理解のサポートをしていました。
また、印象に残っているのが、冒頭の、Evan がベッドに座ってパソコンに打ち込んでいるシーンです。舞台の照明は落とし、パソコンの画面の光 (本物ではないです) だけが Evan の顔を照らしていました。暗い部屋で携帯やパソコンをいじるという、誰もがしたことある経験に沿った演出だなあ、と思いながら観ていました。

開場中、2階前方下手側


総じて

「ウエストエンドで日本未上陸のミュージカルを観る」というのが憧れだったので、それが叶って大満足でした!!
良い音楽に浸り、各人物に感情移入して、メッセージを必死に受け取る、密度の濃い3時間でした。
観劇を通じて作品への好き度が更に増し、今でもサントラを繰り返し聴いています。小説も買いました
日本でも映画は上演されていたので、きっといつか日本でも上演すると期待して、キャスト予想をしながら待ちたいと思います (笑



※見出し画像は『The Playlist』の記事より


作品情報

Date: 05 October 2022 7:30 PM
Venue: Noel Coward Theatre
Cast: 
   Evan Hansen - Sam Tutty
   Heidi Hansen - Rebecca McKinnis
   Connor Murphy - Doug Colling
   Zoe Murphy - Lucy Anderson
   Cynthia Murphy - Lauren Ward
   Jared Kleinman - Jack Loxton
   Alana Beck - Iona Fraser
Creatives: 
   Book writer - Steven Levenson
   Music and Lyrics - Benj Pasek & Justin Paul
   Director - Michael Greif


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