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ピアノ伴奏の手引き 本番前の合わせ練習で確認すべきこと

今回は、ピアノ伴奏に的を絞り、ソリストとの練習で必須と思われることを書く。

ピアノ伴奏はほぼあらゆる楽器、声楽や合唱に必要とされるので、必ず需要がある。特に目的を決めず、アンサンブルの経験それ自体を楽しむこともあるが、今回は本番のための合わせ練習という前提で書く。

本番前に何回練習するかは、ソリストとの相談によるが、おそらくそこまで回数はかけられないという場合が多いと思う。お互いごく近所に住んでいない限り、そこまで交通費や時間は避けないし、場所を借りるとなると、その料金も加わる。少ない場合は、リハーサル一回のみということも結構あるように思う。だから、その限られた時間の中で、最大限音楽が完成するよう、的を絞り、相当な集中力を持って行うことになる。

前提として、この2点が特に大事であると思われる。ひとつは、互いに信頼関係があること。2人は違う楽器を演奏するが、互いに尊重し合い、しかし言いたいことは言い合えるという関係が必要である。コンクールなど、極端に年齢差や経験差がある場合は、指導者同席で合わせ練習をすることが多い。こう考えると、やはり伴奏者は知人のツテを頼るのが、一番安心感がある。例えば、指導を受けている先生の別の門下生のピアノ伴奏者を紹介してもらったりと、探せば必ずどこかに接点があるものだ。

もうひとつは、伴奏者・ソリスト共に、自分の練習は自分でやっておくこと。合わせの段階では、それぞれの音楽を持ち寄って融合させるので、ここが不完全だと何も発展しない。テンポや強弱バランスなどは柔軟に対応する必要があるが、少なくともテクニック面では完全にしておかないと、合わせの時間そのものが無駄になる。

では合わせるときの確認事項。
まずテンポ。これが共有されていなければ音楽は崩壊するので、細かいrit. / accel./ a tempo やテヌート気味にしたい部分なども含めて、連動するよう練習する。リズムが複雑に絡まる部分は、特に確認が必要。人間は機械ではないので、どれほど練習してもずれるときはずれるものだが、これは伴奏者がソリストの呼吸を掴むためにも、丁寧にやりたい部分である。伴奏者は常にソリストの呼吸を感じながら合わせるため、初対面の場合は、少し近くで演奏してもらったりすると癖を把握しやすくなる。なお、全て感覚でやるよりも、明確に言葉で説明してもらえると、伴奏者側はやりやすい。例えば「このrit.は40小節目最後の四分音符にテヌートがつく程度の軽めで」とか「ここは息が続かないので、ffに達するまでのaccel.はもう少しかけたい」など。

続いて強弱バランス。ソロ楽器の支えに徹する部分、ピアノが全面に出る部分など、曲をどう聴かせたいかを共有する。伴奏と言ってもただ控えめに弾いていれば良いというものではなく、ピアノ側が引っ張って行く箇所もある。伴奏次第で、ソロが魅力的にもつまらなくも聴こえてしまうので、このバランス感覚は大事。ピアノは他の楽器に比べて、ダイナミクスの幅が広いので、それを最大限利用して、魅力あふれる演奏に貢献したいところ。特に、cresc. / dim. / subito p などは、ピアノとの相互作用で表現力を発揮できる部分。

全体のバランス。細部が完全でも、全体の統一が取れていないとちぐはぐな印象になる。曲のクライマックスはどこか、魅せどころはどこか。さらっと演奏した方が良い箇所もある。あれもこれも強調すると、結局最初から最後まで代わり映えしない音楽に聴こえてしまう。曲のイメージを共有することが大事。

細部の調整。変拍子や特殊なリズムが多い曲は、どのように拍を合わせるかを確認する。また、曲には絶対に合わせるべき箇所があるが、そこは必ず合うようにする。要となる部分が外れると、音楽が美しく聴こえない。この際、合わせるときのソリストの合図も確認する。管弦楽器奏者は、呼吸を動作で表してくれるので、合図がわかりにくいときは、伴奏者側から頼んでも良い。ソリストは伴奏者を見て演奏する訳ではないので、必ず伴奏者側が合わせられるようにしておく。これを外したら伴奏者の責任。

ピアノソロの部分をどう弾くか。一般的に、楽器や歌のソロがない部分でも、ピアノは前奏や間奏や後奏を弾き続ける。つまり時間的には伴奏の方が演奏している時間が長い。このピアノソロの部分は、ソリストによってはピアノにお任せするということも多いが、曲全体のバランスに関わることなので、ソリストに要望がないか聞いてみると良い。また、テンポを揺らしたり、ソロが入る直前でrit.やテヌートを付けたりするような場合、ソリストに説明しておいた方が良い。例えば「間奏最終小節の2拍目まで若干rit.かけて、3拍目以降は完全にin tempoでいきます」など。

不測の事態に備える。ひとつのミスもない本番はあり得ない。大事故が起こらない限り、小さなミスはそこまで気にならないが、本番で何が起こるかはわからない。お互いの演奏歴が長い場合、誤魔化しも相当上手いので心配ないが、学生のコンクール伴奏などでは必ず確認しておいた方が良い。一般的に、伴奏者はソリストのミスをカバーする。もしソリストがリピートを飛ばせば、伴奏者もそれに従う。一拍減っていたら、伴奏者も即座に編曲して合わせる。伴奏者は臨機応変な器用さを要求される。ソリストは万が一ドロップしても、立ち直せるポイントを決めておいた方が良い。音楽は止まらないので、例え何が起きても進み続ける。もしソリストが完全に演奏をストップしてしまい、そのまま入れなかったらどうするか。自分が伴奏していたら、たぶん即興でソロ部分のメロディを弾き、あたかもピアノソロの部分のように聴かせる。そしてソロが入ったタイミングで、何事もなかったように伴奏へフェードアウト。

その他、不慣れな場合は、お辞儀やチューニング、立ち位置など形式的なことも、確認しておくと良い。

何かの参考になれば幸いである。



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