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イジー・ストラドリン 1997 / Izzy Stradlin ☆117☆

元ガンズ&ローゼズのイジー・ストラドリンのソロ・アルバムは焦げついたギター・サウンドでハイレベルなガレージ・ロック

1992年の自身のバンド、ジュジュ・ハウンズでのアルバムリリースと1997年本作品発表までの数年の間、「リフレッシュ」されたイジーのロックは爽快感と疾走感に満ち溢れていた。

構成メンバーはガンズ&ローゼズのダフ・マッケイガン、ジョージア・サテライツのリック・リチャーズ、サイケ・スカ・ロカビリーバンドのレヴァント・ホートン・ヒートのドラマー、タズ・ベントリー。自らの人脈で音の装飾を必要としない精鋭メンバーが集まり生音を味わえる「純度の高いガレージ・ロック」が聴ける。

リック・リチャーズは、ジョージア・サテライツから不変の完成されたハイレベルなペンタ・トニック・フレーズが期待を裏切らない。

初登場のドラマーのタズ・ベントリー。スカ、ロカビリー、パンクのいわゆるサイコビリーのレヴァント・ホートン・ヒートというバンド出身の骨太かつスイング感のあるドラムが好結果をもたらしており、イジーの現在進行形の音楽的嗜好と合致している。

そのサイコビリーに触発されたのか、一部の作風のみならずジャケットのギターがグレッチのG5622のオレンジのダブル・カッタウェイとイジーにとっては割とレアなショットになってる。またグレッチをクランチで歪ませたロック・サウンドも楽しめる。

メンバー

イジー・ストラドリン リード・ボーカル、リズム・ギター、ベース
リック・リチャーズ リード・ギター
ダフ・マッケイガン ベース
タズ・ベントレー  ドラム

エディ・アシュハース ベース、バッキング・ボーカル
チャーリー・キンタナ ドラムス


曲目

Ain't it a Bitch
Gotta Say
Memphis
Old Hat
Bleedin
Parasite
Good Enough
117 Degrees
Here Before You
Up Jumped the Devil
Grunt
Freight Train
Methanol
Surf Roach

曲目感想

Ain't it a Bitch
冒頭に左右から異なった2本のストーンジーなギターに胸が膨らむ。後方からどっしり構えたドラムが安心感を与える。ガンズでもなく、ジュジュハウンズにも無いスイングしたドラム、全パートの演奏も無駄が無くて爽快。
やさぐれた歌詞に沿うようにラフ気味なギターはサイコーのガレージ・ロックン・ロールだ。

Gotta Say
左チャンネルのイジーのガシッとしたアコースティック・ギターのストローク音。左より音量が大きいリックのアコースティックのメロディラインに沿ったソロ。Dsus4のストーンズ的フレーズも包み隠さず清々しい。ジュジュハウンズからの盟友エディ・アシュハースのマンドリンも良い。

3つの生音の乾いた音の質感から理想的なアコースティック・ギターの音が聴ける。曲の持つ哀愁加減がカッコよい。

Memphis
ロックン・ロール・キング、チャック・ベリーのカバーでパンキッシュに前のめり気味で直球のサウンド。

そのカギを握るリック・リチャーズの高速ロカビリー・フレーズがピタリとハマり、さらにイジーとリックのツインのボーカルが「ギタリストのボーカル」のカッコ良さがガレージ・バンドっぽい魅力があるある。

Old Hat
リック・リチャーズのスライド・ギターがジョージア・サテライツ直系のプレイだ。イジーのダウナー気味で陰のあるボーカルがスライド・ギターとマッチしている。

Bleedin
アコースティック・ギターで弾くスライド・ギターとエディ・アシュハーストのマンドリンとその音量に合わせたリズム隊。音を詰め込まず、乾いた音作り、緩めのテンポは言い換えると「レイド・バック」なサウンドだ。
数年音楽活動から遠ざかり、しがらみから解放されて再スタートしたからこそ出来上がった曲だと思う。

Parasite

90秒ほどのラモーンズ的秒速パンク・ナンバー。パンキッシュのイジーがここで顔を出す。リックのオクターブ・フレーズのソロとイジーのスクラッチ音を瞬時に入れたリズム・ギター。そしてタズ・ベントレーのスピーディーで筋力質としなやかさも備えたドラム。

「ガレージ・ロック」というのが今回のキーワードであることに確信を深めていく。

Good Enough
ひたすら攻めたロック・ナンバーとレイドバックしたアコースティック・ナンバーが均等に交互に曲が配置されていて、それが絶妙に共存しているのがこの作品の特色だが、アコースティック・ナンバーのハイライトがこの曲だと思う。

フォーキーでなくロックを感じさせるのがイジーにしか持ち合わせていない素質や魅力なのだと思う。

117 Degrees
アルバムのタイトルにもなっているこのナンバーが「攻めたロック」のナンバーの中でハイライトだ。

これは「カントリー・パンク」という有りそうで無さそうな、ありありのありな奇跡のナンバー。

ガンズにも無い、サテライツにも無い、瞬発的で衝動的な音がロックだ。
イジーのリズム・ギターがキャリア通じて最も躍動感がある。特にフィード・バックとグリッサンドを混ぜた箇所がロックしてる。

前の曲の「Good Enough」とこの曲の一連の流れが非常に良い。

Here Before You
硬めなダフのベース音とリバーブを多めかけてなギターのボトム音が聴ける。バリトン・ギターに近い音でひょっとするとボトム弦のチューニングを下げているかもしれない。とにかくこのベースとギターの存在、共存加減が良い。

中央の奥に引っ込んでいるストリング・ベンダー・テレキャスター・サウンドもさりげないが実は存在感が有る音だ。
ペダルスティールかも知れないのでクレジットを見たらそれは無かったのでリック・リチャーズがレスポール・ジュニアで再現してるかも知れないが、彼ならどんなギターでも容易に出来ると思う。

Up Jumped the Devil
この曲はテキサスのロカビリー・アーティストのロニー・ドーソンのカバー。
ひょっとするとの推測だが、テキサスのバンドであるレヴァント・ホートン・ヒートに在籍していたドラマーのタズ・ベントリー、この人物からこの曲へ辿って行ったのではないだろうか?

よく聴くと、ジュジュハウンズでも無く、サテライツ風でもないましてやガンズ時代にも聴いたことの無いサイコビリーな曲調だからだ。

とにかく選曲が良いし、独自のバンド・サウンドに仕上げている。以前より声量と迫力が増したおかげで有名曲でも無いカバー曲でも「説得力」を持たせている。この辺は以前には見られない進化した点だと思う。

Grunt
グランジはおろかスラッシュ・メタル的高速ボトム弦のフレーズにパルプフィクションで有名な曲の「ミザルー」のような攻撃的なサウンドを展開。

中盤から曲調が変わりベンチャーズ的なサウンド、終盤に向けてジョージア・サテライツと少しガンズ&ローゼズの要素が混在したような今回の参加メンバーによって化学反応が起きたようインスト曲になっている。

Freight Train
前の曲と連続性を感じる。リック、ダフ、タズそしてイジーと4人の個性が均等に反映されている。

Methanol
唯一、ガンズ&ローゼズを感じさせ、さらにサイコビリーな感覚を混ぜている。イジー流のオルタナティブ・ロックが聴ける。

Surf Roach
「Grunt」からのラフなロックがこの最後の曲まで地続きになっている。タイトル通りのガレージ系であり、1960年代のロッキン・サーフィン・ビートだ。
今回はローリング・ストーンズのキース・リチャーズ直系のようなあからさまなレゲエのナンバーが無い。その代わりにリバーブをかけた1960年代中期のガレージロック系のラフなサウンドが特に後半重点的に置かれている。


総論
「テキサスを駆け抜けて西へと走る。ここらの太陽はマジで焦げ付く」

「117」の曲の歌詞が全体を象徴している。バイクをこよなく愛するイジーは、身近なテーマから作品を書き起こしていく。

イジー、リックのギターとエディ・アシュハーストのマンドリンのアコースティック・セットがハマっている。

アコースティック・ナンバーも今回は存在が大きく、聴きやすい良い曲が揃っているのも特徴。イジーのクラシック・ロックの美学とセンスが自然に溶け合っている。

タズ・ベントレーのドラムは手放してはいけない重要なドラマー

イジーの歌とギターにハマっている重要なドラマーで、作品のカギをいくつも握っている。激しい曲もアコースティックの曲も緩急があり、うねってしている。

エディ・アシュハースとダフ・マッケイガンは異なるベーシストだがそれぞれ自分なりの視点でイジーのロックを上手くキャッチしている

エディはイジーのその時のやりたい音楽を的確に捉える相棒に近い存在なのに対して、ダフは数多いガンズ時代からライブ活動を通して培った本能的なコンビネーションで曲に順応していく。
共通しているのはイジーのロックの美学を身体で理解していることだ。

残念なことにとてもライブ感のある作品なのに実際のライブは行われていない。
イジーはオレンジのグレッチのギター良く似合う。

アルバムのジャケットと中身の内容が一致したロックン・ロールの名盤


終わり


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