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1分で読めるショートショート22・ケーキの存在


静まり返った結婚式場に、一つのウェディングケーキが残されていた。ケーキは華やかで、まるで幸せの象徴のように見えたが、実はその中には苦いアーモンドが隠されていた。

新郎は逃げた。新婦は泣いた。参列者は困惑した。そして、ケーキだけが、その場に取り残された。

「なぜ私だけが残されたの?」
ケーキは問うが、答える者はいない。
ケーキは自分が飾り物であることを知りながらも、誰かに食べられることを望んでいた。しかし、その願いも虚しく、会場の電気が消えると同時に、ケーキの存在も闇に飲み込まれた。

翌朝、清掃員がケーキを見つける。彼は一口食べてみるが、すぐに顔をしかめた。
「こんなに苦いケーキは初めてだ」
と彼は言いながら、ケーキをゴミ箱に捨てた。

結局、ケーキは誰にも愛されることなく、その生涯を終えた。静まり返った結婚式場には、再び静寂が戻り、ケーキの存在も、ただの一幕に過ぎなかった。
ケーキは一度きりなのだ。

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