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ノマドランドNomadland から見る映画の美しさ

映画はどんな人の人生も美しくできる。何気ない日常でさえ、人を引き込むものへと変換してしまう。

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ノマドランド(Nomadland)
2021年3月公開(日本)の映画『ノマドランド』について。

​あらすじ
アメリカのネバダ州に暮らすファーン(フランシス・マクドーマンド)は、リーマンショックにより企業が倒産し、で住む場所を失った。彼女はキャンピングカーに乗り込んで、車上生活をしながら、アメリカの雄大かつ過酷な自然の環境に囲まれながら労働の現場を渡り歩く。「ノマド」として一日一日を一生懸命に生きていくその過程で出会う他のノマドたちと苦楽を共にし、自分の人生や人の生き方を見つめ直していく。

 ちなみに原作はジェシカ・ブルーダーが著者である『ノマド 漂流する高齢労働者たち』。
 この映画に関するあらすじなどはほかの人がいろいろ書いているため、それ以外のことを書いていく。

 特筆すべきは


なぜこの映画は美しいのか

これについては3つほど主要な理由を思いついた。
1.ほとんどの出演者が実際の”ノマド”であること
2.サウンドトラック
3.クロエ・ジャオ監督の独特かつ優雅な撮り方

1. リアリティとオーセンティシティ

特に出演者について。

主人公であるファーンを演じたフランシス・マクドーナンド以外は殆どが本物のノマド、つまり実際に放浪をして生活をしている人たちである。彼らは独自のコミュニティを形成しているように思えて、集会を開いてお互いの知識を教えたり、各々の要らなくなったものを交換したりして互いに助け合っている。

彼も
彼らも

ノマドには独自のコミュニティが存在しており、それらも実在のものである可能性が高い。

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 ノマドたちは一定の職を持たないため、シーズンによって違う仕事を様々な場所で行っている。

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 こちらのAmazonの工場での作業シーンは実際に働いて撮ったと言われている。

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 これらの仕事は日本人の学生の視点から見ると、想像したことや見たことのない仕事が多く、アメリカならではの部分もありながら、労働者の現実を描いていると言える。
 あくまで彼ら(Nomad)は自分たちの生活の話や事実を伝えればいいわけであるため、自然な演技、というか演技ですらないのかもしれない。
視聴中は彼らの日常に入り込んでいるだけのような感覚に陥る。

よくドキュメンタリー映画などはリアリティがあると持ち上げられることも多いが、『ノマドランド』のように実際のノマドをフィクションの世界に落とし込むという行為もオーセンティックなものではないだろうか。
これはフィクションとドキュメンタリーとどちらでも描くことのできない、人間本来の美しさである。

2. サウンドトラック

 個人的にこのようなジャンルの映画ではあまり音楽が目立ってしまっては台無しになる時もあり、逆に自然の音だけでは寂しすぎる時もある。
『ノー・カントリー』『ソング・トゥ・ソング』のように完全にスコアがない場合やあくまでサブな時もあるし、『インターステラー』や『ウェイブス』のようにサントラが有名になるとか、サントラが映画を引き上げることもある。

 しかしこの映画ではそのバランスが最も良く、是非映画を見たことがなくても、見る前に聴いてみるのも面白いと思う。
https://music.apple.com/jp/album/nomadland-original-motion-picture-soundtrack/1553768568

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3. クロエ・ジャオの哲学

撮り方について。
が、これは映画を見た方にはすぐにわかるでしょう。
 僕の勝手な考えだが、自然を撮るときや登場人物を撮るときに被写体を真ん中に置いて遠目から撮るという手法が多いように感じた。

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そもそも大自然があまりにも綺麗なので、余計な撮り方が必要ないと言った信頼度の表れだろうか。全てがシンプルで素晴らしい。

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 上記の画像のように、全てが美しいかつどこか儚い色を帯びているように感じます。特に空の色や撮り方が独特で良い。
かの空間の巨匠、テレンス・マリック監督の影響をどことなく感じる。

Movie Quotes

'I don't ever say a final goodbye. I always just say, “I’ll see you down the road.” And I do.' - Bob (Nomadland) 


終わりに

 『ノマドランド』は突発的に何かが起きるわけではない映画ではない。それは映画として退屈と言われることが多々ある。このような現象は映画という娯楽の在り方についての疑問としても挙げられる。
 これについてはまた文章を書きたいとも思うが、僕の意見としては、退屈と評されようがこのような映画は一つ一つのシーンが美しく、何か意味を含んでいるようにも感じてしまう。そんな映画こそは究極では。加えて、それこそが私たち一般人の日常ではないだろうか。

 2021年、まだまだ映画館に行くことはちょっと躊躇う方も多いかもしれない。これからも映画を楽しめる生活が訪れることを期待しよう。
(コロナ禍に執筆)


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