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『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)(51回)受けたくない医療48【産科婦人科】 中絶を決めるために「NIPT」はしない 米国母子学会

【第51回】

受けたくない医療48【産科婦人科】
中絶を決めるために「NIPT」はしない
米国母子学会

 
 「非侵襲的出生前検査(NIPT)」は2013年に日本でも利用可能となり、大きく注目された。妊婦の血液検査だけで胎児の染色体異常の有無を判定できるというものだ。妊婦の血液に胎児の染色体が紛れているため、検査が可能になるのだが、問題として、染色体異常の検出の精度が100%ではない点が挙げられている。
 米国母子学会は「特にリスクがない場合、中絶するかどうかを決めるために、NIPT を実施してはならない」と求めている。NIPTは、妊婦の年齢が35歳を超えている、類似の血液検査やクアトロ検査(※29)、超音波検査で染色体異常が疑われている、前回の出産で染色体異常のある子を産んでいるといったリスクがある場合で、単体妊娠の場合に限って実施するものとされている。
 こうした条件に合わない低リスクの妊娠で有用かどうかは分かっていない。染色体異常がないのに検査が陽性となったり、逆に染色体異常があるのに検査が陰性となったりする可能性があるためだ。
13番染色体が3本ある13トリソミーと18番染色体が3本ある18トリソミーで特に検査の問題は起こりやすい。
 陽性の結果が出た時には、中絶の決断をする前にさらに検査をすべきである。NIPT を行うならば、検査前のカウンセリングも重要と学会は説明する。メリットとその限界について知っておかなければならない。

※29 クアトロ検査とは、ダウン症をはじめとした胎児の染色体異常を調べる検査。染色体異常があると、特定の物質が母親の血液中に増える現象を応用している。4種類の物質の多寡を調べて、胎児が染色体異常か否かの可能性を判定できる。血液検査だけで判定できるため広く実施されている。

(第51回おわり、第52回へつづく

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『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP)

【連載の紹介】

 室井一辰と申します。この2019年に、『続 ムダな医療』(日経BP)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術 (新書y)』(洋泉社)という2冊の書籍を刊行します。いずれも無駄な医療を撲滅していこうと、米国の医学会が動いている「チュージング・ワイズリー(Choosing Wisely)」という活動を掘り下げた本です。これら新刊の発表を受けまして、より多くの方にこの動きに関心を持っていただきたいと思い、2014年に刊行した前作を連載のように公開してまいります。基本的に毎日ページを増やせればと思っています。よろしくお願いいたします。

【2019年発表の書籍】

1.『続 ムダな医療』(日経BP、2019年3月発売)

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『続 ムダな医療』
これ、本当に受ける意味ある?と悩んだときに読む

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日本でアマゾン総合5位も記録。中国、台湾、韓国で刊行され、福井大学医学部入試問題にも採用された『絶対に受けたくない無駄な医療』に続く、新しいムダな医療の世界

◆こんな医療は受ける価値なし!!
米国医学会が明かした“衝撃のリスト” 約300!!
日本で「当たり前」の医療行為も実はムダだらけ!!

「耳や鼻のトラブル、問診や身体検査でも判断できる」
「膝の痛みは、まずは手術“以外”の方法で対処」
「5つ以上の薬を使っている人に、医薬品を処方しない」

「入院中、高齢者を寝たきりや座りっぱなしにしない」
「妊婦に安易に安静を勧めてはダメ」
「古くなったというだけで歯の詰め物は替えない」

「ピロリ菌を調べるならば血液検査“以外”の方法で」
「リハビリ、長期の温熱療法に効果なし」
「手術をする場所の毛髪は“剃らない”」

「腰痛対策のサポーターや理学療法、実はイラナイ」
「前立腺ガンの検査はムダばかり?」
「子供に、安易にCT検査やMRI検査をしない」など

米国臨床腫瘍学会、米国心臓病協会、米国小児科学会、米国整形外科学会、米国精神医学会など、世界的な医学会が医療行為を名指しし、必要性に疑問を呈する。

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◆無駄な医療を医学会が発表し続ける謎

米国の医学会が出した「衝撃のリスト」は、医療界の首を自ら絞める内容にも見える『チュージング・ワイズリー』と呼ばれる運動で掲げられるものだ。なぜ医師らがそんな行動に出たのか。

◆歯科医師、看護師、薬剤師、リハビリ、カイロプラクティックも参加

2014年以降、歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、カイロプラクティックの団体が5つのリストを発表。チュージング・ワイズリーは新局面を迎える。

◆米国本部に取材敢行、世界が動き出す潮流とは?

推進する米国の本部、ハーバード大学など、現地取材も敢行。謎をたぐっていくと姿を現す世界規模の大波とは?
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2.『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術 (新書y)』(洋泉社、2019年1月発売)

これでいいのか 日本の医療常識!?

医師も知らずに行っているムダな手術や投薬、
利益を追求するあまりに行われている過剰な治療……
この国の医療には様々なムダがある。
しかし世界では、医師たち自らがムダな医療行為を告発していく
「チュージング・ワイズリー(賢い選択)」の動きが盛んだ。
エビデンスに基づき「効果がない」「デメリットが目立つ」と
現在では疑問を投げかけられている治療行為の数々を、
医療経済ジャーナリストが渾身レポート!

もくじ
第1章 こうして医療にムダがはびこる
第2章 エビデンスが突きつける「その医療、まだ続けますか」
第3章 こんな【検査】には意味がない!
第4章 こんな【薬】は飲むだけムダ!
第5章 こんな【手術】では治らない!
第6章 医療を疑うことの意義

目次は出版社による書籍紹介ページにあります
『立ち読み』のボタンよりご覧いただけます

【著者】

室井一辰(むろい・いっしん)

医療経済ジャーナリスト。大手出版社を皮切りに、医学専門メディアや経営メディアなどで全国の病院や診療所、営利組織、公的組織などに関する記事を執筆。米国、欧州などの医療、バイオ技術の現場を取材。2014年に『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP)、2019年に『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術 (新書y)』(洋泉社)、『続 ムダな医療』(日経BP)を刊行。執筆や取材協力などを『週刊ポスト』『女性セブン』『週刊現代』『週刊東洋経済』などで行う。石川県金沢市生まれ。東京大学農学部獣医学課程卒業。

【著書】

『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP、2014)
『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(洋泉社、2019)
『続 ムダな医療』(日経BP、2019)

*著作権は室井一辰に属します。室井一辰への取材申し込みなどは、株式会社ステラ・メディックスまでご連絡をください。

(Photo: Adobe Stock)

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