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午後のロードショーで映画「猿の惑星」を吹替で観たよ…午後ローは地上波で斯かる問題作の放映を強行する「良識」に対して戦いを挑む最後のインディアンなのだ。

宇宙飛行士のテイラー(チャールトン・ヘストン:納谷悟朗)は
3人の宇宙飛行士と共に準光速での宇宙の冒険旅行を終え
地球への帰途に就いている。
宇宙時間では1年でも地球時間では700年が経過している計算で
彼は27世紀の地球に帰る予定だった。

彼が長い眠りから覚めると宇宙船は
ある惑星への着陸…と言うよりも墜落中であり
地球時間では3978年11月25日と計器が指している。
27世紀どころか40世紀となっているのだ。

未知の惑星に墜落し辛くも脱出したテイラーたちは
言葉の喋れない人間が衣服を着用し独自の文化を持ち言葉を喋り馬に乗り
武器を使用する猿たちが「人間狩り」を行い
狩った人間を逆さ吊りにして並べ,
人間の死体の山の前で記念撮影する光景を目撃する。

猿によって喉を撃たれたテイラーは口が利けず身元を証明出来ず
猿に動物の様に檻に入れられエサを与えられる。

テイラーに「知性の煌めき」を見出した科学者のジーラと
恋人で同じく学者のコーネリアス(増岡弘)は彼の話に耳を傾けるが
科学アカデミー議長のザイアス(大塚周夫)はコーネリアスの
「猿の前に人間が文明を築いており猿はその文明を受け継いだ」
という学説に激しい嫌悪感を示し「邪説を捨てろ」と迫って来る。

やがて喉の怪我が癒え喋れる様になったテイラーは裁判にかけられる。
裁判…その実態は異端審問であり火炙りにされる代わりに
ロボトミー手術を受ける事を強要され
脳をいじられて「考える事の出来ない人間」にされるのだ。

何故猿は…取り分けザイアスは斯くも人間に辛く当たるのか…。

ザイアスが肌身離さず持ち歩いているメモにはこう書き記されている…。

人間を警戒せよ
人間は悪魔の手先なり
神の創り給うた生き物のうち
人間のみが遊びや欲の為に同胞を殺す
また人間は同胞の土地を奪う為,殺すこともある
人間を多く増やしてはならない
人間は己の国を
我々の国をも滅ぼすであろう
遠ざけろ
人間をジャングルのねぐらに追い返せ
何故ならば人間は死の先触れだからである

ザイアスがテイラーを恐れたのは
古文書に書かれた通りの「死の先触れ」…「人間」が現れたからだった。

テイラーはザイアスが「禁断の地」と定め
猿たちの立ち入りを固く禁じている場所へと向かう。

ザイアスは語る。
「ワシはずっと以前から人間の本当の正体を知っておった…」
「人間には利口な所と愚かな所が共存しておる上に…」
「感情が理性を支配していたのだ」
「つまりあらゆるものに戦いを挑む好戦的な野獣がその正体だ」
「その結果滅び腐った…」
「オマエは「禁断の地」で見るだろう」
「人間の運命をな…」

テイラーは一体何を見る事となるのか…。

「猿」は日本人を表し…「猿の惑星」とは黄禍論が形となったものだと
散々取り沙汰されたが…いまこうして映画を観ると…。

ワザワザベトナムまで行ってベトナム人を殺し
耳を切断して「記念品」として持ち帰り
ベトナム人の死体を前に記念写真を撮る
アメリカ人が「猿」なんだと分かる。
「猿」とはこの場合,野獣=ビースト=ケダモノを指し,
ケダモノとしての猿=人間よりも
猿から進化した生き物の方が
余程理性的であると皮肉を込めているのだと思う。
その根拠が「人間は人間を殺すが猿は猿を殺さない」という言葉であり
同族殺しをしない分,猿の方がマシだと主張してるのだ。

「人間より猿の方がマシ」という主張は勿論大反響を呼んだ。

本作品は大反響を呼ぶ事を目途として作られているので
制作者の思惑通りという訳だ。

猿による人間狩り,動物園の檻で飼育される人間,
反抗的な人間への猿によるロボトミー手術…等々ショッキングな描写が続き
超有名なラストシーンも忘れ難い。

改めて本作を視聴するとテイラーは主人公ではあるが
本当の主人公は「状況」であり
テイラーは「状況」…。
つまり「何が起こっているのか」を描写する為の狂言回しに過ぎず
昨今の映画やライトノベルの「俺がどう思ったか」に重きを置く
超主観的な作劇に辟易していた身の上には
人に語らせず状況に語らせる作劇が一層新鮮に映る。
テイラーが喉を負傷して喋れないのは勿論作劇上の要請で
「人に語らせない」為の工夫なのだ。

テイラーの声の出演は納谷悟朗さん。
納谷さんは銭形警部役で有名だがチャールトン・ヘストンの吹替と言えば
納谷さんと決まっておりコレをフィックス声優と呼ぶ。
クリント・イーストウッドと言えば山田康夫さん
アーノルド・シュワルツェネッガーと言えば玄田哲章さん…。
と言えば「フィックス声優」の意味が分かるでしょ?

銭形警部,ブラック魔王,マスオさん,総裁X,古代進,伴宙太,
「いそげヤマトよイスカンダルへ!」のナレーター…。
等々信じられん程豪華な
声優さんの声の名演に酔い痴れる映画でもあります。

午後のロードショーは…これ程の衝撃作を
平日の午後にフツーに放映する所が実にロックであって
最後の最後の最後まで「良識」と戦って死んで欲しいと僕は願っている。




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