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「ユーザーに聴く」

UI/UX設計の要諦は、「ユーザーが主役」です。「作り手」の発想を捨てて、使う人の生活、知識、興味、目線に立つことが必要です。
HCD(人間中心設計)に関する書籍やWebサイトなどでも「ユーザーに聴く」ことは、最重要な工程として必ず謳われます。
その代表格が「ユーザーテスト」(ユーザビリティテスト)です。

ユーザーテスト

ユーザーテストでは、一般の生活者を「テスター」としてお招きし、実際に商品/サービスを購入した(使い方を教えてくれる人はいない)想定で、触ってもらいます。
例えばゴール(目的状態)を示し、画面表示などを手掛かりに、テスターが自力で達成できるかを試してもらいます。それをハーフミラーやカメラ越しに観察するのですが、思わぬところで「つまずき」がよく起こります。
それを振り返り、見たこと感じたことをテスターに話してもらうことで、私たちはつまづきの原因を探り、市場で同じつまづきが起こらないよう、改善策を導きます。

落とし穴がたくさん

ところが、ユーザーテストをするたびに、いろんな落とし穴が待ち受けています。
代表的なものに、こんなものがあります:

  1. ユーザーは矛盾する

  2. ユーザーは責任取らない

  3. ユーザーは嘘をつく

1. ユーザーは矛盾する

ハーフミラーのこっち側で観察していると、真面目なエンジニア(開発担当者)に限って「このテスターは矛盾している!」と憤慨したりします。
例えば、実際には「A操作の次にB操作して」が表示されていたのに、テスターは「AとBを選べというのでBを選んだ」といったコメントをする…とか頻繁にあります。

でも、このエンジニアのように「矛盾している」と言って、テスターのコメントは無視してもよいのでしょうか。
一般の生活者は、商品の仕組みを熟知していたり、日常的に画面の隅々まで正確に解読したり、自分の行動を冷静に客観視して記憶したり、しているでしょうか。
仕組みなんか知らない、文章なんて読むの面倒、記憶もあいまいなのが、フツーですよね。そんなユーザーのところに付きっきりで「矛盾している!」と訂正できるでしょうか。
⇒ そう、矛盾していようが、誤解しようが、ユーザーにとってはその記憶が「体験」であり「真実」なんです。それで私たちの作った商品/サービスが評価されてしまい、直接訂正する機会はないのです。
⇒ 矛盾も誤解も、起こり得ることだと認識し、先回りしてそれを防ぐことが、商品/サービスの体験をよくする方法なんです。

2. ユーザーは責任取らない

ユーザーテストで一通り触ってもらい、最後に「あなたはこの商品が欲しいですか?」と聴くのは、お決まりのパターンです。

スマホの、とある新機能Cについて「あなたはこの機能を使いたいですか?」と聴くと、参加テスターの内、85%が「使いたい」と答えました。
それで企画担当は自信満々、このC機能を実際に搭載したところ、一般ユーザーには全くウケませんでした。「C機能は邪魔だから、買ったら即オフにしよう」なんてYouTuberに喧伝される始末…😢
Cを欲しがったテスターさんたちに、文句のひとつも言いたくなりそうです。

別の例で、あるテスターが「D機能が欲しい」とコメントしました。
ハーフミラー越しに見ていた、開発担当の真面目なエンジニアは共感し、職場に戻ると「D機能を作るぞ!」と走り出しました。
この例では、私がそのエンジニアを説得して、思い止まらせました。
理由は「コストがかかる割に、恩恵を受ける人や利用シーンが乏しい」と推測されたためです。

テストの会場に来たテスターさんが、テストの場で「ほしい」と言っても、実際に生活する中で、それを使うかどうかは別の話です。
最近は「この機能があったら、いくら余計にお金を出しますか?」や「お友達にこの機能搭載機種を推薦しますか?」といった質問手法が主流になってきていますが、それでも実際とは差分があります。
それは「テスト会場」という魔力が働いているからです。
魔力についてはまた長くなるので、別の機会にいろいろ書きますが、次に述べる「嘘をつく」も同じ魔力の成せる業です。

3. ユーザーは噓をつく

テスターさんは、何らかの期待を持ってユーザーテストに参加します。
例えば、「謝礼」や「珍しい新機種を触れる」「その会社を応援したい」といった期待は、僅かながらあるでしょう。
こういった期待は、テスト結果やコメントに、どうしても影響が出ます。

ユーザーテストの冒頭の決まり文句に「テストと言っても、あなたをテストするのでなく、この商品をテストしたいのです」という説明があります。
裏を返せば、みなさん少なからず「自分が評価される」感覚が混じります。そうなると「良い成績」を取りたい気持ちも湧きます。

あるテストで、「つまづき」があったテスターさん、振り返り時に一生懸命様々な操作をして、本番では開かなかった表示を見つけて「ほら、ここにこう書いてあったから間違えたんだ!」と訴えました。
「間違えた」と感じたことでプライドがちょっと凹み、それを埋め戻そうと必死に「こじつけ」をするテスターさん、結構多いです。
ここまで露骨な例は別として、「よい結果を残したい」「役立ちたい」「応援したい」気持ちは、大きく影響します。
影響は、重箱の隅のような欠点指摘をする方向に出る場合もあります。
実際の行動と照らし合わせたり、口調やテンションを観察して、そういった影響を補正分析することが、とっても大事です。

インタビューでも嘘はあります。「隠したい本音/癖」なんて、誰しもありますしね。

まとめ

  • 「ユーザーの声」はとても大事です。しかし、そのコメントには、様々な要因が影響しています。

  • コメントを鵜呑みにせず、環境など他の情報から、そのコメントがどんな影響を受けているか、推測・補正することがとても重要です。

⇒ 別途「ユーザーの声に騙されない」で、さらに詳しいお話をします。


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