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近年のリハビリテーションにおける診療報酬の変遷と集団作業療法

私が作業療法士の国家資格を取得したのは1998年(平成10年)で、医療保険領域で従事するようになったのは2000年(平成12年)からです。医療保険領域に従事した当時、算定していた診療報酬は、”作業療法簡単(なもの)”と”作業療法複雑(なもの)”という今では聞きなれない診療報酬項目でした。
 最近の診療報酬では、”個別療法”として、作業療法士が対象者に対してマンツーマンで作業療法を提供することが一般化されていますが、2000年(平成12年)当時は、複数の対象者に同時に作業療法を提供する、いわゆる集団療法という選択肢がありました。
 本noteでは、われわれ作業療法士は集団によるグループダイナミクス(集団力動)の活用を専門性の一つとしながら、いつ頃から”個別療法”のみの環境に置かれたのかを明らかにすることを目的とし、近年のリハビリテーションにおける診療報酬の変遷を整理します。なお、ここでは、精神科作業療法を除いて論述します。

 われわれリハ専門職による診療報酬点数が新設されたのは、1974年(昭和49年)です。理学療法士及び作業療法士法の制定は1965年(昭和40年)ですので、1965(昭和40年)年から1974年(昭和49年)の期間は、リハ専門職の職能団体が、診療報酬点数化に向けて血の滲むような努力をされていたことが想像できます。

(引用)西條一彦:診療報酬点数表に込められたメッセージを読む-言語聴覚療法を中心に-,成田会・研究ジャーナル2;pp9-18,2021

その当時のリハ専門職による診療報酬に注目すると、冒頭で触れた”簡単なもの”と”複雑なもの”は、それぞれ40点と80点であったことがわかります。当時も現在も1点は10円ですので、いかにリハビリテーションに対する期待が低かったかということと、その後の職能団体による要望活動の成果を想像することができます。
 言語療法の診療報酬点数は、1981年(昭和56年)に新設されています。言語聴覚士の第1回国家試験は1999年(平成11年;4,003名が合格)ですので、資格制度のない中ですでに点数化されていたことが改めてわかります。

(引用)西條一彦:診療報酬点数表に込められたメッセージを読む-言語聴覚療法を中心に-,成田会・研究ジャーナル2;pp9-18,2021

”簡単なもの”と”複雑なもの”が点数化された年は、理学療法と作業療法は1974年(昭和49年)であるのに対し、言語聴覚療法は1994年(平成6年)です。
 ”簡単なもの”とは、治療に15分以上要するもので、集団で(1回に3人まで)治療可能でした。また、人数の上限は、1日36人まででした。これに対し、”複雑なもの”とは、治療に40分以上要するもの(言語聴覚療法は30分以上)で、マンツーマンの個別療法が求められていました。人数の上限は、1日12人まででした。

2002年(平成14年)の診療報酬改定にて、”簡単なもの”と”複雑なもの”は廃止され、個別療法と集団療法となり、現在まで続く”1単位20分”の診療報酬点数となりました。
 当時の個別療法は、患者1人につき1日3単位までで、月11単位を超えた分は70%に逓減(減額)されました。一方、集団療法は、患者1人につき1日2単位までで、月に8単位以上は算定できませんでした。つまり、この頃までのリハビリテーションの実施時間は、現在よりもかなり短く、頻度も制限されていたことがわかります。

2006年(平成18年)の診療報酬改定にて、疾患別リハビリテーション料が新設され、集団療法に係る評価が廃止されました。つまり、2006年(平成18年)以降のリハ専門職による診療報酬は、言語聴覚士による集団コミュニケーション療法料を除き、全てにおいて個別療法のみとなりました。その後、2014年(平成26年)の診療報酬改定では、ADL維持向上等体制加算および地域包括ケア病棟入院料が新設され、リハ専門職に対する間接的な介入(マネジメント)が期待されるようになりました。
 しかし、2006年(平成18年)以降にリハ専門職となり、以後、医療保険領域のみに従事している方は、集団療法を用いた経験がおそらくないと推測することができます。

少子高齢人口減少社会の進行に伴うリハ専門職のなり手の不足や、作業療法士の専門性の一つであった、集団を治療的に活用する機会の喪失に対して、私は作業療法士が再び集団療法で成果を示さなくてはならない時が来るのではないかと考えています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(参考)
・一般社団法人 日本作業療法士協会「日本作業療法士協会五十年史」
・西條一彦:診療報酬点数表に込められたメッセージを読むー言語聴覚療法を中心にー.成田会・研究ジャーナル2;pp9-18,2021
・鈴木俊明:理学療法における自主トレーニングの重要性を考える.関西理学20;
pp1-2,2020
・三浦雄一郎:どう生き残るかリハビリテーションー夢のある21世紀を目指してー病院臨床現場の立場から.関西理学2;pp69-70,2002

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