ブランドロゴをプリントした商品を作った理由
ブランドの顔とも言える「ブランドロゴ」を全面的に打ち出した商品を、今回初めて制作したという村松さん。これまで15年、ファッションブランドを運営してきた中で、初の試みなのだそうです。今回のチャレンジの背景には、村松さんのどんなお考えがあったのか、お話を伺いました。
こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「ブランドロゴの商品」です。
■今、ファッションブランドに必要なもの
ファッションブランドの中には、ブランドロゴをプリントしたアイテムを積極的に販売しているところもあります。今回、村松さんは初めて挑戦したと言っていますが、そもそも今までのキャリアの中で、なぜ一度もブランドロゴの入った商品を作らなかったのか、まずはそこからお話を伺いました。
1つは、コスパが合わないことです。正確には「コスパが合わない」と思い込んでいた、と言ったほうが正しいかもしれません。ファッションブランドである以上、生地からオリジナルのデザインで作らなければいけないのではないかと思っていたんです。私たちのブランドはブランド名を大きく打ち出して勝負するブランディングをとってこなかったし、お客様からは、私のニットやテキスタイルを作る感覚を評価されているという感覚がありましたから。一見「普通のTシャツ」なのに、1枚で2万円くらいになってしまう。それを販売していくのは難しいのかな、と。
村松さんのブランドでは、「手仕事」から生まれるものづくりのすばらしさを伝える、ということをコンセプトの1つにしていたので、それはそのあたりからきているお考えもあってのことだったのですね。
もちろん、ベースは既成のものを利用して、そこにプリントするだけのTシャツを作ることもできたと思いますが、「私たちのブランドコンセプトと合うのか?」ということ以上に、自信がなかったんですよね。わざわざ私たちの服をお客様が選んでくださるのかな、と(笑)
ファッションブランドにとって、ロゴプリントのグッズというのは、いわば「ファングッズ」です。ブランドのファンでなければなかなか手を伸ばさない。そこに自信をもてなかったということですね。
一方で村松さん、実は自分たちのブランドコンセプトに合っていて、さらに「ファングッズ」ではないTシャツを作ろうとしたこともあったのだそうです。
実は、無地のTシャツを一度作ったことがありました。素材を徹底的に吟味して、パターンや縫製を研究し、高品質で着心地も最高のTシャツを作りました。買ってくれた人からは大好評で、購入してくださった方は皆さん大絶賛してくれました。価格は1万円台前半だったと思います。自信をもっておすすめできるTシャツでしたが、そんなには売れませんでした(笑)実際に着てみなければ良さがわかりません。「パッと見」で良さが伝わらないものに手を伸ばしづらいのは、当たり前のことですよね。
今回初めてブランドロゴの商品の発売に踏み切ったと言う村松さんですが、過去にいろいろな挑戦があった上でのことだったということがお話からわかりました。
今回、ロゴをプリントした商品を作ることにした一番大きな理由は、「すてきな職人さんと出会えたから」です。(※それに関する詳しい話は後ほど。。。)大量生産で安心・高品質なことで知られるベースのTシャツを使うこと。生地もいい、縫製もいい、そういうものを利用して、これまでの考え方とは別のコンセプトで、ブランドロゴのプリント商品を作ることに決めたんです。
ファッションブランド「muu:ムーク」とニット専門のセカンドブランド「AND WOOL:アンドウール」。2つのブランドの運営を通して、村松さんはここ1年で状況が大きく変わったと言っています。
多くの人が私たちの活動を知って、それに共感し、協力したり応援したりしてくれるようになりました。昨年の春頃には、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった、というくらい、今ではたくさんの方たちに私たちの活動に参加してもらえるようになりました。そこで、私たちのブランドのロゴプリント商品を「ファッションブランドとしてのコミュニケーションツール」として作りたいと考えたんです。今回作った商品が、本当に私たちのコミュニケーションツールになり得るのかどうか、ある意味挑戦でもあります。
■ブランドロゴをプリントした商品を作る
「ファッションブランドのコミュニケーションツール」としてブランドのロゴ入り商品を作ろうと考えたと言う村松さん。ロゴを大きく入れているのは、そのためなのでしょうか?
もちろんそれもあります。「コミュニケーションツール」として機能するようにデザインしました。そして、ブランドのロゴプリントグッズとして、一番スタンダードなデザインにしたいという思いもありました。私たちの初めてのグッズですから、最も「スタンダード」なものにしたかった、そんな考えです。
ちなみに、Tシャツのベースは国内の会社が中国で作っている、品質の高いものを選んだそうです。村松さんは海外にパートナーを多くもちながらも、自身のブランドは、国内の生産工場や職人さんたちの技術を生かしながら製品開発をすることを得意としています。ものづくりの現場を大切にするという考えから、今回も国内の会社のTシャツを使用したいという思いがあったそうです。
そして、Tシャツと合わせて作っているこちらのトートバッグには、さらなる秘密があります。
私たちのブランドでは、就労支援事業所さんにお仕事を発注して、製品製造をお手伝いいただいています。その中の1つの事業所さんと「バッグを作れないか?」という話は、すでに2年ほど前から試行錯誤していました。今回のトートバッグには、右上にシルバーのタグをビスで打ち付けています。この作業を、そちらの事業所さんにお願いすることにしています。
つまり、このトートバッグが売れると、就労支援事業所さんに雇用が生まれるという仕組みです。
そうなんです。シルバーのタグが「赤い羽根募金」の羽のような役割になったらいいなと思っています。これが付いているアイテムを使っていただくことが、私たちの「雇用創出プロジェクト」にご協力いただいた目印になるような。そのような形で広がっていったら、とてもハッピーだなと思っています。
7月1日からレジ袋が有料化されました。エコバッグとしても、こちらのトートバッグを活用してもらいたいと、村松さんは言っています。
会社帰りに、休日にと、頻繁に使うエコバッグとして利用しやすいように、生成りの生地にロゴは白でプリントすることにしました。ロゴが目立ちすぎないようにすることで、どんなお洋服にも合わせていただけるように。皆様のファッションの邪魔にならないようにデザインしています。またこちらのサイズと生地の厚さは、私たちがこれまで販売してきた様々なトートバッグの中で、一番人気で長く使ってもらえているタイプです。使いやすさを優先して、作っています。
■職人さんとの出会いがなければ実現できないこと
先にお話が少し出ていましたが、今回、村松さんがブランドロゴをプリントした商品の制作に至った背景には、すばらしい職人さんとの出会いがあったのだそうです。
それが「Su&Kuu:スー アンド クー」さんです。「シルクスクリーンプリント」を主として、転写プリントやワンポイント刺繍も行なっているプリント工場です。
「Su&Kuu」さんでは、プリントをきれいに行うために、一度乾かしてから同じ場所に二度プリントしたり、よく乾かすためにプレス機で熱を加えたりと、デザインによって微妙に加工内容を変えているそうです。例えば、お洗濯を繰り返すことでTシャツのプリントにヒビが入ってしまうことってありますよね? 今回の私たちのブランドロゴには、お洗濯を繰り返してもそのようなヒビが入らないような工夫をしてプリントしてもらっています。素材に合わせた最善の加工方法を選んでいただきました。
「Su&Kuu」は、代表取締役の鈴木大直さんと取締役の原崎空さんが、お2人で立ち上げた会社で、「シルクスクリーン」プリントが体験できるワークショップを行うなど、積極的な活動を行なっているそうです。
私が「Su&Kuu」さんとお話して、刺激を受け、すてきだなと思ったのが、お2人がプリントやTシャツのことがとても好きなのが伝わってきたし、よく知っているということでした。私が知らないようなことを教えてもらいながら、一緒にいいものが作れると確信しました。既成のものでも、いいものはいいです。それを使わせてもらって、さらに「Su&Kuu」さんの技術で、皆様に喜んでもらえる商品を作ろうと思いました。
「シルクスクリーン」のプリントは、最近では誰でも最低限の道具さえあればできるそうです。でも、微妙なニュアンスや感覚についても理解してくれて対応してもらえるプロに頼むことができて、本当によかったと村松さんは言っています。
1枚1枚プリントを仕上げる様子は、ぜひこちらの動画でご覧ください。
アパレル業界では「外注の外注」でものを作るというのはとても一般的で、私としては直接手を動かしてくれる方とお話ししながらものづくりをできることは、非常に恵まれた環境だと思っています。「Su&Kuu」さんと出会えなければ今回のロゴプリント商品はできなかったと思う理由は、そこにもあります。それに、「Su&Kuu」のお2人は、もともと別のプリント工場にお勤めされていたそうで、独立してから作業現場を飛び出してお客様と対面でやりとりすることで、相手がどんな雰囲気の仕上がりを求めているかがよりわかるようになり、自分の技法も存分に発揮してお客様に喜んでいただけることがほんとに楽しいとおっしゃっていました。同じものづくりをしている人間として、共感できる部分も非常に多く、信頼してお任せできるなと感じました。
村松さんと「Su&Kuu」さんが作り上げたTシャツとトートバッグ。ご興味のある方はぜひどうぞ。
似たようなTシャツ、似たようなトートバッグは、世の中を探せばたくさんあると思います。それでも「わざわざ」それを買う理由は、誰かの思いに支えられた細かい技術の積み重ねで仕上げられる「わざわざ」がたくさん詰まった商品だからではないでしょうか。そのような「ものづくり」の背景を知ることで、私たち使う側も、より愛着を感じながらものを大切にすることができるのではないかと思いました。
(記者:カミュ)
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