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企業案件のデザインの仕事を成功させるために必要なこと

ファッションデザイナーとして自身のブランドをもっている村松さんですが、企業からデザイン依頼を受けてプロダクト開発の中でデザインを担当することもあるそうです。自分の思いではなく、誰かの思いをデザインする仕事では、最終的にいい製品に仕上げるために、いくつかの重要なポイントがあると言います。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「企業案件のデザイン」です。


■企業案件で作った傘

村松さんのファッションブランド「everlasting sprout : エヴァーラスティングスプラウト(現muuc:ムーク)」の2020年春夏コレクションのアイテムの1つに、「日傘」があります。

「刺繍」のデザインが2パターン、「プリント」のデザインが3パターンあり、それぞれカラーは3色ずつ、「長傘」タイプと「折りたたみ」タイプから選ぶことができます。村松さんのブランドの中でも大変人気のシリーズで、毎年デザインが変わるため、過去のデザインへの問合せなども多いそうです。

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この傘は9年くらい前から、ある傘会社さんと一緒に作っている製品です。私たちのブランドでも販売していますが、お仕事を依頼してくださっている傘会社さん経由で、主に百貨店の傘売り場などで販売されている商品です。私のブランドは昨年の秋から「muuc:ムーク」とブランド名を変更しましたが、それ以前は「everlasting sprout:エヴァーラスティングスプラウト」という名前で活動をしていました。この日傘はその頃からの人気商品で、この日傘を「everlasting sproutの傘」として知ってくださっている方も多いかもしれません。このブランド名で浸透してしまった人気商品ですが、今後も引き続き作っていきたいと思っていますので、「muuc」になってもどうぞよろしくお願いします(笑)

実は今回「muuc」の2020春夏コレクションとして販売されている傘は、ブランドタグが「everlasting sprout」になっています。ブランドタグの切り替えのタイミングは来年からとのことなので、今年が「everlasting sprout」という名前での最後の傘になるそうです。

毎年、本格的な夏を迎える前には売り切れてしまうような状況で、過去のデザインのものに関するお問合せなども非常に多くいただいている商品です。傘会社さんからの依頼で作っている製品ですが、私たちのブランドを代表する商品の1つになっています。

村松さんはイタリアの「LINEAPIU(リネアピウ)社」という(ファッション業界の方ならば知らない人はいないと思います)高級糸メーカーに、特別研修生として留学されていました。帰国後、村松さんは世界的にもめずらしいニットの専門知識をもっているファッションデザイナーとして活躍されていますが、同じく「糸」の専門知識を必要とする刺繍やプリントといった「テキスタイルデザイン」も得意とされています。

私たちが販売している日傘には「刺繍」と「プリント」の2つのデザインがあります。「ボタニカル刺繍」と「フェンネル刺繍」というシリーズの傘は、特殊な生地に直接刺繍を施しています。一方、「ナズナ刺繍」「花壁刺繍」「チェック柄ニット」のシリーズは、手刺繍で作ったテキスタイルや、かぎ針で手編みしたニットモチーフなどを、特殊な技法で生地の上にプリントして表現して傘を作っています。本物の刺繍でしか表現できない立体感や質感もありますし、刺繍をプリントに落とし込むことでしかできない独特の表現もあります。どちらにもそれぞれの良さがあり、このような表現の違いを商品に取り込めることは、デザイナーとしても非常に楽しい仕事です。

企業案件で作っている商品にもかかわらず、ブランドを代表する人気商品になっていて、さらには村松さん自身も「楽しい仕事」とおっしゃっているように、自分たちの強みを最大限に生かしまがらのびのびとデザインができている、このようなことが実現できている背景には、どんな秘密があるのでしょうか?

■デザイナーと企業をマッチングさせる取り組み

村松さんに傘の制作を依頼しているのは、老舗傘メーカーの「オーロラ株式会社」さんです。百貨店の1階フロアなどで販売される、傘・帽子・ストールなどの製造販売を行なっている会社さんです。

2011年だったと思いますが、デザイナーと企業をマッチングさせるというプロジェクトがあって、そこでオーロラさんと出会いました。オーロラさんでは海外の高級ブランドの国内向け商品の企画・販売を主に行っています。その一方で、自社企画のプロジェクトも推進しており、その一環として、国内で活動するファッションブランドとのコラボレーションを行うというプロジェクトでした。

デザイナーと企業のマッチングは、両者にとってとてもメリットがあることです。デザイナーにとっては、企業案件を受けることで一定の収益を確保することができるので、自分のブランドの売上げのみに左右される不安定な状況を少なからず緩和できますし、技術者のほうが多いメーカーはデザインを外注で補うことができます。

私のデザインを必要としてくれて、仕事を依頼していただけたことはとてもうれしいことです。でも実は、オーロラの社内にもデザイナーさんがいらっしゃって、オーロラさんとの仕事がうまくいっているのはこの方たちの存在が大きいんです。傘のプロフェッショナルとして非常に優秀な方たちで、私の知識の足りない部分を補ってくれたり、私とは違う視点からアドバイスをしてくれたりします。9年近く一緒にお仕事をしてきた中で、担当者の変更などもありましたが、年々意思の疎通がうまくできるようになっていると感じています。

メーカーなどの社内にいるデザイナーさんは、その会社のプロダクトの専門知識をもっていて、さらに「会社としてどのような製品を必要としているのか?」ということも把握しているので、外部から仕事に関わるデザイナーとは違う視点から、最終的に一番いい形に製品を仕上げることを考えてくれるそうです。メーカーというと技術職が主役と捉えがちですが、機能性だけでなくデザイン性も高いプロダクトを開発するためには、このデザイナーさんたちの存在が欠かせないということなんですね。

■企業案件の仕事を成功させるには?

デザイナーとして駆け出しの頃から、たくさんの企業案件の仕事をしてきた村松さんですが、やはり「マッチングは難しい」とおっしゃっています。うまくいくケースとうまくいかないケースが明確に分かれるそうなんです(笑)

そこで、村松さんとオーロラさんの日傘がうまくいっている理由について、さらに詳しくお話を伺ってみました。

まずは、先ほどお話ししたオーロラさんの社内にいるデザイナーさんの存在です。こちらに負担がないようなやり方を考えてくれて、自由にやらせてくれながらも、私たちのアイデアをより良くする方向に進めてくれます。この方たちがいなければ、こんなにうまくはいかないと思います。企業の中にいるデザイナーさんとの仕事では、お互いに足りていないことがちゃんとわかっているとうまくいくと思います。

村松さんのデザインの強みを生かしつつ、それを「傘」というプロダクトに落とし込むことができるのは、傘のプロフェッショナルであるデザイナーさんがサポートしてくれているから。お互いに補い合える関係になっていることが、大切だということなんですね。

それからオーロラさんの場合は、デザイナーさんもそうですが、重役の方々も、とてもセンスが良くて、ファッションのことをすごくよくわかってくれていることが大きいと思います。その上で、私たちの好きなものをわかってくれて、汲んでくれる。最終的な社内の決裁権をもっている方たちがみんな、私たちのことを「信用してくれている」。もしかしたらこれが一番大きいかもしれません。みんなこれがなかなかできない(笑)これがほんとに難しいことなんです。

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すてきな傘ですよね。この世界観を共有できていること。村松さんとオーロラさんの傘の成功の一番の理由は、そこなのかもしれません。

実はこの傘とても「安い」んです(笑)いえ、決して安くはないのですが。。。傘に使用されている生地は、紫外線遮蔽効果に大変優れている「サマーシールド生地」という特殊加工された生地で、東レが開発して特許をとっている高性能のものです。遮光効果は99.99%以上、紫外線(UV)カット率99%以上、顔に影ができるほどの日陰効果があり、しかも晴雨兼用です。そして、その生地に刺繍を施すことや手刺繍をプリントするのも特殊技術で、さらには、持ち手の木には天然素材を使用、はじき(開いた傘を固定させる金具の部分)の部分には指をはさまないようにプラスチックのカバーを付けています。長傘は柄の部分を2段階にして長さを調節できるようにして、大きなトートバックならばしまえるようにしました。折りたたみ傘は約190gk~210gと軽量に。「これだけの機能があることを考えると安い!」気に入ってくれているお客様は、きっとそう思ってくださっているのではないかと思っています。

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ちなみにこの日傘には、専用のギフト布袋があるそうです。今週末の「母の日」にも大変おすすめの商品ですよ!(最後に宣伝のようになってしまってすみません……笑)

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クリエイターやアーティストの方には、実は「企業案件の仕事」に悩まされているという方は多いのではないでしょうか。そのような状況の中でいい会社やいい仲間と巡り会えたときには、「最高の仕事をしよう!」と思えるはずです。そんなふうにして生まれた製品は、ユーザからも愛情をもって迎えられるはず。村松さんとオーロラさんの傘が、たくさんの人に届けばいいなと思いました。


(記者:カミュ)


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