見出し画像

セールイベントをやらないブランドが「ワケあり」商品のセール販売をする理由

新しい年が始まったこの時期、百貨店やオンラインショップなどでは、さまざまなブランドの「セール販売」が一斉に始まって賑わいます。この時期を待って、ずっとほしかったアイテムを手に入れている方も多いかもしれません。消費者である私たちにとって「セール販売」というのは、ある意味「ありがたいもの」です。一方で、ブランド側にとってこの「セール販売」とは、一体どんなものなのでしょうか?

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「セール販売」です。

画像6


■セールはブランドにとって良くないこと?

村松さんはこれまで15年間、自身のブランドの運営をされてきています。その中で活動を重ねるにつれて、セール販売に疑問を持ち、セール販売を行うことを積極的に行わないようにしているそうです。

自分たちが管理している売り場では、セールはほとんどやっていません。もちろん、私たちの服を、卸の販売先がセールをやることを無理に禁止したりはしていませんが、積極的に行わないのがブランドの方針としてあります。

村松さんはセールに対して、否定的な考えをもっているということではないそうです。そうではなく、自分たちのブランドの「デザインコンセプト」を大切にすることを考えたとき、セールを行うことが妥当かどうか?があくまでも判断の基準になっている、とおっしゃっています。

「数十年後も価値があるような洋服を制作する」ということを、私は自分のブランドのデザインコンセプトの1つとしてとても大切にしています。「古着」は安く購入できますが「ヴィンテージの服」は価値が出て逆に高くなる、というような感覚ですね。そんな服を作ることを理想としているんです。実際に、私のブランドで今まで制作してきた洋服たちの中には、もう作ることができないものが多数あります。作れる技術のある職人さんや工場がなくなってしまったため、もう再現できないんです。そういう「価値ある洋服たち」を生み出すことができる「モノづくり」を大事にしています。

時が経って価値が下がった服をセールで値段を下げて安く売る、ということとは完全に逆のコンセプトですね。

今のモード(流行)も意識しつつ制作をしていますが、意識しすぎないことも同じくらい大切にしています。それによって数年後、数十年後でも格好良く着れる服を制作しているつもりです。服に消費期限を付けて消費期限切れの服は安くする、ということを始めからしないということです。

「売れなくなったものを安く売る」という悪循環にはまらないような仕組みが、村松さんのブランドでは服を作る段階からあるということなんですね。

それに、定価で購入してくださった方が、そのすぐ後に同じ商品が安くなっているのを見たら、「この服人気ないのかな」「もう少し待てばよかったな」と嫌な気持ちになりますよね。私たちのブランドには、毎シーズンのコレクションを発表すると、服を予約して購入してくださるお客様もいるんです。そんな、私たちのブランドを愛してくださる一番大切なお客様の満足度を下げずにすむ、これもセールを行わない理由の1つです。

画像2


■セールをせざるを得ないアパレルの事情

村松さんのお話を聞くと、セールを行わないことがブランドにとっては一番いいように思えます。しかし実際には、多くのブランドがセールを行っていますよね。これはなぜなのでしょうか?

「供給過多になっている」ということが理由の1つにあると思います。日本のアパレル事情として、人口(お客様)は減り続けているのに市場に出回る商品(製造)数は増えている、そのせいで洋服の価値がおかしくなっているのだと思います。セールをせざるを得ない状況があるんです。私たちも小さい会社なので、常にキャッシュフローは重要ですから「在庫は早急に現金化したい」という事情もあるので、このことはとてもよく理解できます。

そうなると、小さな会社ほどセールを行わないと厳しい状況に追いやられてしまうように思えますよね?

そうです。だから私たちのような小さな会社は大変です(笑)でもそこを意識すぎていつも応援してくださるお客様をがっかりさせても、「ファンが減る→長期的に売上が下がる」という悪循環に入り、ブランドにとってはリスクが大きいと私は考えています。ファッションブランドが、率先してセールをして安く商品を出せば出すほど、皆さんの価格への不信感は強まるのではないでしょうか。

確かにその通りかもしれません。買い物をするとき、「どうせバーゲンで安くなるんでしょ」と心のどこかで思っているところがあるような気がします。もともとセールを行わないブランドの服は、そんなことを気にする必要もなく、安心して購入できているかもしれません。

私たちのような小さな会社が率先して「できるだけセールをしない」という環境づくりに取り組むことで、「服の価値や価格を壊さない」ことは、いいことだと思っています。

画像3


■みんなが幸せになれるセールがしたい

村松さんは現在、15年間続けているご自身のファッションブランドの他に、3年前からセカンドブランドとして立ち上げた、ニット専門のブランドやショップの運営をされています。

実はこのニットブランドでは年に2回「ワケあり市」という名前でセールを行っているんです。なぜ、自分のファッションブランドでは行わない方針のセールを、もう1つのニットブランドやショップでは行っているのでしょうか?

理由の1つに、3年前から活動の拠点を静岡に移したことがあります。私は自分のファッションブランドではセールは行わないという方針をとっているというだけで、セールを否定しているわけではありません。私自身も消費者として「セール」「安売り」という言葉は大好きですよ(笑) 私が現在運営しているニットブランドのアトリエは、静岡県の山間にポツンとあるようなお店です。そこに足を運んでいただくきっかけ作りのために、このブランド・ショップではセールをやろうと決めました。「お得」と感じられる商品があると、お客様もワクワクしながら足を運んでくださいますし、楽しんでもらえます。お買い得な商品を探して購入するのは、その行為自体が楽しいですよね。

画像6

確かにお客さんには楽しんでもらえるかもしれません。ただ、村松さんたちブランド側としては、先ほどのお話から考えるとあまりいいことではないように思えますが?

実はもう1つ理由があるんです。それは、私たちが「ものづくり」をする上でどうしても生まれてしまう「B品」や「事情があって販売したくてもできない商品」がたくさんあるということです。例えば、私たちが取り組んでいる「編み職人を育てるプロジェクト」では、不慣れな人が作ってサイズが少し小さくなってしまったり、製造の過程でキズができてしまったり、いろんな理由で売り場に並べることができない製品がどうしてもたくさん出てきてしまいます。正規品として販売することはできませんが、捨てるにはあまりにももったいない。そんな製品のみを「ワケあり市」では出しています。品質にまったく問題のない正規品を「販売時期を逃したから」「すぐに現金化したいから」という理由でセールに出すことはしていません。

つまり、村松さんたちブランド側にとってもいいことがあるセールをする、ということですね。

その通りです。要はやりかただと思うんですよね。繰り返しになってしまいますが、セール自体を悪いことだとは思っていません。私も、パンの耳とかカステラの切れ端の袋詰めとか、大好きですから(笑)セールは、消費者にとってはとてもいいことですし、私たちブランドにとってもやり方によってはとてもいいものになるんです。お客様が足を運んでくださるきっかけになりますし、本来販売できなかった商品を「販売→現金化」できることで新しい「モノづくり」に挑戦することができるようにもなります。結果、お客様にいい商品を届ける環境づくりにつながって、いい循環が生まれるんです。

ブランドが、自分たちの首を絞めることになるような「セール販売」ではなく、関わるすべての人にとっていいことがあるようなセールのやり方が大切なんですね。村松さんはブランド運営においてあらゆる面で「みんなが幸せになれる仕組みを考える」ことを大事にされているのだなと思いました。

最後に、今回の記事に出てきた、村松さんのニットブランド「AND WOOL」の「ワケあり市」の詳細を下に。静岡県島田市の村松さんのアトリエで開催されるイベントです。お近くの方はぜひお尋ねください。


*お知らせ

画像3

▼「AND WOOL」【ワケあり市】
・日程:2020年1月10日(金)−12日(日)
・営業時間:11:00−18:00
・場所:「AND WOOL」店舗(静岡県島田市湯日1124-1)

「AND WOOL」オンラインショップ【ワケあり市】
・日程:2020年1月10日(金)12時頃から
・販売期間:売り切れ次第終了
・販売サイト:https://www.andwool.com

*「AND WOOL」の他、ファッションブランド8組が参加しています。普段「AND WOOL」では販売されていないブランドの商品も並んでいますのでぜひこの機会にどうぞ。
*1月10日(金)、1月11日(土)の2日間は「AND WOOL」内の珈琲スタンド「lana café」の営業もございます。
*1月11日(土)は、近所の農家さんたちの新鮮な椎茸やお芋も販売します。
*毎回たくさんのお客様にご来店いただいておりまして、駐車時にご不便ご面倒をおかけすることが出ております。よろしくご協力ください。


(記者:カミュ)


いつもありがとうございます。活動を、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。いただいたサポートは、それを「伝える」このnoteページを充実させるために使わせていただきます。これからもどうぞよろしくお願いします。