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季節が逆転するファッション業界のものづくり

冷たい空気に寒くて凍えそうになりながら春夏の商品を販売したり、強い日差しに汗をかきながら秋冬の商品を販売したり、ファッション業界のシーズンスケジュールは、実際の季節感をまったく無視して行われているようにも見えます。でも、物流のシステムを考えれば、これはある意味当然のこととも言えます。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「季節が逆転するファッション業界のものづくり」です。

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■次のシーズンのコレクションの準備

村松さんは現在、次のコレクションに向けての準備で、日々、全国を飛び回りながら服の制作を急いでいるそうです。ここで言う「次のコレクション」というのは、具体的には「2020-21年秋冬コレクション」のことです。

ブランドによってものづくりのスケジュールは異なりますが、私のファッションブランド「muuc(ムーク)」では、新シーズンのコレクション発表は年に2回。おおよそ「春夏」と「秋冬」に分けて行います。私たちは「春夏」コレクションは9月に発表して、「秋冬」コレクションは3月に発表します。発表後に受注して、実際に生地や服が生産され始めるのは、そこから約1~2ヶ月後になります。

服が実際に出来上がって販売されるまでの間の受注期間は、まだシーズン前になります。季節が逆転している中で商品の予約販売が行われている理由は、ここにあるんですね。

「muuc」では、現在、来年(2020年)の秋冬に販売する服を作っています。間に合うかな……(笑)と毎日とても不安です。来月には今回のコレクションの服をすべて仕上げて、LOOK BOOKの撮影なども行い、展示イベントで皆様にお披露目できるようにしなければなりません。ちゃんとできることを、どうぞ祈っていてください。。。(笑)各工場の現場の皆様、何卒よろしくお願い致します!!

今、まさに服の制作の大詰めだと言う村松さんに、さらに現場の様子など、服作りについてお話を伺いました。

■工場さんとのものづくり

村松さんのファッションブランド「muuc」では、「服のストーリをいくらでも語れるブランドであること」をブランドの基本姿勢の1つにしているそうです。

さらに、村松さんがディレクターを務めるニット専門のセカンドブランド「AND WOOL(アンドウール)」では、「作り手や素材など、すべての工程を顔が見えるようにしたい」という思いをもって、取り組んでいらっしゃいます。

それぞれのブランドの思いを実現させるために、私は、一緒にものづくりをしている工場の現場に、できる限り足を運ぶようにしています。最初のブランドを立ち上げた15年前、まだまだデザイナーとしては駆け出しだった頃にも、よく工場に足を運んで、職人さんからいろいろなことを教えてもらっていました。

現代のような大量生産大量消費の時代の中で、デザイナー本人がわざわざ産地までデザインの相談や素材を丁寧に見るために足を運ぶことは、稀だと言います。

なぜ村松さんは、わざわざ時間と手間をかけて、工場へ足を運んで現場を見るのでしょうか?

■上質なものは人の手から生まれる

私が工場へ足を運ぶのは、もちろん、先ほどご紹介した2つのブランドでの基本方針を実現したいと思っているからです。でも、それ以外にも理由はあって、上質な製品が生まれる瞬間は、やはり「ものづくりの現場」にあると考えているからです。そこに行かなければわからないことがたくさんあり、それによって、自分が目で見て、職人さんとお話しながら、肌で体験したことからしか生まれない製品を作ることができると考えています。世の中にたくさんいいものが溢れる中で、自分にしかできないものを作ろうと思ったら……私にはそれしかできないんじゃないかと思って、そんな気持ちでできる限り工場など、ものづくりの現場には足を運びたいと思うようになりました。

ここに、村松さんが次のシーズンに向けて準備している製品の、現場を回られたときに撮影された写真がありますので、どうぞご覧ください。

▼静岡県浜松市のリネン・コットン工場

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こちらは静岡の「遠州織物」の工場さんです。写真は、織った後に風合いだしを行う加工場ですね。昔ながらの機械で作っている、とても上質な生地です。非常に強いこだわりをもって、リネンを作っている工場さんだと思います。実際に本当に素晴らしく、私たちのお客様にも、こちらのリネンにはファンが多いです。もちろん、次回の私のブランド「muuc」の秋冬のお洋服でも、こちらのリネン生地を使わせていただきます。どうぞ楽しみにしていていただければと思います。

↓「muuc」で販売中の「リネンタックカフスワンピースドレス ブラック」

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↓「muuc」で販売中の「リネンタックカフスワンピースドレス  イエロー」

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↓「muuc」で販売中の「リネンドレスコート

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▼愛知県一宮市の糸工場

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高い技術力で上質な糸の製造を行っている糸工場さんです。ここでは「シルク・絹紡糸」の中でも「5Aランク」と呼ばれ、ハイブランドでも使用されるような、選りすぐりの原料による糸の製造も行われています。私のニットブランド「AND WOOL」では、こちらの工場が製造した「シルクリネン糸」の販売も行っています。(シルクリネン糸に使用している原料は、絹紡糸とは異なり「紬糸」と呼ばれるものを使用しています。) この糸を使ったストールを編むワークショップなども開催しておりますが、毎回お客様から大変ご好評をいただいております。現在、次の「AND WOOL」の秋冬の商品のために、「カシミヤシルクコットン」の糸を工場さんと一緒に開発中です。

↓「AND WOOL」で販売中の「シルクリネン糸

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▼岐阜県羽島市の生地工場

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ご夫婦お2人で、50年近くやっている織屋さんの現場の写真です。写真の織り機も30、40年前のものらしいです。産地を回っていてよく耳にするのは「後継者がいないために、5年、10年でこの産地はなくなるだろう」という話です。これは私個人の見解だったり、好みの話でもありますが、この生地屋さんのように、昔ながらの機械で織られる天然素材の生地は、ふっくらしていて肌触りがよく、現在の技術力でできる化学繊維の生地や、超大量生産により作られる生地と比べると、まだまだ着心地の面で優れているような気がしています。実際に、私のブランド「muuc」のお客様にも、そのような点を気に入ってくださる方が多いので、今回は良いリネンウール生地を作っているこちらの生地を使わせていただくことにしました。次回の「muuc」のコレクションで、この生地にさらに刺繍をして、お洋服を作ります。

季節が変わって、いよいよ薄手のお洋服が少しずつほしくなってくるこの時期、ファッションブランドのものづくりの舞台裏では、次のシーズンに向けてのものづくりがどんどん始まっているんですね。その現場からどんな素晴らしい製品が生まれるのか、とても楽しみです。


▼「muuc」公式オンラインショップ
https://ever.theshop.jp

▼「AND WOOL」公式オンラインショップ
https://www.andwool.com

(記者:カミュ)


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