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甘い香りと酸っぱい味


 帰り道に、中華食品店の前を通る。ここは店内から店主のおばさんと常連客の中国語が耳に飛んできて少しドキりとする。最近このお店が、なぜか店頭で野菜や果物を売り始めた。みかんとか、にんじんとか、見るたび違うけど数種の野菜と果物が売られている。

 いちごだ。

 店頭にいちごが並んでいた。まだこの世に生のいちごが存在したとは。立ち止まると中からおばさんが出て来て「買うかい?」と詰め寄られてしまいそうで怖いので横を通り過ぎながらチラと見た。それだけでいちごの香りが漂ってきて、ああ甘いなあと目を細めた。

 いちごが甘いのは香りだけだと思う。食べたら酸っぱいし、水っぽい味がする。昔、たまに母がどこかからいちごを手に入れて(わざわざ買ってはいけない気がする、頂き物だろうか)洗って水を切ってザルに放り込まれたいちごが冷蔵庫にあった。扉を開けるたびに甘い香りだけが楽しみで、あとは「食べないともったいないけど別に食べたくない」というむず痒い葛藤の素でしかなかった思い出がある。

 大体1日経つと母が「食べないの?おかん食べちゃうよ」と声を掛けて来て、いざ無くなると思うと胸がムズムズして練乳と小皿を手に食卓へはせ参じる。そうしてありついたいちごはやっぱり酸っぱくて水っぽくて、練乳で誤魔化して数粒食べて「もういらない」「いいの?」「うん」、と自室へ引っ込む。

 いちごの加工品は好きだ。今スタバでやっている期間限定のいちごも狙っている。日々食欲とカロリー制限の板挟みに困っているなか、あの高カロリードリンクを飲むタイミングを図れず期間を逃す可能性が大だ。

 いつか、高級ないちごを手にすることがあったら、香りだけでなく味も楽しんでみたい。ヘタをちぎって、ヘタの跡地を指でつまんでひと口で半分かじる。「お、甘い」「私の分、取っておいてね」練乳を冷蔵庫に戻す。いつかそんな日が来ると良い。


 今日はここまで。

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