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小説を売る自販機に、13人の想いが光っていた

11月の3連休、渋谷駅を訪れました。先日インタビュー記事を書かせてもらった後輩が、ついにクラウドファンディングの集大成のポップアップを開くというのです。東急線の改札口を出てすぐの、とてもいい立地に構えていたのは「小説の自販機」でした。

インターン時代に知り合った後輩は、イギリスの大学でジェンダーなどを学んできた女性で、彼女自身の強い課題意識がありました。ただ、学術的に正しいとされていることを言ってもフェミニストと一部の人から猛烈な反発を受けること。そして一度レッテルを貼られると言葉が届かなくなることも感じていて、今回はいいことも、悪いことも、ありのまま書こうと今回の13人の小説を販売する活動に至りました。

この13人の中には、女性であることを楽しんでいる人も、苦しく感じたことがある人も、LGBTの人も、学生も、夜職の人も、お母さんもいます。世の中に自然に起きていることを、どんなふうに13冊にしたのだろう。私は楽しみにしていて、だからこそインタビューも書かせてもらえないかと依頼したのでした。

渋谷駅を、少し迷いながらも進んでポップアップに辿り着きました。駅の中にこんなに大きいブースを借りられるんだな。ここすごい人通りだな、と見慣れた場所を切り取って存在するスペースを眩しく見つめました。

呼び込みのスタッフに後輩を呼んでもらって話を聞くと、どうやら知り合いだけではなく通りすがりに足を止めてくれる人も一定数いるそうなのです。知り合いの輪を超えて活動と声が届いていくことや、何よりもまず興味を持ってもらうことの第一ステップを乗り越えているようです。クラウドファンディングをやってよかったね、と純粋に強く思った瞬間でした。

小説を自販機から買うというのも、なかなか新鮮な体験です。ボードにそれぞれの小説のフレーズが書かれていて、このお話はこんなふうな内容かなと想像します。これは読んでみたいな。これは私も覚えがあるな。これは私が触れたことない価値観だから読みたいな、とそんなふうにしばらく吟味を重ねながら3冊選びました。1冊100円。パタン、と冊子が落ちてくる感覚が嬉しくて、丁寧に包装されているのをみてもっと気持ちがあたたまります。

6番のあおいさん、8番のまいさん、10番のみのりさんのお話を買いました。全員、全然違う思いで生きていました。

これは〇〇の話、と一言で片付けてしまいたくはないので、そういう紹介は避けますが、私はこの中だと今の自分はみのりさんの話にすごく共感するなと思いました。何歳で結婚して、そうじゃなきゃ卵子凍結とかしなきゃかなとか、そういう人生の流れの中で描きたいもの、自分の年齢、そして女性性を意識せざるを得なくなってきたから。子供が欲しいと言っている女友達と話すときには、最近絶対に話題に上がる会話だけれど、男友達といてもそんな話にはならない。それは同性だとか異性とかを飛び越えて、そもそもキャリアにおいて考える必要がないから、若さがより求められる生物的役割が違うからだと突きつけられます。

共感も、発見も、本を読んで女性である私にもありました。人の人生って本当にそれぞれだと思うし、当事者しか感じ得ないこともたくさんあって、でも表に出てくるものはほんの一握りだと思うんです。そばにいる人ですら理解仕切れないけれど、私たちは社会に生きるものとして存在を知っておいた方がいいこと、固定観念を打ち破らなくてはいけないことってあると思っていて、そうすることで自分だけの立ち位置から見るのではなく、少しずつ広げることができるのかなと思っています。

さて、このポップアップの結果、なんと売り切れが出るほどの大盛況だったそうです。イベントにあたり、企業からの協賛金も獲得し、また偶然駅を通りがかった出版社さんと電子書籍化の話が出ているとか。今後どんなふうに活動が広がっていくのか、楽しみです。


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